映画『ベイブルース~25歳と364日~』
2014-10-12

94年の秋に“終演”を迎えるまで実質5年ほど活動した漫才コンビ、
ベイブルースのリアルな物語。
ベイブルースの相方だった高山トモヒロが書いた同名の本が原作で、
監督も高山自身が務めている。
一種の青春映画だが、
イージーな感動を吹き飛ばす思い切りのいい快作である。
共に2005年の映画『パッチギ!』で本格デビューし、
共に現在NHKの土曜ドラマ『ボーダーライン』に出演中の、
波岡一喜と趙珉和が主演だ。
二人が入学する直前には春の選抜大会で甲子園にも行っている大阪の名門・桜宮高校の野球部で出会った、
高山知浩と河本栄得の物語。
ウマが合う二人はプロ野球ドラフト会議までの計画を細かく立てて妄想するお調子者の野球部員だった。
むろんそうは問屋がおろさず卒業後に二人は別の道を歩んでいたが、
ひょんなところで再会。
河本が高山を“連れこむ”形で漫才の道に進む。
努力の甲斐があって認められてまもなくベイブルースと名乗るようになって活動が軌道に乗り、
自分らで作詞したデビュー曲「夫婦きどり」のレコーディングを終えてCDリリースも間近に迫る。
ベイブルースに関して御存知の方は以降のストーリーがバレバレなわけだが、
ここではあえて書かない。
ベイブルースをよく知らない方は観てから色々調べることをオススメする。
映画の出来は保証するから。

相方の当人の高山が監督を務めているだけに限りなくドキュメンタリーに近い“再現フィルム”である。
多少“脚色”含みだろうが、リアリティがハンパじゃない。
ベタな話の展開の映画だろうがセンスと気合でヴァリエーションが無限になるのは、
手垢にまみれた音楽スタイルだろうが死に絶えることのないロックンロールと一緒である。
役者陣も全員熱演だ。
高山知浩役の波岡一喜と河本栄得役の趙珉和が特にグレイト極まりない。
高校時代のシーンから二人のやり取りが絶妙で、
ベイブルース“結成”後はさらに磨きを掛けている様子がビンビン伝わってくる。
監督の高山トモヒロの強力な演技指導とプロデュース力の為せるわざだろうが、
先が見える生き方は望まず「輝きたいんや!」とまっすぐに芸人を志すハングリーな河本と
のんきで甘えん坊で小市民肌の高山のコントラストも抜群で、
本物の漫才コンビにしか見えない。
二人とも大阪府出身だから関西弁もバッチリだ。
すべて“芸”を超えている。
小川菜摘、石田えり、安田美沙子の女優陣も母親役と恋人/妻役で好演。
吉本興業の養成所NSCでベイブルースと同期だった雨上がり決死隊の宮迫博之の他、
梶原雄太(キングコング)と遠藤章造(ココリコ)が友情出演し、
オール巨人(オール阪神・巨人)が本人役で登場し、
短時間の顔見せながら各々さすがの存在感を放ってスパイスを効かせている。

フィクション/ドキュメンタリー問わず最近の日本映画によくある“駄目パターン”を、
ことごとくブチこわしている映画だ。
考えすぎず気合いマンマンのナチュラル・テイスト+浪花節でひたすら押しまくる。
観ていてイライラしてくる甘ったれたサブカル文化系ではなく竹を割った体育会系の作りなのである。
一言でいえば覚悟を決めている。
ある意味ストイックと言えるほど映画の作りとしてもシンプルで秀逸だ。
なんせカメラがぐいぐいぐいぐいと対象に迫っている。
役者に臆せずビシッ!と向き合っているのだ。
“お茶を濁すだけの場面”を潔く削ぎ落として無駄なシーンがなくすべてが必然で連なっている。
だらだら“お笑いを続けている”ようでビシッ!と引き締まっている。
そんでもって“心のビート”がずーっと鳴っている。
まるで登場人物の誰かが死んだとしてもずっと鼓動が鳴り止まることがないかのようで、
クールな漫才のようにリズム感が抜群でテンポが恐ろしくイイ。
両親が“不備”の家庭環境で育った二人だけに親子/家族の問題も嫌味ない味でブレンド。
中途半端なエロに頼ってないところも特筆したい。
エッチネタもかわいいもんでリアルな生活感を“チラ見せ”していて笑える。
高校時代にコーラ一本で粘って根城にしていた喫茶店(その名か“オリーブ”ってのも素敵すぎる)をはじめ、
80年代前半から90年代の前半にかけての大阪の風情を再現した“舞台”でも大切なことを伝えている。
終盤の展開も心憎いし、
“オチ”にもヤられた。
こんなに後味がいい日本映画は久々だ。
くさらずにまだまだがんばろうと思わされる。
オススメ。
★映画『ベイブルース~25歳と364日~』
2014年/120分/日本/アメリカンビスタ
10月31日(金)より、角川シネマ新宿、TOHOシネマズなんば、他全国公開。
http://bayblues.jp/
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