なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ヴェラの祈り』

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©2007 REN-Film


日本でも公開された『父、帰る』(2003年)で知られる、
1964年ロシア生まれのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督による2007年の映画。

少なからぬ家庭の間に生じているであろう夫婦の深く静かなる不和を扱った映画だが、
陳腐になりがちな古今東西永久不滅のテーマを
こういう見せ方とこういう展開で持っていくか・・・という大仰な作りで魅せる。
偏執狂紙一重とすら言える問答無用のアーティスティックな構成で157分かけて丁寧に丹念に見せる。
だがその中に無駄はひとつもない。
長い時間をかけないと伝わり切らないものもある。
“これぞ映画!”と言い切りたい象徴主義的な佳作だ。

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©2007 REN-Film

小学校の高学年ぐらいの息子と低学年ぐらいの娘を持つ夫婦が核の物語。
普段は都市の方に住んでいると思しき家族だが、
夫の父が残した田舎の家に様々な意味での保養も兼ねて出かける。
とりあえず子供たちを交えて澱みなく野外でも屋内でも楽しくやっていたが、
夫のアレックスは妻のヴェラから突然
「赤ちゃんができたの。あなたの子ではないけれど」と告白される。
普段から冷静な夫アレックスも当然のことながらさすがに動揺して“当事者”への殺意すら抱く。
兄にサポートされつつも疑心暗鬼が肥大しながら夫のアレックスは心身共に彷徨っていき、
“男友達”にサポートされつつ妻のヴェラは冷静さを装いながら追いつめられていく。

どんでん返しが用意されている一種のサスペンス仕立てのネタバレ厳禁の脚本でもあるから、
これ以上ストーリーを書くのはやめておく。
ただ誤解を避けるべく言っておくと断じて不倫映画の類ではない。
夫婦に留まらず、
特に親愛なる関係とされている人間同士の向き合い方を静謐に問う作品なのである。

たとえば、
妻ヴェラの「あなたはいつも他人事ね」
夫アレックスの「子供のためにいい親になろう」
といったセリフには、
大切な人間関係に対して向き合うのか逃げるのかという意識が集約されている。
<子供たちとともに自分の都合のいい“道具”として“愛された”妻の命がけの逆襲>にも映る作品だが、
誠実な関係であるために“言い訳はいらない”のが“ヴェラの祈り”ではないか。

vera (2)
©2007 REN-Film

寡黙な映画である。
登場人物が感情的に声を荒げるシーンもほとんどない。
じっくりと人物一人一人の生活を描いていくことで“生”を炙り出していく。

映像もかなり特徴がある。
スクリーンの横長ビスタサイズを活かし切った映像は広がり十分で、
映画が始まって数秒で一気に引き込む力があり、
それでいて薄日の明るさで物語をずっと冷厳にやさしく包み込んでもいる。
室内などのシーンでは調度品の類もしっかりと映し込んで生活も映し出す。
フレームの切り取り方がとにかく絶妙なのだ。

アップを多用するカメラは人物にぐいぐい迫る。
被写界深度を活かした写真のように、
焦点となる人物以外の背景等をぼかす手法が随所に用いられているのも特筆したい。
どの場面も“八方美人”な描写にはせず場面場面で“メイン”と“他者”をはっきり区別したそんな映像に、
その時々の周りの他者との“断絶”と深読みもできる。
夫婦親子兄弟友人関係のつながりが密に描かれているが、
親和な場面が多いだけに寒々ともしてくる。
それがリアルだ。

vera (3)
©2007 REN-Film

のどかでだだっ広い田園をはじめとして適宜時間を割いて挿入される風景のシーンは、
単なる映像美に留まらず人物やその場のシンボリックな暗喩表現に見える。
枯れた夫婦関係のように乾き切って道筋すら消えた川が荒れる夕立の豪雨で再び生き生きと流れ始めたシーンを
上流からじっくりと映し出す場面は、
死ななければ再生できない世の中を暗示しているように見える。
というか映画全体が、
シンプルに言えば死ぬほど痛い思いをしなければ再生できない人間の愚かさに見える。
だが強い生命力が滲むオーガニックな風景映像なのである。

映画のオープニングのシーンと終盤のシーンがほとんどダブる。
輪廻のようであり、
とある地点に立ち返ってやり直すみたいな意味合いも感じられる。

ロシアの監督ならではと言えるさりげない“ギリギリの”ロリータ美も見どころのひとつだろう。
アンビエントな曲からバッハまでも使われた音楽も心象をじっくりと描き出し、
民謡が歌われるラストはまさに祈りだ。


★映画『ヴェラの祈り』
2007年/ロシア/157分/ロシア語/DCP
同監督の『エレナの惑い』(2011年)とともに、
12月20日(土)、ユーロスペースほか全国連続ロードショー。
http://www.ivc-tokyo.co.jp/elenavera/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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