なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『SCUM/スカム』

MAIN_SCUM.jpg


79年の英国映画。
少年院の中の陰鬱と陰湿を“extreme doom”に描いた日本初公開作品である。
BBCのディレクターを務めていたアラン・クラーク監督が、
お蔵入りにされたテレビ用のヴァージョンをリメイクした“いわくつき”の劇場用映画デビュー作でもある。
最近だと『ディパーテッド』『ノア 約束の舟』に出ている、
主演レイ・ウィンストンの劇場用映画デビュー作でもある。

SCUMサブ1

『Scum』といえばNAPALM DEATHが87年にリリースした歴史的なデビュー作のタイトルだが、
そのアルバムと同じくすべてが押しつぶされる底無しの沼の地獄絵図。
出口無しのこの少年たちは、
デス・メタルとブラック・メタルにファックされたドゥーム・メタルの世界観を体現している。

オープニングの陰鬱な映像色でいきなりヤられる。
だがオープニングだけでなくこの映画は永遠に灰色だ。
太陽が照らない。
夜明けも夕暮れもない。
それはここに収容された青年たちの境遇を象徴している。
塀に囲まれた環境のみならず精神的にも閉塞感に満ちているからだ。
ひたすら冷え冷えとしている。
相談員役の中年女性の他には男性しか登場しないことも見事なまでに潤いの無さに拍車を掛けている。
たが熱い男臭さはゼロ以下である。
青白い悪意が敵意を育んで殺意が産まれる。

この映画が公開された年にファースト・アルバムを出したJOY DIVISIONに通じる“煉獄感”で息が詰まる。
当時のイギリスの状況と共振していると言うのは安易だろう。
当時の世界の状況、
いや普遍的に社会の状況、
いやいつの時代もどこの地域だろうと理不尽で不条理な日常の人間関係も表しているように映る。
少年院という設定は一種の暗喩である。

SCUMサブ5

この映画の少年院内は数人から成るグループが我が物顔で仕切り、
権力を振りかざす教官たちは見て見ぬふりどころか自分らでも他の少年たちをジメジメと虐待する。
どちらも新入りに対して容赦しない。
そんな状況に対しヤられっぱなしでは収まらずに一人二人が独自に立ち上がる。
基本的な物語はシンブルかつオーソドックスではある。
だが単純明快な“虐待→復讐”劇とは一線を画している。

やはりストーリー以前に逃げ出したくなる空気感が大切だ。
そいつは映画にしか醸し出せないものである。

むろんヴァイオレンスは絶えないし血も流れるが、
必要最小限に抑えている。
その方がいざ暴力的なシーンになったときにインパクトが強いのだ。
イジメの攻め方も陰湿なやり口が多い。
なにしろ暴力が売りの映画や血が売りのホラー映画みたいなカタルシスがまったくない。
映画を観て日頃のストレスを発散できるどころかどこまでも落ち込ませる。
淡々と進めることで恐怖感と厭世感を高めている。
だがいつの世でもどこの土地でも“これ”が現実だ。

SCUMサブ3

映画のタイトルの“scum(人間のクズ)”は誰を指すのか?
“真性サディスト”以外の人ならば
上下関係の“上”の少年たちと少年院の教官たちは“人間のクズ”と思うだろうが、
少年院送りにされたとはいえ諸々の事情があったマイノリティっぽい“イジメの対象の新人少年たち”を
同じ“人間のクズ”とは言いたかない。
大柄ながらややオタクっぽい整然とした風貌で鬱屈したエナジーを溜めこんで反旗を翻す主人公、
小柄な黒人、
同じく小柄で気弱な男の子の三人がその代表である。
特にその気弱な男の子が強烈で常におびえているだけに終盤の展開がやるせない。
彼らをはじめとして俳優もみんな好演だ。

SCUMサブ2

“いかにもの少年院映画”とは違う様々な要素を絡めている。
無神論者でヴェジタリアンの古参の変人少年がキリスト教に対しての批評性も炙り出し、
神だろうがなんだろうが救いようのない状況だから無力感が際立つ。
“塀の外”以上に露骨で逃げ場がない黒人問題もストレートに描かれる。
英国での人種差別問題も盛り込んだという点で2008年の映画『THIS IS ENGLAND』も思い出したが、
その作品と同じくthe 原爆オナニーズのタイロウの字幕監修も奏功してイングランド流のダーティな言葉も
日本語でリアルに迫ってくるし、
同じくイギリス臭たっぶりで一種の“青春映画”とも言える。
だがじわじわと絞殺していくかのように未来がない。


終盤にスカッ!とするシーンが訪れる。
だがその先をここで書くことはできない。
そして憎しみの尊さを知る。


★映画『SCUM/スカム』
1979年/イギリス映画/97分/ビスタサイズ/R-15指定/原題:SCUM
新宿シネマカリテにて10/11(土)より公開。
© Kendon Films Ltd. MCMLXXIX All Rights Reserved.

PS
極力ネタバレを避けて書いたが、
最後に一つだけ↓に書いた。
閲覧注意。










本編からエンドロールまで一切音楽がない。
音楽が使われない映画はそれほど珍しくはないが、
音楽がまったく聞こえてこなくてこれほど恐ろしい映画を僕は知らない。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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