なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『SHOAH ショア』“アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年(1/3)”

ランズマン


アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年ということで、
1925年パリ生まれのクロード・ランズマン監督がホロコーストの“記憶”を“記録”した
3本のドキュメンタリー映画が公開される。
まずは“絶滅”を意味するヘブライ語がタイトルの1985年の映画『SHOAH ショア』を紹介する。
14か国で予備調査を行なって350時間にも及ぶ11年間の撮影の中からまとめあげた労大作である。

トータル9時間27分。
元々は2部構成だが、
それでも長くてそれぞれを一気に観るのは大変という配慮で今回は各々をさらに2部に分け、
4部構成での上映となる。

(ヨーロッパ系)ユダヤ人の絶滅を目指し、
第二次世界大戦中にドイツ/ナチスの占領下のポーランドなどで
“final solution(本作では[最終解決]と和訳)”の一環で行なわれた
アウシュヴィッツをはじめとする強制収容やホロコースト(大量虐殺)などの全容を、
監督が訊き手になって様々な関係者が語っていく作り。
そこに現地の風景などを絡めて“その時の匂い”を炙り出していく。

アウシュヴィッツに限らず多岐にわたったホロコーストを多角的にえぐる盛りだくさんの内容ながら、
話が分散して混乱を招かないようにある程度テーマごとに固めつつ全体がリンクしている作りだ。
第一部から第四部まで順番に観るのがベターかもしれないが、
精神的/体力的に余裕を持って2回以上に分けて観るのもいいかと思うし、
順番どおりではなくたとえば第一部を後回しに観ても大きな問題がない配慮の構成にもなっている。
以下に極一部だけ内容を書いていく。

SHOAHショアサブ1

154分の第一部では、
両親を殺されて13歳半ばで収容所暮らしになるも
SS(ナチス親衛隊)の使いで舟に乗って川を行き来していた男性の人生がイントロダクション。
「(離れ離れになった)妻や子の遺体も見つけたら焼却していた」と言う男性などの、
ユダヤ人労務班員の“生還者”が“同朋”の遺体焼却や埋められた遺体掘り起し作業の模様などを跡地で語る。
家畜用の貨車から乱暴に下ろされる様子を収容所近くで働いている最中に目撃していた
ポーランド人の農夫らも移送前後のユダヤ人の壮絶な様子を語る。
スシ詰めの貨車の中から聞こえる水を求める叫び声から気を紛らわせるために
ドイツ兵からもらったウォッカを飲みながら運転していたと言う、
ユダヤ人移送のための“貨車”の機関士だった男性らも現場などで語る。
虐殺される瞬間ではなくその前後の目撃談だからこそ想像力を拡大させる。
長時間の移送だったから到着時には半数近くが死んでいたと語るSSの伍長も潔く率直に語るが、
その取材の隠し撮りの様子も生々しい。

120分の第二部では
まず引き続きSSの伍長がユダヤ人の移送からガス室まで現場感覚そのままでわかりやすく語る。
元SS中尉に取材を断られている様子も収録して監督の“突撃取材”の一端も披露。
走行中に殺すための“ガス・トラック”や焼却炉の作りの話も含み、
第一部で登場した人とは別のユダヤ人移送の運転士も登場。
物心ついた時から死体しか見たことがない当時13歳の男性労務班員の話も生々しく、
収容所内でナチスに雇われたユダヤ人労務班員は「執行猶予中の死刑囚」の気持ちで“仕事”に従事していた。
セレモニー中の教会のシーンは本作の中で珍しくカラフルでにぎやかな映像だが、
ポーランドの“普通の庶民”の話も漏れ聞こえてくる。
ポーランドに住むユダヤ人に抱いていた当時の思いもポーランド人の男性と女性がたっぷり語り、
同情だけでなく“本音トーク”に時間を割いているのもキレイゴトで終わらせていない。

146分の第三部は、
引き続きSSの伍長がガス室に関する話を詳細ながら平易な言葉で説明。
その合間にユダヤ人の生還者の話を入れる構成が見事で、
起伏をつけて見る人に飽きさせない工夫とも言えるしリアリティを濃くする構成とも言える。
その一人で当時ユダヤ女性収容者の髪を切らされていたユダヤ人の床屋が仕事をしながら強烈な話を吐露。
収容所に到着してからわけもわからないまま数時間後に“同朋”が殺されたガス室の扉を開けた瞬間や、
収容所まで10~12日かけてハンガリーやギリシャなどから飢えと渇きの状態で移送された直後の地獄絵図も、
“仕事”に従事した労務班員のユダヤ人が語る。
特技等を持つがゆえに生かされている収容所内のユダヤ人労務班員は口を割るなどの妙なことをしたら即殺だが、
収容所に送り込まれるユダヤ人移送者が減って仕事がなくなったら次は“自分の番”ということも自覚していた。
虐殺現場の空気を吸いまくっていたがゆえに生きている限り希望を失ってはならないと強く思ったユダヤ労務班員。
終盤には武装蜂起のアイデアのプロローグも。

そして147分の第四部。
チェコから移送されて死を悟ったユダヤ人たちの混乱と気高さを目の前にして打たれて一緒にガス室に入るも、
「生き残ってこの事を証言してください」と諭されて生き残ったユダヤ人労務班員の話。
ポーランド亡命政府の元密使らにより、
ナチスによってポーランドのワルシャワなどに作られていたユダヤ人ゲットー(ユダヤ人強制居住地域)における
“なぶり殺し”の状況も語られる。
第1~3部よりはやや専門的に突っ込んだ内容で、
ユダヤ人移送収容に関するナチスの緻密かつ効率的なシステムの話や
“最後のユダヤ人”になる覚悟で始まった収容所内での蜂起の話が核だ。

学術的な話はあまりなく、
ほとんどが“現場”の人間の話だからこそSSの話も含めて庶民目線中心にまとめられている。

SHOAH ショア メイン


まず特筆すべきは当時の映像や写真の類いをまったく使ってないところだ。
見ればダイレクトに伝わってくるとはいえお馴染みの映像には一切頼らず、
監督自ら会った関係者の映像と話で固め、
BGMも一切なく静けさの中でゆっくりとハードボイルドに迫る。
多角的に捉えるべく多くの人の話を盛り込む一方で、
じっくりと話し手に向き合ってしっかりと耳を傾けて一人一人にけっこう時間を割き、
話の断片の抜粋になって誤解を招かないような配慮がなされている。

監督が「叙事詩的な映画」と言うようにセンチメンタリズムを削ぎ落としてはいるが、
そこはかとなく抒情詩的な色合いも滲む。
話の内容が内容だけにじわじわと感情が染みてくるのだ。
歌で大切なのが必ずしも歌詞だけではないのと同じように、
語り口のトーンや声の響きがいかに正直に話し手の心の震えを伝えているかがよくわかる。
真の地獄を体験したり見たりしてきた人たちがほとんどだから声高に不幸自慢をする余裕もない。
加害者側の人間も含めて声や表情もみな達観しているように映る。
活字では伝わり切らない映画ならではの静かなるダイナミズムである。

第一部のオープニングで
野外労働中に歌っていて周辺住民にも知られていた収容所からの生還者がポーランド民謡を“再演”するシーンは、
『SHOAH ショア』がさりげなく抒情的でもあることを示しているように思えてならない。
セレモニーで教会に集まっている笑顔の人たちを“素のまま”撮った場面の前後の教会音楽なども、
ナチュナルに流れてくるものでいいアクセントだ。
BGMが用いられてなくても語り以外のシーンのそういう“自然音”がイメージを広げている。

叙景的な映画でもある。
一つのテーマについて話し続けている場面ではなるべく切断しないようにしたためか長く感じられる語りも含むが、
単なる記録映画とは一線を画し、
『SHOAH ショア』は生々しい語りに鮮やかな冷たい詩情が滲む叙景的映像をブレンドしたリアルな芸術作品だ。
インタヴューの際の話し手の後景も含めて
“現場”そのものというより“現場”をほのめかす様々な景色を織り込んでおり、
ドキュメンタリー映画も映像力が大切だと再認識させる。
落ち着いたカメラ・アングルによる自然風景もさることながら、
あの当時とオーバーラップさせる演出映像もいいアクセントになっている。
ユダヤ人移送を行なったポーランド人に当時使った蒸気機関車で同じルートを運転してもらって
記憶を呼び戻させながら撮った部分や、
排気ガス殺害用のトラック改造の話のところで現在のトラックが工業地帯を走っている映像をダブらせるなど、
“やらせ”とは違う方法で平坦な映画にならないように起伏を付けている。

中でもシンプルだからこそ強く深いインパクトを残すのが鉄路の映像だ。
『SHOAH ショア』ではホロコーストのシンボルであるかのように、
強制収容所が“終点”の鉄路が随所で映し出される。
当時のユダヤ人にとって“人生の終着駅へのレール”でもあったこの鉄路の映像を観ていると、
ポーランド映画祭でも毎年人気のアンジェイ・ワイダ監督の映画『コルチャック先生』や
UKパンク・バンドのCRASS初期の名曲「Shaved Women」が頭をよぎる。


何も押しつけはしない。
淡々とした筆致でストレートに描く映画だからこそ深く長い余韻が残る。


★映画『SHOAH ショア』
“アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年
全人類が共有するべき世紀の映像遺産!
ホロコーストの“記憶”を“記録”した傑作ドキュメンタリー3本!
「SHOAH ショア」「ソビブル、1943年10月14日午後4時」「不正義の果て」
2月14日(土)より3週間限定、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開”
以降、全国順次公開予定。
© Les Films Aleph
http://mermaidfilms.co.jp/70


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コメント

こんにちは.

自分が映画館でバイトしていたときに,深夜枠で特集上映していました.
なかなか観る機会が持てなかったです.時間がとくに・・・

ドキュメンタリー映画も映像力が大切だとの指摘に,納得です.
思わずアラン・レネ『夜と霧』を思い出しました.
写しだされる映像もびっくりですが,きらりと光るアイデアと
写真を動画に仕立て上げるあざやかさに,驚いた映画です.
『Shoah』とは対極にあるんでしょうか.
ちょっと観れるかわかりませんが,興味出てきました.


『やさしい人』は,あわなかったそうで残念です.
自分はしっかりした脚本とそれを感じさせないストーリーテリングに,
とても関心しました.自分の性格もあると思いますが.

例えば,元カレが銃で狙われた膝をかばう描写は,
彼女を守らないことを描いていたり.それは,元カレの
将来の経済的な安定が意味付けてあって,彼女もまた
その安定を選択したこととか.あまり構図を押しつけずに見せると思います.

映画の話は長くなっちゃいますね,すいません.


では!








ss2gさん、書き込みありがとうございます。
深夜にじっくり・・・というのも合っている映画かもしれませんね。覚悟を決めて映画に臨むのもいいと思います。
色々見るとドキュメンタリーものは、“悲劇”を題材にすればどんな作りでも“免罪符”になるかのように映画としての出来を問われないというか、結局“悲劇”しか語られないのが不誠実に思えます。映画作品そのものに向き合ってないようで。『夜と霧』もアイデアと映像でも持って行きますね。
『やさしい人』は・・・好みの問題かもしれません。(元)ミュージシャンが主人公で恋愛/親子ネタも絡み、どう生きるか・・・その流れや温度がぼくぬるく感じた記憶があります。丁寧に見ていらっしゃるコメントを読み、機会あったら再チャレンジしたくなりました。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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