なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画“イエジー・スコリモフスキ 「亡命」作家43年の軌跡”

スコリモフスキちらし


1938年ポーランド生まれのイエジー・スコリモフスキの5作品が、
8月16日(土)から10月10日(金)まで東名阪で連続上映される。

近年も大メジャー映画『アベンジャーズ』に出演するなど俳優としての活動も続けているが、
やはりスコリモフスキはポーランドを代表する“映画作家”の一人で、
日本で開催されている“ポーランド映画祭”の監修も行なっている。
今回はスコリモフスキが監督/脚本を手がけた多数の映画のうち、
表現の自由に厳しかったポーランド政府に目をつけられて“映画亡命”をする直前の1967年から、
自由主義体制の国で映画製作を行なった70~80年代を経て、
祖国で完全復活を果たした2000年代~2010年までの、
節目になった5作品を抜粋して上映される。
ポーランドにこだわりつつ今回の5作品だけでも、
ベルギー、イギリス、フランス、ノルウェー、アイルランド、ハンガリーなどと交わることで、
ポーランドの人間としてのアイデンティティを浮き彫りにしてきたことが伝わってくることもポイントだ。

上映される5作品のうち最新の2作品の
『アンナと過ごした4日間』(2008年)『エッセンシャル・キリング』(2010年)は以前書いたから、
ここではその他の3作品を簡潔に紹介する。


出発
★『出発』1967年/ベルギー/フランス語/91分

まるで祖国から“出発”しようとしている意思をほのめかしたようなタイトルである。
政治色はゼロ以下でいちおう内容はそういうことと関係ないように見えるが、
最後まで観ると深読みもできる。
ジャン=リュック・ゴダールの『男性・女性』(1966年)の主演俳優ジャン=ピ エール・レオーと
カトリーヌ=イザベル・デュポール、
その撮影監督のウィリー・クラントを迎え、
まるでフランス映画・・・ヌーヴェル・ヴァーグそのもののトーンの映画だ。

ポルシェでラリーのレースに出場することを目指して四苦八苦するイケメン美容師の物語だが、
ロマンスをたっぷり絡めながらスコリモフスキ特有のナンセンス・シーンの挿入も抜かりなく、
馬鹿馬鹿しくも静かなるユーモアが滲み出ている。
クシシュトフ・コメダのサスペンス・タッチの軽快なジャズなどの音楽も絶妙で、
テンポのいい会話も軽妙だ。
車やバイクが頻発して映画全体もスピード感があるにもかかわらず飄々とした佇まいなのも、
まさに“スコリモフスキ節”。
黒が強めで遠景とアップの切り替えも粋な映像にも引き込まれてモノクロームでポップな贅沢時間を過ごせ、
晩夏から初秋にかけての上映がピッタリの涼しい快作である。


シャウトちらし
★『シャウト』1978年/イギリス/英語/86分

オーストラリア現状民の呪術師から授かった叫びの力を“武器”にした髭男の映画。
妻と平穏な家庭生活を送っていた気弱で人のいい音楽家の男が
教会の外で説教について語りかけてきた髭男を家に招待するも“何もかも”のっとられてしまう
哀感が染み出るグロテスクな物語である。
それほど時代や場面が“逆走”しない作りだからストーリーの大筋はわかりやすいと思うが、
例によって結論を提示するわけではなく入り組んだ仕掛けを設けた一筋縄ではいかない映画で、
色々な事象を絡めているからここで詳しく書くことはやめておく。
そもそも理屈抜きに見れば、そして“聞けば”ブッ飛ぶ映画だからである。
後の『アンナと過ごした4日間』に直結するスコリモフスキ特有の覗き趣味や変態風味もチラホラ顔を出し、
いかれた人間たちを登場させてもホドロフスキーのような露悪趣味にならないのもスコリモフスキ流。
不条理な構成力と映像力にも舌を巻くのみで、
静かなるクレイジーを演出する“温和なサディスト”スコリモフスキの真骨頂である。

もちろん数回轟きわたる“死のシャウト”は椅子から転げ落ちるほどのド迫力なのだが、
それ以外の音声の響きも強烈だ。
主要登場人物の一人の音楽家は、
外で教会音楽を鍵盤楽器で奏でる一方、家ではシコシコ実験音楽作りにいそしむ偏執狂タイプで、
耳を突く音響彫刻とも呼ぶべきドローン系のその音は映画全体の中で刺激的なアクセントにもなっている。

吉祥寺バウスシアター(R.I.P.)で今年5月に第7回爆音映画祭で体験したとき僕は響きに寒気と身震いがした。
今回の上映は映画館が違うから同じ音響にはならないかもしれないが、
やはりこの映画は特に映画館のスピーカーで感じることが家でのDVD鑑賞と別次元であることは間違いない。
故セス・プットナム(ANAL CUNT)乱入の“ナマ上映”が実現したら面白かったろうが、
灰野敬二のシャウト+パーカッション+発振器+ハーディガーディなどとと合体して、
“爆音映画セッション”という感じでのライヴ上映も体験してみたくなる逸物である。


ムーンライティング
★『ムーンライティング』1982年/イギリス/英語・ポーランド語/97分

80年代末の革命のきっかけになった独立自主管理労働組合“連帯”の結成1年3ヶ月後の1981年12月に
ポーランド全土に戒厳令が敷かれたことに触発され、急遽作られた映画。
ポーランドからロンドンに降り立った不法労働者の男たちがフラットのリフォーム作業を始めていくが、
まもなく主人公の髭男だけが祖国の戒厳令を知る。

シチュエーションは重いし不法労働者たちの気持ちと共振して終始緊張した空気感に覆われてもいるが、
スコリモフスキならではの配役のチャーミングな女性も登場するし、
くすっと笑わせる場面を淡々と見せつけるのもスコリモフスキならでは。
そのひとつが“万引きシーン”で、
金がない髭男がトリックを使って何度も何度も飄々と事を遂行する様には口元がゆるまずにはいられない。
当時ロンドンに本格的な移住を始めたばかりだったスコリモフスキの実体験が反映されていることを思うと、
一層おかしくなる。
リアリスティックな題材にもかかわらず、
適度にくすんで侘び寂び漂う色合いで生活感も滲むロンドンっぽい映像で詩情をたたえてもいる。
静かなトーンで適宜使われているエレクトリック・ミュージックが象徴するようにゆっくりはしているが、
やはり映画全体にリズムがあるからテンポがいい。
後に『戦慄の絆』や『運命の逆転』で脚光を浴びるジェレミー・アイアンズの主演初期作品でもあり、
MOTORHEADのレミーを思い出す怪しい風貌でいい味を出している。
日本初公開とのことだ。


観に行ける環境であれば映画館のでかいスクリーンと音響システムで体感していただきたい作品ばかりだ。
特に東京では350席のでかいスペースでの上映で、
ミニ・シアターでの上映が多いこういう系統の映画としては異例の環境で楽しめる。
この機会に是非。


★映画“イエジー・スコリモフスキ 「亡命」作家43年の軌跡”
シネマート新宿で8月16日(土)〜9月5日(金)、
名古屋シネマテークで9月6日(土)~9月19(金)、
シネ・ヌーヴォ(大阪)で9月27日(土)~10月10日(金)に上映。
http://skolimowski2014.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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