なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

SLIPKNOT『.5: The Gray Chapter』(スペシャル・エディション)

SLIPKNOT『The Gray Chapter』


米国アイオワ州の“エクストリーム・ヘヴィ・ロック・バンド”SLIPKNOT
オリジナル・アルバムとしては『All Hope Is Gone』(2008年)以来の5作目。

前作をリリースしてから6年の間に、
ファースト・フル・アルバム『Slipknot』(99年)以来初のメンバー・チェンジを余儀なくされた。
2010年に創設メンバーの一人のポール・グレイ(b)が他界し、
2013年にジョーイ・ジョーディソン(ds)が離脱。
そういうニュアンスも込めたと思しき歌詞も含めて喪失感が漂う作品だが、
産みの苦しみの中から再生の息吹も感じられるアルバムだ。


単にリズムを刻むだけではなく
9人所帯のSLIPKNOTの中でも特にバンド全体の音への影響力がデカかった二人がいなくなり、
SLIPKNOTの屋台骨を支える足腰のリズム隊が共に変わったことはやはり大きい。
というわけで以前みたいな“音の乱交”によるカオスの代わりに、
一旦バンドの手綱を引き締めるべく音を整理したタイトな仕上がりと言える。
バンドと共にプロデュースしたのは、
METALLICA & Lou Reed『Lulu』HIGH ON FIREの『Snakes for the Divine』も手掛け、
BLACK SABBATHの『13』のエンジニアも務めたグレッグ・フィデルマン。
というかそれらの作品以前にSLIPKNOTは
『Vol. 3: (The Subliminal Verses)』(2004年)をミックスしてもらっている。
ちなみに今回のミックスはジョー・バレーシで、
QUEENS OF THE STONE AGEなどのオルタナティヴ・ロックと接するヘヴィ系とよく仕事をしている人だ。
そういった制作スタッフの選択も“まとまり重視”の意識の表われではないだろうか。

本作でベースとドラムを演奏したミュージシャンの名は伏せられているが、
アートワークには9人編成でのメンバー写真が載っており、
例によって全員マスクが付けられているとはいえ彼らも含まれているから“準メンバー”扱いと解釈できる。
正式メンバーではないからメンバーの指示に従って間違えないような演奏する役割に徹したと思われ、
手堅いプレイでまとめられているとはいえベースもドラムも巧い。
よく目立っていて個性が強かった前任の2人に近い音色を出して健闘している。
くっきりした音でよく跳ねている。

と同時に作曲面にも大きな影響を及ぼしていた二人が去っただけに、
楽曲もSLIPKNOTにとっての新しい次元に突入している。
ソングライターのクレジットは例によってSLIPKNOTになっているが、
2人のギタリストが以前よりも曲作りに大きく関与していると想像できる曲なのだ。
神経にさわるサンプラーと思しきアルバムのオープニングの音からして
やはりそのへんのバンドとは格が違うタダならぬモノを感じさせる。
ただしセカンド『Iowa』(2001年)までの奇形性や猟奇性はますます薄れ、
リフやギターの絡み、ときおり簡潔に入るソロ演奏がよりヘヴィ・メタリックな色彩が強まっているのだ。
むろん一般的なヘヴィ・メタルの百万倍フリーキーだが、
ギタリストが作った曲という印象で、
リズムのテクスチャーがわかりやすくて歌も際立つ曲構成と言える。

サビでメロウに歌うパートが際立つとどうしてもSTONESOURを思い出してしまうが、
やはりSLIPKNOTがもっとごった煮であることに変わりはない。
江戸時代末期の“ええじゃないか”運動や一揆の現場が目に浮かぶ“お祭り騒動”みたいな、
パーカッション乱れ打ちの景気のいい曲も用意されているし、
デス/ブラック・メタルのフレーズやブラスト・ビートもブチ込まれている。
1回聴いただけでどの曲も大筋が頭に残るソングライティングもさすがだ。

1回聴いただけでグレイト!とは思わなかったが、
DARKEST HOURの新作と違って繰り返し浴びていくうちに馴染んできた。
バンドの“構成員”が変わったことで
SLIPKNOTとして今までやったことがないことを試みているところも楽しめる。
そしてやっぱり気合いだ。
とりわけ歌心あふれるコリィ・テイラーのヴォーカルが生気に溢れている。
特に1曲目とラスト・ナンバーの歌声は感動的ではないか。

喪失感は誰よりもメンバー自身が一番痛感している。
“あんたがどう思おうと知ったこっちゃない。気に入らなかったら他当たってくれ。
俺らが聴きたいものを作ったんだ“・・・そんな声が聞こえてくるサウンドだ。
ヘヴィ・メタルのみならず90年代後半以降のロックを代表するバンドならではの自信が滲む。

一人のソングライターやリーダーが仕切るバンドではなく
メンバーのケミストリーで音楽が生まれていたバンドでメンバーも多いだけに、
“蘇生”には時間がかかるだろう。
核を維持したリアルな“再生エネルギー”に突き動かされたこの労作を聴きながら、
じっくりと見守りたい。


PS
10/27付オリコン週間アルバムランキング(集計期間:10/13~10/19)で初登場首位を獲得。
SLIPKNOTのアルバムが総合チャートの1位になったのは初めてで、
今年洋楽アーティストによる首位も初とのことだ。
<2014年10月21日11:00に追記>


★スリップノット『.5:ザ・グレイ・チャプター(スペシャル・エディション)』(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR-16130/1)2CD
約64分14曲入りの本編のCDに加えてスペシャル・エディションは、
約21分5トラック(実質2曲+お遊びっぽい一種のアンビエント・トラック+教会音楽風の音と歌の曲)入りの
ボーナスCD付(でも通常盤と比べて税抜き43円高いだけ)で、
19ページのブックレット綴じ込みの三面デジパック仕様。
日本盤は本編の歌詞が読みやすく載った16ページのブックレットも封入だ。


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コメント

待ってました

行川さんはどう評されるのかな、と思っていました。
確かに、1回聴いただけで「凄え」というアルバムではないと思います(もっとも、1回聴いただけで「凄え」というアルバムが年間何枚あるのか、という話ですが。)。だけど、やっぱり、彼らでしか作れないアルバムだとも思います。
ジョーイ・ジョーディソン離脱についてはもやもやしたものが残りますが、彼が戻ってくるにせよ戻ってこないにせよ、彼らがこうして歩みを進めたことを積極的に評価したいです。
「蘇生には時間がかかるだろう」...そうかもしれません。しかし、不世出のバンドだと思いますし、(好みの問題はさておき)気の抜けた表現はこれまで一度たりともしてこなかったとも思いますから、僕もやっぱり引き続き期待し、見守りたいです。

Fripperさん、書き込みありがとうございます。
1回聴いてピンとこないアルバムは2回目以降はイイ部分を探して聴くような感じになることが多く、結局アルバムの評価はイマイチというパターンになることが大半なのですが、これはそういう感じでもなかったです。不自然なことをやってないからでしょうし、やはり気が抜けてないからでしょう。今日upするORANGE GOBLINの新作のところでも書きましたが、ジャンル問わずアメリカの達者なベテラン・バンド/ミュージシャンによくある「手癖で巧みに作った」感じもまったくなく、努力していることも伝わってきますし。
メンバーが9人もいてよく十数年間同じメンバーでやってこれたとも思います。ジョーイも完全脱退とは違う発言をしていますし、色々ぼかしていることから想像するに、復帰の可能性もあるのではないかと。バンド側も新たな正式メンバー加入を発表しないのも、その余地を残しているからではないかとも思います。

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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