なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『不正義の果て』“アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年(3/3)”

ランズマン


アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年ということで、
1925年パリ生まれのクロード・ランズマン監督がホロコーストの“記憶”を“記録”した
3本のドキュメンタリー映画が公開される。
今回は監督最新作でもある2013年の218分の作品『不正義の果て』を紹介する。

ナチスが世界を欺くため旧チェコスロヴァキアに作った
テレージエンシュタットの“模範(強制)収容所”の真相を、
同収容所を現場で仕切ったユダヤ人評議会の最後の長老でその唯一の生還者の男性の話で炙り出す映画。
日本でもヒットした映画『ハンナ・アーレント』でも“キー・パーソン”になったナチス親衛隊員(SS)で
ユダヤ人絶滅作戦のための強制移送の総責任者だったアドルフ・アイヒマンが、
テレージエンシュタットの“模範(強制)収容所”に関しても指揮したとされるが、
本作の主人公のユダヤ人長老が彼と“親密な緊張関係”を築いたことがポイントの一つの作品である。
というわけで操り人形なりに努力した“中間管理職的”な一種の権力者でもあった
そのユダヤ人長老がナチスの協力者だったのか否かも焦点の一つで、
“被害者と加害者の境目とは?”という観点でも映画『ハンナ・アーレント』のテーマとダブる。
要領よく立ち回って生き延びた人物と見なして憎む“同朋”のユダヤ人たちから縛り首にされる恐れがあるため、
この長老が“ユダヤ国家”のイスラエルの地を踏むことはなかったほどである。

不正義の果て サブ1

“ユダヤ人に対するヒトラーの贈り物”ということになっていただけに
テレージエンシュタットの収容所を“楽園”に美化して作り上げられた、
当時のナチスのプロパガンダ“フィクション”映画も挟み込まれている。
収容者が描いた画も挿入される。
でもおおまかに言うと以下の二つの時期のオリジナル撮影がメインだ。
一つは『SHOAH ショア』制作のため1975年に数度にわたってこのユダヤ人長老の撮影をするも、
ハードコアなその映画全体の雰囲気に合わないためにしばらくお蔵入りにした映像。
もう一つはそれから35年以上の時を経てから監督が作品化を決意し、
テレージエンシュタットなどで新たに撮影した映像。
それらをミックスして仕上げた映画である。
“真相”を語る人物がその“ユダヤ人長老”一人だけに単調になりがちなところで、
撮り下ろしの映像の適度な挿入がいいメリハリになってフレッシュな息を吹き込んでいる。

“現代の映像”では監督自身が案内人となり、
1941~45年まで14万人のユダヤ人が降り立った駅から始まり、
ユダヤ人移送地の候補になっていたアフリカ大陸の東の島であるマダガスカル、
テレージエンシュタットの“模範(強制)収容所でユダヤ人が執行人にされて絞首刑が行なわれた場所、
チェコの首都であるプラハのユダヤ人墓地などが映し出される。
長老の話のシーンの映像が古めで味わい深く色あせているだけに際立つコントラストだが、
たくさんのユダヤ人の人生の“終着地”のそういった新規映像が鮮やかで、
研ぎ澄まされた美すら感じさせる点も特筆したい。
やはりただ過去の話をまとめたドキュメンタリー映画ではなく、
映像作品として成り立っているのである。

不正義の果て メイン
© 2013 SYNECDOCHE - LE PACTE - DOR FILM - FRANCE 3 CINÉMA - LES FILMS ALEPH

まずこのユダヤ人長老がユダヤ人のために良い行ないもしていたことを書いておく。
けどこのユダヤ人長老、too muchなほどモーレツである。
『SHOAH ショア』の大半のユダヤ人や『ソビブル、1943年10月14日午後4時』の“主人公”とは
あまりにも対照的な語り口だ。
なにしろ悪魔に憑かれているかの如く病的なほどのマシンガン・トークなのである。
そこに僕はこのユダヤ人長老のおびえと不安を見る。

得てして人間はやましいことがあったり不利な要素があったりすると突っ込まれたくないから矢継ぎ早にしゃべる。
弱い犬ほどよく吠えるような感じで臆病者ほどよくしゃべる。
自信がない者ほど自分を防御する盾として休むことなく言葉で武装する。
この映画でも隠したくなればなるほどユダヤ人長老のトークは加速する。
触れられたくない部分を突っ込まれたら言い訳混じりで話を適当にそらす。
この勢いは活字では伝わりにくいまさに映画ならではのリアルかつダイレクトなドキュメンタリーだ。

飛ばしまくっているであろうツバがスクリーンから飛んできそうなほど、
語り“押し”倒す圧巻のトークはいつのまにか笑っちゃうほど凄まじい。
だがこのユダヤ人長老の語り口や言葉からは恐ろしいほど人間の感情が感じられない。
ほとんどが“客観的”な状況説明や組織の細かいネタのオンパレードで自慢話の連射にも聞こえてしまうほどだ。
この長老がくっちゃべっている顔の表情が得意げに映るからである。

監督がツッコミを入れる間を与えないほどしゃべり続けて言葉数が膨大だから、
このユダヤ人長老にずっと付き合うのは多少なりとも体力が必要だ。
物知りでインテリジェンスに富み屈折したユーモア・センスも豊富な人だから、
話のすべてを一度に理解することは専門家でも大変だろうし、
話の何割かは“ナチス問題の中級者向け”にも思える。
けどいっぺんに全部を理解することは普段の生活のどんなケースでも無理なことだし、
話の端々を自分なりにリンクさせていくのもいいものだ。

むろん“真相解明”がこの映画の大切なポイントではあるが、
監督とユダヤ人長老の駆け引きも見どころだ。
もはや“心理戦”の様相を呈している。
ユダヤ人長老が“検察官”と呼ぶ監督も苦戦しているが、
映画の中で2時間以上にわたって“ジャブ”を続けた監督が
業を煮やして終盤に繰り出したストレートな“アッパーカット”言葉攻めは、
この映画を観ているほとんどの人が抱いていた本音だろう。


エンディングが実に粋だ。
重たいテーマの映画にもかかわらず、
監督のナイス!なセンスが集約されている。


★映画『不正義の果て』
“アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年
全人類が共有するべき世紀の映像遺産!
ホロコーストの“記憶”を“記録”した傑作ドキュメンタリー3本!
「SHOAH ショア」「ソビブル、1943年10月14日午後4時」「不正義の果て」
2月14日(土)より3週間限定、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開”
以降、全国順次公開予定。
http://mermaidfilms.co.jp/70


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/1413-f2e42cb7

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (237)
JOB/WORK (285)
映画 (235)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (41)
METAL/HARDCORE (47)
PUNK/HARDCORE (395)
EXTREME METAL (127)
UNDERGROUND? (84)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (117)
FEMALE SINGER (41)
POPULAR MUSIC (24)
ROCK (76)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん