なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『パンク・シンドローム』

パンク・シンドローム・メイン1


メンバー全員が知的障害者というフィンランドのパンク・ロック・バンド、
PERTTI KURIKAN NIMIPAIVAT(ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト)のメンバーを扱った
2012年のドキュメンタリー映画。

ヴォーカリスト(38歳…以下他のメンバーもすべて2014年11月現在)、
ギタリスト(57歳)、ベーシスト(41歳)、ドラマー(32歳)という、
4人のメンバーへのお膳立てたインタヴューはほとんどない。
関係者に対してのインタヴューもほとんどなく自然と口に出たトークを収めた作りになっている。
練習やライヴ光景、共同で作詞をする様子、ドイツ・ツアーでのオン/オフ・ステージのシーンなどのバンド活動の様々な場面はもちろんのこと、
メンバー個々のプライヴェイト・ライブにまで立ち入って密着取材をカメラでやりまくり、
まとめた作りである。


いわゆる“被差別者”や“被害者”を題材にしたドキュメンタリー映画は妙に絶賛しがちだから、
そうでない“マイノリティ”としてまず“喉元”に釘を刺しておく。

監督がパンク・ロックそのものへの愛や関心が薄いのか、
何しろバンドとしてのPERTTI KURIKAN NIMIPAIVATの基本的なことにほとんど言及されていない。
生活環境が大半のパンク・バンドとは違うだろしメンバー構成も特異だから興味がそそられるのに、
結成時期(2009年とのこと)や成り立ちすらも映画で触れられてない。
RAMONESが80年前後の英国やフィンランドの酔っ払い“pogo”パンク・バンド連中にイタズラにされて
スロー・ダウンしてグダグダになったようなハードコア以前のローファイ・パンク・サウンドは、
極初期GERMSのライヴ直系で単調なほどミニマルながら十二分にフリーキーだ。
彼らがどういう音楽を聴いてきてパンク・バンドをやりたくなったのかも大いに気になるではないか。
ヴォーカリストが背中にIRON MAIDENの巨大パッチを付けているだけに、
マニアックでないそういう切り口もできるはずだしメンバー個々の深みも彫り出せたはずである。
とにかくメンバー間と同じぐらい関係が大切な他のバンドの固有名詞がほとんど登場しないし、
“デッチ上げられたバンド”に見えるほど
フィンランドをはじめとする現在進行形のパンク・シーンにおける立ち位置もわからない。
監督が現行パンク・バンドやミュージシャンとして彼らに真正面から向き合ってないように感じられた。

映画全体のまったりしたリズムも含めてパンク映画というよりは典型的なドキュメンタリーもので、
“パンク・バンドをやっている知的障害者たち”というタイトルのテレビ・ドキュメンタリー番組みたいで、
最終的には“涙と笑いの感動もの”の仕上がりではある。

パンク・シンドローム・メイン2

だがそういう思惑をデストロイ!しようとするかのように、
一人一人別々のキャラが立ちまくったメンバーたちが立ち振る舞う。
差別反対!とかいう体のいいリベラルやインテリの建前を冷ややかに笑い飛ばすかのように、
彼らはあくまでもプリミティヴである。
溜まりまくった彼らのフラストレイションの中には、
いかにものパンクの屍みたいな不良イメージや頭デッカチな作為が入り込む余地はない。
4人とも素晴らしく本能に忠実で我が道を行く。
むろんそれは“障害”云々以前の問題だ。
そもそも古今東西グレイトな表現者はドラッグの類いを使わなくても天然でweird(風変り)なわけだし、
時に顰蹙を買うもんである。

人間関係や人間のリアルな縮図も見えてくるのが何より興味深い。
文句ばっかり言っているメンバーや不幸自慢をするメンバーほど実はしあわせな環境にいるように見えるし、
そうでないメンバーほど孤独に見える。
ヴォーカリストはやたらと気性が激しく、
1950年代後半生まれと思しきバンド最年長のギタリストはやたらと神経質。
以上の二人はオシャレだ。
ベーシストは知的障害者とされる映画にあえてこの言葉を使いたいほどいい意味で“知的”雰囲気が漂い、
1980年代初頭生まれと思しきバンド最年少のドラマーは寂しがり屋さんに見える。

忍耐強く追ったことが想像できるほど細かくメンバーの姿を映し出しているとはいえ疑問も残る。
もちろん女性ネタは大歓迎だし本作でも婚約や失恋のシーンもいい感じで描かれているが、
性にまつわるシーンをはじめとして必要以上に面白おかしい部分をピックアップしているように思える。
ドキュメンタリー映画でよく見受けられる無駄な場面も目立って冗長に感じられるシーンが少なくない。
ただそれもPERTTI KURIKAN NIMIPAIVATの曲と同じく、
間延びした彼らの体内時計やタイム感と共振したものとも言える。

パンク・シンドローム・サブ

その一方で監督GJ!なのは“仲良し倶楽部のバンド”に描いてないところだ。
解散/活動停止後に過去を振り返って“反目ネタ”を話すバンド・ドキュメンタリーは多いが、
活動中のバンドでモロそういうシーンを映像化している映画はそうそうない。
取っ組み合い寸前の激烈シーンや“これ削除しなくて大丈夫か?”ってな陰口シーンも収録。
要はメンバー全員肝っ玉がでかいってことだ。

発言だけでなく彼らの曲が流れる時にはマメに歌詞の日本語字幕が表示される。
まずDESCENDENTSに通じるオタクの価値観で、
コーヒーをはじめとする“飲食物ネタ”や女の子の歌もやっていることを書いておく。
昔から“パンク=怒り”ではないわけだし、
彼らのゆるゆるサウンドにはそういうナンセンスな歌がぴったりである。

とはいえヴォーカリストが中心に書いた歌詞は一般的なパンク・イメージの内容が多く、
障害者施設等に対する不満をはじめとする“ファック・ユー!”アティテュード全開で、
その中に“権力者云々”“国会/議員”といった歌詞も含まれている。
世界中の国に比べたフィンランドの福祉や政治の状況を思うとナイーヴなパンク歌詞にも思えるが、
一筋縄ではいかないバンドである。

ネタバレを避けるべくメンバー個々のプライヴェイトにはあまり言及しないようにするが、
ヴォーカリストがそういう歌詞を書く一方でベーシストが政治活動をしていることは特筆したい。
彼はフィンランド中央党の党員であり、
本作撮影直前頃には首相にもなった同党党首のマリ・キビニエミの選挙ボランティアになっている場面や、
美人すぎる政治家として知られバンドのことを知っている彼女をライヴに誘うシーンも収められているのだ。
RAMONESにしろCRASSにしろ“一枚岩”ではなかったわけだし、
そういうバンドほどウソがなくリアルってことをこの映画はスカスカした音のすきまからほのめかす。

“仲間”と同じ政治的主張を持つ必要なんてまったくない。
周りに合わせる必要もさらさらない。
おまえはおまえ、俺は俺、一見バラバラにも映るバンドだ。
それでもケミストリーが働いてバンドでも人間関係でもしっくりいく時はしっくりいくもんである。
国家権力に匹敵するほど馴れ合いは“個”を抹殺する。
彼らはindividual/individuality/individualismそのもの、
そういうパンクの肝がさりげなく滲み出ている映画なのである。

存在感のある4人だ。
なんたって知的障害者云々以前にまず最大年齢差が25歳というパンク・バンドは世界中にほとんどいないし、
みんないい感じに自分勝手だから素敵に不揃いなヴィジュアルがすべてを象徴する。
「みんなくたばっちまえ!」ってな基本アティテュードのバンドにふさわしい。


★『パンク・シンドローム』
2012年/フィンランド・ノルウェー・スウェーデン/フィンランド語/88分/カラー/ビスタサイズ/DCP/原題:Kovasikajuttu/英題:The Punk Syndrome/
http://punksyndrome.net/


スポンサーサイト

コメント

普通に音だけでも聴いてみたい例えです。
やっぱり身近なものに怒りをぶつけるバンドにはとても惹かれます。
観たいです。

LIFEさん、書き込みありがとうございます。
僕もこの映画でしか彼らの音楽を聴いていませんが、天然でローファイです。歌詞もなかなか素朴です。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/1395-2cde4d6b

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (241)
JOB/WORK (289)
映画 (244)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (42)
METAL/HARDCORE (47)
PUNK/HARDCORE (407)
EXTREME METAL (128)
UNDERGROUND? (93)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (120)
FEMALE SINGER (42)
POPULAR MUSIC (25)
ROCK (82)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん