なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ソビブル、1943年10月14日午後4時』“アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年(2/3)”

ランズマン


アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年ということで、
1925年パリ生まれのクロード・ランズマン監督がホロコーストの“記憶”を“記録”した
3本のドキュメンタリー映画が公開される。
(旧)ソ連軍のポーランド侵攻によりアウシュヴィッツが解放された
1945年1月27日からちょうど70年目の今日は、
2001年の98分の作品『ソビブル、1943年10月14日午後4時』を紹介する。

ホロコーストにおける“ユダヤ人絶滅収容所”の一つの
ポーランドのソビブルにおけるユダヤ人蜂起に焦点を当てた映画である。
その決行日時と場所が映画のタイトルだ。
“ユダヤ人は予感も疑念もなしにガス室まで連れて行かれてその死は「おだやかな」ものだった”
というような伝説に加え、
“ユダヤ人は彼らの死刑執行人に何の抵抗もしなかった”という二重の伝説の誤りを明らかにし、
そういう伝説は否定しつくされなければならないと監督が決意して制作。
1985年の映画『SHOAH ショア』でも第四部中心に言及されていたが、
いわばその濃縮拡大ヴァージョンでの続編である。

ソビブル メイン

本作に関する数分間の音声無き文字説明(むろん日本語字幕付)の冒頭のイントロダクションからして
映画『SHOAH ショア』のハードボイルドな作風を継承している。
そのオープニング以降は蜂起があったソビブル収容所から生還したユダヤ人の一人の男性の話と、
それに沿った風景などの映像で構成。
パンドラの箱を98分間かけてゆっくりと開いていくような展開で無理なく見られるし、
“語り部”のユダヤ人が頭デッカチではなく妙に理屈をこねずにリアリスティックな話で固めているから、
予備知識があまりなくても入っていける話の内容でまとめられている点も特筆したい。

クローズアップして映し出される人物は蜂起を実行したうちの一人のユダヤ人だけにもかかわらず、
ワルシャワ~ベラルーシ~ミンスク~ソビブルといった
その男性がナチ等に連れられたゲットーや収容所周辺の土地の風景などを絶妙にブレンドし、
とてもシンプルな作りだからこそ飽きさせないプロデュース力がさすがだ。
一人で延々と語る部分に流される風景の映像は、
場の空気の匂いが漂ってくるほど生々しく“くすんだ色合い”だからこそ引き込まれる。
やはりグレイトなドキュメンタリー映画はまず映像力だけで持って行くのである。

監督とのいわゆるQ&Aスタイルのシーンは“主人公”のユダヤ人男性のみを映し出しているのだが、
ちょっとした目の揺れや頬の動きなどに感情の機微が表われておりヴァイブレイションを感じる。
16歳でワルシャワのユダヤ人ゲットーから収容所に移送されて以降ずっと家族から引き離され、
生死を懸けて不屈の精神で何度も“壁”の突破を試みて目的を達成したがゆえの
自信が滲む語り口と表情なのだ。
手柄自慢や不幸自慢の人によくある得意げな調子はまったくなく、
伝えたい意思が伝わってくる口調でゆっくりしたテンポだから話に引き込まれる。
生還者のユダヤ人男性が話す様子を映す場面は通訳が訳す時間を設けてそこで字幕が入る作りもポイントで、
本人の語り場面が延々と続いて同時で日本語字幕が流れっぱなしになると息苦しくなりかねないのを避け、
ワンクッション置かれていて“風通しがいい”のだ。
ユダヤ人蜂起実行者の顔の映像が大半を占める“実行時の話”で固めた後半はその効果が大きい。
あくまでも心地よくクールなリズムに貫かれ、
センチメンタリズムを削ぎ落として進めるのである。

ソビブル サブ1

多角的な視点を持つ監督のジャーナリスティックな訊き手の姿勢も手伝い、
一種のサスペンス・タッチで進める緊迫感が滲む精緻な“トーク・ドキュメンタリー”に仕上がっている。

このユダヤ人の男性はドイツ兵から“働ける人間(使える人間)”ということで即殺されずに抜擢されたが、
収容所では餓死する人が後を絶たないほど常に空腹で働かされ、
一方で面白がってドイツ兵は理由なく射殺する状況だったから仲間と一緒に脱走。
ドイツ兵に捕まるも運よく殺されずに別の収容所に送られること数度。
生を求めるために何度も脱走を試みた積極アティテュードの集大成が、
アウシュヴィッツと並ぶ“絶滅収容所”の一つだったソビブルでの蜂起である。
蜂起経験者の元軍人のユダヤ人も少なからず彼の周りにいて、
収容所内のドイツ兵を殺せる武器になりそうな道具を収容所内の仕事で使う仕立屋や靴屋などの職人もいた。

殺さなければ殺される。
おとなしく殺されるより人間として死ぬ。
焼却棟で殺されるなら戦って死ぬ方がマシだ。

“人殺し”への覚悟は必然だった。

この蜂起以降の事後報告とも言うべきエンディングもある意味“機械的”で冷厳なだけに異様だ。
ソビブル絶滅収容所に向けて外国から連行された移送者などの数字を移送元の地域ごとに細かく執拗に報告し、
無力感も漂う。
監督にとっては観客たちに最後の拷問と苦しみを課すことが重要だった。
拍手喝采で終えることなく、
喉元に異物が詰まったようなこの映画の結末は90年代以降もなお続く現実と直結させているようで、
勇敢な英雄譚やナイーヴなヒューマニズムの彩りとは一線を画す監督の価値観が静かに炸裂している。

むろん音楽は使われてない。
ずっと静寂、
だが“生のビート”がずっと鳴りつづけている映画なのである。


★映画『ソビブル、1943年10月14日午後4時』
“アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年
全人類が共有するべき世紀の映像遺産!
ホロコーストの“記憶”を“記録”した傑作ドキュメンタリー3本!
「SHOAH ショア」「ソビブル、1943年10月14日午後4時」「不正義の果て」
2月14日(土)より3週間限定、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開”
以降、全国順次公開予定。
© Les Films Aleph, Why Not Productions
http://mermaidfilms.co.jp/70


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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