なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『バッタ君 町に行く』

バッタ君 メイン


『ベティ・ブープ』や『ポパイ』、『スーパーマン』などを手がけたフライシャー兄弟による、
1941年12月公開の米国映画。
太平洋戦争勃発直後の公開という最悪のタイミングの不運も手伝って商業的にはふるわず、
彼らにとっては最後の長編アニメーション映画になってしまった。
しかし今見ても、
いや今だからこそ笑いとペーソスと風刺が染みる作品である。


都会の片隅の草むらで暮らす虫たちの物語。
設置されていた囲いが壊れて人間たちが通り抜けることができるようになり、
低地に住む虫たちは日常的に生活と命を脅かされていた。
タバコ等の投げ捨てによる“火事”や家庭の散水機などによる“水害”も珍しくなくなった。
長旅から“村”に帰ってきた主役のホピティ(バッタ)は仲間たちの悲惨な状況を目の当たりにし、
みんなで安全な土地に引っ越そうと四苦八苦する。
batta_05サブ1
そんな状況の中、
さながら“時代劇の悪代官”のビートル(カブトムシ)はホピティの彼女のハニー(ミツバチ)を狙う。
高台に住むビートルは人間による災厄をこうむることはなく、
蚊とハエの舎弟を引き連れてホピティとその仲間たちを策略に陥れる。

虫たちの住む草むらは人間の作曲家が所有していた。
虫たちの運命も彼が握っていた。
自分の作った曲を著作権管理等の音楽出版社に認められれば虫たちのための柵を修復できる金も入る。
だがそうなってはハニーが自分のものにならない手はずを整えたビートルは、
“オーディション合格”の通知でもある巨額の小切手の入った手紙を隠す。
困窮した作曲家は家を立ち退き、
その土地では高層ビルの建築が始まり、
虫たちの決死の“闘い”も始まる。

batta_03サブ3

作曲家と言えば映画の中では、
「Stardust(邦題:スターダスト」で知られるホーギー・カーマイケルや、
「When You Wish Upon a Star(邦題:星に願いを)」で有名なリー・ハーライン、
「Neptune's Daughter(邦題:水着の女王)」を後に書くフランク・ローサーらの、
書き下ろしの曲などが流れる。
品のいいジャズ/ポピュラー・ミュージック・ナンバーが物語をスウィングするのだ。
否が応でも古き良きアメリカをイメージさせ、
映画の舞台がニューヨークの劇場街のブロードウェイというのも象徴的である。

既に息が詰まる暗黒の時代に突入していた日本が真珠湾攻撃を仕掛けてさらに混沌としていく最中、
アメリカではこういう映画が作られて公開されていたという点でも興味深い。
ラブロマンスとしても面白いし、
ナイトクラブでのデートなどの粋なシーンには頬がゆるみ心がとろける。

とにかくアニメならではのマジカルでユニークな昆虫たちの動きに目が奪われる。
アニメーションの専門家によれば偏執的とも言える作業で完成された作品らしく、
執念にも近い兄弟の情熱に満ちている。
人間の足と地上で暮らす擬人化した虫たちとのコントラストも独特の技術で仕上げられ、
びっくりした。

重箱の隅をつつくように論理的/科学的な矛盾点に突っ込みを入れるのはつまんないオトナになった証拠。
そんなことがまったく気にならないほど軽快な疾走感をキープしていて終盤は加速する。
ポップだからこそ超自然的な映画とも言える。

batta_04サブ2

ディズニーのライバルだったフライシャー兄弟だけにどの虫もチャーミングだが、
愛らしさの中で微妙に毒を感じさせるキャラクターも多い。
当時のアメリカも今と同じく決して全員が全員バラ色というわけではなく、
その頃のニューヨークの状況を知れば知るほど、
現実社会のダークサイドも含ませていると思えてくる。

ビートルが住む“高台”とホピティらが住む“低地”が、
地位などの意味での“high”と“low”を引っ掛けていることは言うまでもないだろう。
かといって“格差社会どーのこーの”と言うには、
金は天下の回りものであり、
主客転倒にもなりえることを示唆する。

アットホームな雰囲気に満ちていて笑顔が爽やかなだけに、
無邪気な表情の中から漏れる“本音”にドキッとさせられた。
ジェロ・ビアフラ(元DEAD KENNEDYS)級の内に秘めたブラック・ユーモア・センスも感じるほどだ。

実のところ映画の原題は“Mr. Bug Goes To Town”である。
“害虫くんが町に行く”みたいなニュアンスも読み取れるわけで、
制作陣のテーマが深読みできるのだ。

最後に人間よりも高い所に立った虫たち。
とても不思議なアメリカン・ドリームみたいで奇妙なシチュエーションのラストの一言も、
意味深極まりない。
ぼくには“虫けら”と呼ばれてきた虫たちの人間に対する逆襲のつぶやきにも聞こえたし、
本作同様に三鷹の森ジブリ美術館が配給したアニメーション映画『動物農場』も頭をよぎった。


子供も大人も間違いなく楽しめる。
親子で観たら後で色々と会話がふくらむんだろうなぁ……とも思った。


●映画『バッタ君 町に行く』
ニュープリントでの78分の上映。
12月19(土)より、渋谷シネマ・アンジェリカなどでロードショー。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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