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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

“MODERN”~GRIM、透過性分子、冷泉(REIZEN)、ZINGA(Vasilisk + Ungeziefer)、橋本孝之 at 東京・桜台POOL 8月30日

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80年代から現代まで脈々と続いて大半が世界にも発信してきている面々による
フリー・ミュージック系のイベントに行ってきた。
いわゆるノイズ(・ミュージック)ともインダストリアル云々とも一線を画すフリー・フォームで、
どの出演者も静謐な佇まいでありながら心に刻まれるパフォーマンスを進め、
自分の中の意識が塗り替えられて少なからず興奮したしだいである。

大都会の池袋から数駅ながら駅前も静かな桜台駅からすぐの場所のPOOLで行なわれたことも大きい。
一段高いいわゆるステージはなく通常のライヴ・ハウスとは一味違うスペースで、
パフォーマーと観客との境目がなくていかようにも使える異空間だから自然と非日常の気持ちになる。
殺風景だからこその緊張感があり、
そういうことがオシャレに演出されてないのは、
ファッショナブルとは程遠い桜台の地の空気と関係者の方々のプリミティヴな意識によると確信した。


まず登場したのは橋本孝之。
1969年生まれながら、
2009年に大阪で結成されたデュオ・ユニットの.es(ドット・エス)での活動からより広く知られ始め、
PSF RecordsからのCD『void』(2012年)や
T.美川(INCAPACITANTS、非常階段)との合体CD『September 2012』などを.esで出す一方、
最近は物理的な問題も手伝って東京周辺でのソロ・ライヴも増えている。
もともとギタリストで今年『Sound Drops』という特殊CD-R作品も発表したが、
この晩は.esや傑作ソロCD『COLOURFUL』でお馴染みのアルト・サックスでの独演である。
まずサックスを吹く姿がホント目が覚めるほどカッコいい。
中肉中背の男前二枚目俳優のルックスというのも大きいが、
ほぼ肩幅で両脚をグッ!と開いてしっかりと地に足を着けてやや前かがみになり、
序盤と終盤は目を開いて中盤は目を閉じながらほとんど不動で吹く姿が実にカッコよかったのである。
むろん切っ先鋭いサックスの響きそのものにも目が覚める。
情念めいたものを突き抜け一瞬一瞬にケリを付ける断続的な音からはセンチメンタリズムが削ぎ落とされ、
一瞬にして幅の空気を変えてそれは永遠なるものになる。
ギタリスト出身ならではと言えるリズムも奏功して息を呑む“真剣”の音で空間に命を吹き込んだのである。


続いてはZINGA(Vasilisk + Ungeziefer)だ。
元WHITE HOSPITALの桑原智禎が80年代の半ばからやっているVasiliskが
Ungezieferと合体したユニットで、
デス・アンビエントともダーク・アンビエントとも言いかねる音圧十分の音を
卓の上の機材から創り出して空間に放って制御し、
まもなくプリミティヴなリズムのパーカッシヴな音が刺し込まれていく。
二人の背後の上部に張られたスクリーンには終始映像が流されていたが、
オープニングに映し出された“FREE GAZA Live”の言葉どおりのパフォーマンスが
素性を隠すような出で立ちでゆっくりと繰り広げられていった。
スクリーンは宗教画と思しき絵と炎のコラージュみたいな映像で始まり、
やがてパレスチナ自治区のガザ周辺の近状と思しき映像のコラージュが続き、
終盤はイスラエルに対する英語でのメッセージが言葉を噛み締めるようなテンポでゆっくり次々と
映像にオーバーラップ。
ところによっては祭祀的なムードも醸し出していた音と相まってヘヴィな空気感に覆われたが、
まさに“解放”の表現であり、
祈りが深く伝わってきたパフォーマンスだった。


3番目の出演は冷泉(REIZEN)。
PSF Recordsからの2012年のサード・アルバムなどのコンスタントなリリースと
精力的な企画ライヴを行なっている、
今回の出演者の中ではかなり若手の男性による独演だ。
エレクトリック・ギターを手にして座布団にあぐらで座り、
エフェクターをあやつりながらおのれの中から音を紡ぎ出す。
ドローン状のサウンドが目立つライヴだったから、
ものすごくわかりやすく書くとSUNN O)))をイメージしていただけるといいかとも思うが、
一人でサウンドを放射していながらあまりにも強烈な音圧に身震いし、
音響彫刻とも言うべき波動の音像に引き込まれた。
ストロングな磁場を作り出していながらも響きはたいへん繊細で、
一本一本の弦の静かなる音の震えがドローンに重なった終盤は音楽の美しさに凍りついた。
冷泉に一切のステージ・アクションはない。
だがアタマではなく心で感じる音楽であり、
肉体で体験する音楽なのである。


4番目に登場した透過性分子も男性の独演である。
80年代に録音した音源から成るCD『Meta-Inorganicmatter Mata-Newlon』が
やはりPSF Recordsからリリースされているが、
長きにわたる活動停止期間に充電されていたピュアなエネルギーが解き放たれているかのようなライヴだった。
事前に司会者の方から
「周波数の問題で携帯の電源をお切りくださいますようお願いします」という注意事項が述べられたが、
確かにデリケイト極まりない音の連なりに覚醒されるばかりだった。
開演前から音を発していた卓の上を埋め尽くした自作機材を使い、
タバコ大の棒を両手で持って操り制御して音を持続させていた。
途切れることのないミニマルな音の波の加速は
これまたわかりやすく言えばルー・リードの『Metal Machine Music』もイメージさせたが、
研ぎ澄まされた音の連なりと群れはオーケストラのようでもあり、
確かにサイケデリックだったのである。


トリはGRIMだ。
元WHITE HOSPITALの小長谷淳が80年代の半ばから休止時期を挟んでやっているユニットだが、
この晩はThe GEROGERIGEGEGEの山ノ内純太郎が参加。
高校時代の旧友である前述の透過性分子のライヴに先月大阪で加わったそうだが、
山ノ内が東京のステージに立つのは16年ぶりとのことである。
まずその山ノ内がいわゆるステージ側にペタッと座り、
小長谷はいわゆる観客側の一番後ろの椅子に腰かけてライヴがスタート。
小長谷は声明とも呪文とも言いかねる発声でリズミカルに気合いの入った声を憑かれたように発しつつ、
球状の“ブッディスト・ハンドベル”を両手に持っておのれの肉体に打ちつけて鳴らしながら
ゆっくりと場内を歩く。
山ノ内は錆びた小型の鉄筋を片手に持ってヴァイオリンの弓を使って指を駆使して鳴らしながら、
ゆっくりと場内を歩く。
二人のその様子は巡礼のようであり巡教のようでもあった。
途中二人は会場側面の梯子で“2階”に上がってパフォーマンスを続けた後、
再びフロアーに戻ってきて別々に歩き、
やがて交わり、握手を交わし、抱擁。
色々とスペースを活用できる会場を活かし、
人間同士がゆっくりと理解を深めていく過程を見せるかのようなパフォーマンスだった。


いい意味でアングラっぽくない黒ずくめの服装でキメた女性司会者の方の適度な登場も特筆したい。
場内のいわゆるステージ側の端に節目ごとに現れて簡潔な言葉でアクセントを付けてくれた。
イベントの“開会の辞”を述べたオープニングから始まり、
各々のパフォーマンスの前には出演者名を述べ、
パフォーマンスの後にはセット・チェンジの休憩等のことを述べ、
“またお会いしましょう”という“閉会の辞”は「お気をつけてお帰りください」という気遣いの言葉で締め。

ライヴも会場内装等も“お決まり”から自由でありつつ、
観客も含めてさりげなく一人一人が他者を尊重しながら“個”でいられる空間が生み出されていた。
音をはじめとする5組のパフォーマンス効果も相まって
たいへん心地よい時間を過ごせた実にグレイトなイベントだったのである。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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