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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『トゥーマスト~ギターとカラシニコフの狭間で~』

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アフリカ大陸北西部のサハラ砂漠の遊牧民であるトゥアレグ族のバンドで
ピーター・ガブリエルのレーベルから2008年に『Ishumar』でアルバム・デビューしている、
TOUMAST(トゥーマスト)を中心に描いた2010年のドキュメタンリー映画。

“主人公”はTOUMASTかもしれないが、
バンドが生まれた背景となるサハラ砂漠周辺の政治状況もじっくりたっぷり炙り出しながらリアルに綴る。
といっても説明的なところは映画理解のための最低限のものに留め、
グレイトなドキュメンタリー映画のすべてがそうであるように
映画の大半の舞台になったサハラ砂漠などの風景をはじめとする映像そのものの力も大きい。
すべてが頭で考えたものではなく痛みが染みている体で実感した話であり、、
TOUMASTをはじめとする人々が鳴らす楽器と声と心のビートが映画自体のビートになっており、
絶妙の流れと見せ方で引き込んでいく普遍的な視点で示唆に富む佳作である。


フランスが植民地にしていたことも含めて入り組んだ地域だけに複雑になりがちな話をシンプルにまとめた、
敷居の低い作りがまずありがたい。
トゥアレグ族やサハラ砂漠周辺国の大まかな歴史を紐解くイントロダクションで昔の映像を盛り込み、
予備知識がなくてもすんなり映画に入り込みやすい作りなのだ。

メンバーの話やバンドの演奏シーンを核に進めるが、
バンド・ドキュメンタリーの一般的な音楽映画とは一線を画す。
TOUMASTのメンバー以外の映像が過半数を占めてポリティカルなニュアンスも色濃い映画だが、
否応無く政治的にならざるを得ない現実がそのまま映画の時間の中に生々しく刻まれているから
すべてが自然だ。
民主主義という名の主張ゴリ押しの政治映画や“反体制気取りのエゴイスト”とは別次元である。
真に弾圧され続けて貧困にあえいで家族も含めて死ぬか生きるか殺しも覚悟の日々だからこそ
ナイーヴなヒューマニズムを突き刺して突き抜けており、
敵が見えにくい反体制の姿勢がリアルなものとして伝わってくる。

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日本関連でサハラ砂漠周辺における最近の“身近”な出来事としては、
日本のプラント会社・日揮のスタッフも犠牲になった一昨年1月のアルジェリア人質事件が挙げられる。
そのアルジェリアやブルキナファソともTOUMASTは関係を築き、
マリとニジェールの政府とは熾烈な反目の関係になったが、
国家間の狭間で苦境にあえいでいたTOUMASTのメンバーらに唯一手を貸したのが
反米/反イスラエルの強硬派として知られたリビアのカダフィ大佐だったことが興味深い。
リーダーの男性はゲリラ戦隊の訓練をリビアで受けている80年代にギターを覚えたが、
リビアからの派遣先のレバノンで攻撃対象にしていたイスラエルに対して自分らは別に敵意はなく、
中東よりも自分たちのトゥアレグ族問題が大切ということを再認識。
サハラ砂漠に戻ってニジェール兵らから武器を奪って自分自身の戦いに臨む。

だが徐々にそのカラシニコフ銃を置きつつ楽器を手にしてバンド活動を進めていく。
「ギターを手に戦いを続けることにした。もう銃は使わない」ということだ。
サハラ周辺はたやすく音楽ができる地域ではなくニジェールではカセット・テープすら禁じられたが、
TOUMASTのトゥアレグ族は新聞もラジオも持たないから音楽がメッセージになるというのもあり、
活動を続けたのである。

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言うまでもなくお勉強して得た知識とは違って体の一部だからポリティカルな話も頭デッカチになってない。
この映画のすべてが生活、
いや“life”から生まれているがゆえのことだ。
もちろんいわゆる文明を拒絶しているわけではなく、
近代を適度に取り入れた生活をしていて自動車で移動もする。
でも世界一美しいサハラ砂漠で生きる自由の民としての誇りを持ち、
わずかな家財で生活する遊牧民としての生活もじっくりと映し出している。

権利のためには武器を持つ。
それしか手段がないからである。
だがTOUMASTがエモーショナルであると同時に理性的でもあることは随所でうかがえる。
民間人と軍人を区別することはじめとして“敵”をしっかりと見て行動する。
両国の行動が自分たちの手助けになったケースも体験しているから、
時に複雑な思いを抱きつつ“あなた方の立場はわかる”といった感じで反フランスや反米の声は聞こえてこない。
そもそも「(サハラ周辺の)状況が変わらない限りここ<パリ>が俺の居場所」と言うTOUMASTは、
フランスを拠点にしている。
すべてはサハラの平和のためだ。
理想を実現するために現実的な行動を取っているようにもうかがえ、
映画全体が現実を見据えて理想を貫くトーンになっている。
「政治家や法律家が必要なことは承知だが、世界中にメッセージを伝えなければいけない」
というメンバーの話もうなずける。

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TOUMASTの姿勢の表われであろう政治と音楽のバランス感も絶妙の映画である。
下手したらお手軽になりがちなライヴ映像だけに頼ることはなく、
スタジオ・レコーディングの難しさを語るシーンをはじめとして、
「トゥアレグ・トランスを作りたいと思った」と語るミュージシャンとしての姿もしっかり収めている。
ワールド・ミュージックのイメージのバンドはインテリやスノッブがたかるから敬遠しがちの僕だが、
TOUMASTと親交が深くトゥアレグ族バンドの先輩であるマリ出身のTINARIWEN(ティナリウェン)は、
CDを気に入って2005年の来日公演は観に行った。
TOUMASTはもっとロックを感じさせ、
LED ZEPPELINは言うまでもなく、
MASTODONBARONESSあたりの
ハードコア/ストーナー/エクストリーム・メタル以降の土臭い野性のヘヴィ・ロックに通じる、
野生の“現在進行形のロック”と言い切りたい。


演奏シーンが映る際には適宜歌詞も日本語字幕で表示される。
気高いから“不幸自慢”はしない。
押しつけがましいから“戦え!”という調子の歌もない。
先が見えない紛争の渦中で生活する人々ならではの哀しみと命の音楽である。
何よりクールだ。
醒めているとか冷めているとかいう空気感とは違うかもしれないが、
イージーに“みんなでひとつになりましょう”といったノリでもなく、
適度に突き放した佇まいだからこそ真に開放的であり“絆”が息苦しく感じる僕でも居心地がいい
すべてはTOUMASTがこれまでのハードコアな人生で体得した他者との快い距離感なのかもしれない。

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TOUMAST以外のパフォーマンス・シーンも特筆すべきで、
未を亡くした女性や独身の女性が集った音楽グループの存在もたいへん興味深い。
抑圧されているアラブ女性は本来のトゥアレグ族と違い、
「トゥアレグ音楽に女性は欠かせない」ということである。
もちろん地域によって事情は極端に異なるが、
90.年代の民族間の大虐殺を経て再生したルワンダをはじめとして
アジア以上に女性が活躍している国がアフリカには少なくないことを象徴もしている。

地政学的に身近と言える一般的なイスラムのイメージとはヴィジュアル的に精神的も一線を画す。
TOUMASTが女性を含むバンドであるのはトゥアレグ族の伝統であり、
そういったこともさりげなく織り込まれている。
イスラム国云々の今だからこそ触発されるところも多い映画だ。


バンド名は、
TOUMASTのメンバーのトゥアレグ族が使うタマシェク語で“アイデンティティ”を意味する。

オススメ。


★映画『トゥーマスト~ギターとカラシニコフの狭間で~』
スイス/2010年/88分
2月28(土)より渋谷アップリンクにて公開。
http://www.uplink.co.jp/toumast/


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コメント

なんと,Toumast

こんにちは.

Toumastの映画ができるなんて,びっくりです.
自分も力強く土臭い楽曲がとても好きです.

しかし,あらためて複雑な環境に暮らしているんですね.
なんとも,言葉がすぐに出てこないです.

自分には,Rokia Traoreの『beautiful Africa』と合わせて,
今の時代を代表するアフリカン・ポップスだと思います.
どちらも強烈でした.

では,また!

ss2gさん、書き込みありがとうございます。
Toumastを御存知でしたか、さすがです。僕はこの映画で初めて知りましたが、グッとくる音楽ですね。やっぱり甘えた響きではないのです。複雑な“民俗的バックグラウンド”を要所を押さえつつわかりやすく描いている映画です。Rokia Traoreもチェックしてみます。

あらためまして…

返信ありがとうございます.

映画評を見て思わず投稿してしまいました.
帰宅してToumast,引っぱり出して聴いてみました.

記事の内容が頭にあったためか,最初に聴いた印象よりも
センシティブというか繊細さも秘めた演奏だな,と思いました.
自分は,Jefferson Airplainなんかを連想しました.

当時,Tinariwenすっ飛ばしてたので,チェックしてみます.
それでは,続けざまに失礼しました.

ss2gさん、書き込みありがとうございます。
僕もToumastのアルバム、チェックしてみます。

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昔のインテリの理想

そういうことで、昔のインテリの理想の人間像、つまり今の生活に完全に満足して明日のことを思い煩う気がしないような人物にとっては、ひまを守ることがつらくないはずです。しかし残念ながら、実際にはそういう理想の人間はこの世に存在できない、と思われます。

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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