なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』

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「ドリンクのペットボトルの水が500円なんて高くねーか?」と、
ジャパニーズ・ハードコア・パンクの大御所バンドがステージ上から異を唱えたという話を聞いたことがある。
実際にそのライヴ・ハウスの場にいて聞いたわけではないからバンド名は伏せるが、
以降も素朴だからこそポイントを押さえた苦言を呈するバンドだから実際にMCで言ったのだろう。
的を射ていると思った。
もっともぼくはミネラル・ウォーター類に限らずペットボトル飲料の商品自体を普段まったく買わないが。
外で何か飲みたくなったときは後に人と話す仕事が入ってなければ買うのは缶の“第三のビール類”だし。
ボイコットしている意識はないが直感的にペットボトルの飲み物には色々と違和感を覚える。
ましてや水500mlに金500円なんて考えさせられるだろ。

いつでもどこでもなペットボトル飲料の使い勝手の良さは否定できない。
特にペットボトルの水は必要な地域は世界中に存在するし、
水にしたって飲める状態に至るまでに時間と労力と金がかかる。
ミネラル・ウォーター類もビールやジュースみたいに、
水源や精製の仕方で個性を際立たせて“単なる水”とも言い切れず、
水道水とは違うものを目指してエネルギーを燃やす“技術者”の方々にも敬意を表したい。

そういったことを踏まえた上でも考えさせられる映画だ。
降雨量の問題で水を確保すること自体が大変な国はもちろんこと、
いわゆるインフラが最低限整備された国も無関係の話ではない。

ジョージ・ブッシュによるイラク戦争は“石油戦争”の一面もあったが、
たいていの地域では石油がなくても生きていける。
けど水がなければ誰もが生きていけない。
言い方を変えると水を支配すれば世界を支配することも可能というわけだ。
原題が“BLUE GOLD:WORLD WATERS WARS”という本作は、
そんな“水戦争”前夜の状況に焦点を絞っている。


監督のサム・ボッゾ(69年米国生まれ)がこの映画の制作に着手したきっかけは、
本作のプロデューサーのサイ・トリビノフから手渡された映画の“原作本”の『「水」戦争の世紀』。
サイ・トリビノフは、
水資源を求める異星人のデイヴィッド・ボウイが地球に降り立つ76年の映画『地球に落ちて来た男』の、
エグゼクティヴ・プロデューサーだった。
だが水を求める話はSFの世界のお話ではなく地球の中で衝突しながら進行しつつあり、
そういう各地における闘争の状況を提示しつつ“Protest and Survive”そのものの映画に仕上がっている。
米国、カナダ、インド、ボリビア、スロヴァキアなどの関係者の発言を中心に、
平易な図解や“闘争”の映像を交えながら話を進めていく。

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英語の言葉の“rival”[ライバル、競争相手]は“river”[川]を語源にしているらしく、
原始の時代から川の水をめぐる争いが生じていたことをまず押さえておきたい。
アフリカ大陸をはじめとして今や諸資源の取り合いの争いが目立ってきているが、
“水資源”をめぐる軋轢も増えてきている。
イスラエルvsヨルダンvsレバノン、
エジプトvsスーダンvsエチオピア、
トルコvsシリアvsイラクなど、
現に国家同士の小競り合いが起きている。

確かに水と平和はタダじゃない。
水も飲める状態にするには膨大な労力と金がかかる。
だからこそ水は限りなくfreeな状態にしておきたいと思う反面、
自由であったらあったで付け狙う連中がいることも描く。

国家もさることながらこの世界で権力を握っているのは民間の大企業、
特に多国籍企業である。
ポリティカルなパンク・バンドが様々な面で攻撃してきているネスレ(Nestle)も、
映画の中でネタにされている。
大統領在任中から石油だけに飽き足らず着手していた水の権益に対するジョージ・ブッシュの執着心も報告。

国民の生活に必要な水を確保するための闘いをしている政治家もいるだろうが、
腐敗した政治家や権力者の手によって“水に対する権力”を増す大企業も存在する。
水の民営化への疑問も本作の重要テーマの一つで、
“放任”された多国籍企業は貧困国家の経済的な弱みをついて水資源の独占を試みる。
水の値段が猛烈に高騰して市民が立ち上がった南米ボリビアにおける2000年のコチャバンバ水紛争では、
命のためのデモでコカ(≠コカイン)栽培問題とも絡み合って双方がエスカレートして死傷者も出し、
ショッキングなシーンも映し出す。
一方では“水は資源”と異議を申し立てた一市民に対する企業の“脅迫”から至った裁判闘争の話や、
水源地ならではの牧歌的なプロテスト映像も流される。

アフリカのケニアでは、
瓶のコカコーラよりもペットボトルの水の方が高価という話も紹介される。
ビールだってコーラだって作るには水が必要だが、
どこかで値段に差が付けられるのだ。
水は人間だけではなくすべての生き物の命の液体だから、
水→飼料用の穀物→食肉用動物…という流れで食い物の問題にもつながる。
肉食を増やすことによって他国で作られる穀物に必要な水の量も増え、
結果的に水も“輸入”していることになる。
さらに国家間の経済格差などが元のいわゆるフェア・トレードにまで話は広がっていく。


例によって“反~~”みたいなおめでたいスローガンで割り切れる話ではないし、
樹海に迷い込んだみたいに気持ちにもなった。
考えれば考えるほど問題は絡み合って頭痛がしてくるほど問題は山積みである。
これでも世界中のほんの一部の状況だ。
一回見ただけのぼくもすべてを飲み込めたわけではないし、
90分の間に次々とメッセージを投げかけるような展開で多少テンポが速いが、
活字などよりもダイレクトに切迫感が伝わってくる。
生活に密着しすぎているからこそ気づかない“水の命”について思いをはせることも諭す。

毎日の生活に追われる人にとっては外国とかのことまで思いをめぐらせることは重荷だが、
毎日の生活の中の潤いであり命だからこそ水に関することは、
毎日の生活の中で始められる。

最後にテロップが流れるところで映る一人の子供の“直接行動”は、
老若男女民族国籍地位関係なく一個人が為すべきことを示唆している。


●映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』
2010年1月16日(土) 渋谷アップリンクほか全国順次公開。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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