なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ザ・トライブ』

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久々に五感が痺れる映画に出会った。
“セリフ”がすべて手話で放たれて字幕がない2014年のウクライナの劇映画である。

本作が初の長編になる74年生れのミロスラヴ・スラボシュピツキー監督の出身地、
ウクライナの首都キエフで撮影。
ポリティカルな映画ではない。
でもウクライナは第二次世界大戦中にナチスと関係を持たされた後にソ連に組み込まれ、
80年代はチェルノブイリ原発事故が起こった“国”だ。
いまだ東部中心に戦闘による死傷者が絶えないロシアとの軋轢が一番激しかった2014年のウクライナで
これほど示唆に富む挑戦的な映画が作られたことも驚きだし、
ギリギリの状況の中からしか生まれ得ない映画だから必然でもある。
ニヒリスティックなほど強烈極まりなく手法的にも映画史に深々と刻まれる作品だ。

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僕も手話がほとんどわからず正確なストーリーを書くことはできないから、
試写会の時にいただいた資料やオフィシャル・サイトを基に書いてみる。

物語はシンプルだ。
高校生と思しきセルゲイが転校した聾唖者専門の寄宿学校は
同学年程度と思しき生徒が中心の“族(トライブ)”に支配されていた。
外出可能ながら校内のすさみ方や閉ざされた中での暴力的な上下関係は少年院のイメージである。
“試されている”ような手荒い“歓待”をセルゲイも受けるが、
囲まれても屈しなかった気合いを認められて仲間にされる。
“族”のメインの資金源は売春で、
先輩の付き添いでセルゲイも同級生の二人の女の子を長距離トラックの待機場に送り届けていたが、
そのうちの一人であるリーダーの愛人に恋をする。
自分がトラックの運転台に上がってドライバー一人一人に掛け合って“売り”をあっせんしている葛藤もあり、
セルゲイは彼女を救って状況から抜け出したくなる。
だが事はすんなり進まない。

手話がわかる方は内容を正確につかめると思うが、
手話がわからない方は映像と物音から湧き上がったイメージを紡いで一人一人自分なりの物語を編む。
手話で語られる“言葉”の字幕入りで“正確なストーリー”を知りたくもなるが、
“誤解”もまた新しい真実になるのが世の常ってもんである。
すべての物事に言えるように悲惨なほど他者に対して無神経で想像力が壊死している世の中、
個々の対象に真正面から向き合ってイマジネイションを駆使しなければ何も生まれない。
この映画はプリミティヴな作りでそういう原始の感覚を呼び戻す。

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メインの出演者の男女二人は本物の聾唖者とのことだが、
他の登場人物もほとんどが聾唖者の役で、
ほぼすべての人が手話を使う。
いわゆる健常者の声は一部のシーンにおけるざわめきしかない。
字幕も出ないからいわゆる言葉は一切ない。
映画である必然性が薄いほど言葉に頼る映画に対する挑戦にも見える。
セリフ/字幕に気を取られて注意が行き届かなくなりがちな映像や音声に
自然と注意を払うようにもなる映画だ。
見どころだらけの作りだから僕もほんとスクリーンに神経が集中した。

一般の映画以上に神経を研ぎ澄ましてスクリーン臨むことでドラマが無限に広がる作品でもあり、
普段使わない視覚と聴覚の“帯域”を震わせる。
映像に集中しなければならない点で聾唖者の方の感覚で見ることもでき、
音声としての言葉が閉ざされた空間と時間が恐怖とともに味わえよう。
と同時に言葉がないとはいえ音声の響きに集中するから盲目の方の感覚でも見ることもできる。
声がほとんどないだけでなく基本的に静かなシチュエーションの映画だから
ひとつひとつの物音のインパクトが強烈で、
ときたま漏れる言葉にならない声の力も俳優陣たちの熱演から伝わってくる。
“闇”で行なわれる中絶手術に耐える女の子の断末魔の声をはじめとして
ギリギリの精神状態になった時の聾唖者の声の生々しさは、
それっぽいメッセージを歌いながらも生ぬるい甘ったれた声の百万倍尊く正直だ。

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核のみに焦点を当てた映像も強烈である。
1シーン1カットの適度な長回しを多用して固定カメラと思しき場面が多いが、
移動のあるシーンではカメラが“ストーカー”のように人物を追っていく。
とにかく映画を見ている人が一つ一つの場面を直で目撃している気分になる作りで、
情緒を殺ぎ落としたハードボイルドな流れは怖いほどである。
言葉のない映画だから人物の表情は感情表現の一つとして重要だし、
感情表現の起伏も読みとれる手話の手の動きも大切な視覚要素だが、
意外とアップを多用してない点も特筆したい。
様々な意味で狭い範囲をクローズアップすることは避け、
やや引いた場所からカメラが撮っているシーンが目立つ。

でも対象から腰が引けて逃げているわけではない。
むしろその逆で恐ろしいほど真正面から向き合っている。
必要なものだけをフレームに収めて無駄を削ぎ落とし、
場の空気を伝えるアイテムをしっかりとフレーム内に収めた緻密なカメラ・ワークも素晴らしい。

スクリーンをフル活用した映像の切り取り方も見事で、
セックス場面も横長のサイズを活かし切って69や交尾のシーンを“表裏のない描写”で露わに映す。
中途半端な愛で動議づけて“ハァハァな見せ場”を過剰に挿入する映画も多いが、
『ザ・トライブ』のクールなセックス・シーンはあまりにあからさまだけに本能的で肝に響く。
まばたき一つしないで真正面からカメラがとらえたストレートな映し方が圧巻で息を呑むほどだ
“入れて出すだけ”の動物的な短時間の描写も含めて“男性主観視点”というのも意味深で、
挿入から射精までの一部始終を感情を削ぎ落としてありのまま記録。
そこで虚無を超えた美のエネルギーを放射しており、
淡々としたセックスだからこそ事後のキス・シーンもこの上なく美しい。

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未来の光が見えない“すえた低温の色合い”で曇天の殺伐感が漂い、
見ていて窒息しそうなほどすさんだ雰囲気が充満した校内の映像も見事だ。
一種の“デリヘル”みたいな調子で運ちゃんたちに売春を持ちかける深夜のトラック待合所では、
場末のムードで満タンの性欲が排気ガスと共に噴き出している。
そして映像の冷気に覚醒される。

物音は聞こえてくるが音楽は挿入されない。
最後の最後に歌もののテーマ曲が無神経に流れてきてそれまでの雰囲気ぶちこわしの映画が内外に多いが、
この映画はそういう余計なお世話は無し。
“夜明け前”の静けさの中でケリをつけた絶句必至のラスト・シーンも、
廊下を歩く足音とテロップだけで終える荒涼としたエンディングもグレイトだ。

メッセージはわからない。
だがそういう表現こそが地獄の底無し沼の如く永遠に深いことをあらためて知らしめる。
必見。


★映画『ザ・トライブ』
2014年/ウクライナ/カラー/132分/HD/1:2.39/ドルビー5.1ch/字幕無/手話のみ
4月18日(土)、渋谷ユーロスペース、新宿シネマカリテほか、全国順次ロードショー。
http://thetribe.jp/


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コメント

ごぶさたです.先週観てきました!
このブログで初めて知って,楽しみにしていました.

先ず,冒頭,学校の場所をおばさんに聞く場面に
この映画の手応えを感じました.音を聞くことが
できない人たちにっとっての人の声を,車の走行音
(雑音)で表現する.まさに映像メディアならではです.

普段,ろうあ者を気にとめない自分にとって,彼らを
イリーガルな集団として描く物語の構造も強烈でした.

ただ僕は,終盤,インパクトのある構図と状況設定だけの
描き方に多少疲れました.役者が熱演なだけに,上に書いたような
豊かな比喩表現でみせてほしかったです.
確かに,裏表のない描写としては力強いですね.

ラストも,物音で注意を喚起できないと命取りになるのはわかるんですが,
この題材にしてはストレートにすぎないかなと思いました.
ホラーちっくな映像にして,フィクションを伝えるのは正しいと
思いますが・・・

比較してもしょうがないですが,ラース・フォン・トリアーが
スキャンダラスであざとさ200%の映画を撮っても,
核心を外さないことは,それで才能なのだなあと,何故か頭をよぎりました.

では,ブログの更新楽しみにしています!

p.s tinariwenなかなアルバム売っていないので,ライブ映像観ました.
ああいったスタイルのオリジナルなんですね.クール!


ss2gさん、コメントありがとうございます。
ほとんど声がなくても物音が聞こえるというのがポイントの一つの映画ですからね。となると自然と聞こえてくる音に敏感になります。プラス映像で効果は大きいです。
ろうあの人たちをイリーガル集団で描く発想も興味深いですね。ほとんどの人は手話が理解できないから、わかりやすくあえてベタな物語にしたのかもしれませんが、なるほど比喩的なやり方をもっと使うとまた面白さが出たとも思います。
確かに、このブログでも『アンチクライスト』を書いたラース・フォン・トリアー監督の手法よりストレートで、若気が感じられます。ラース・フォン・トリアーといえば最新作『ニンフォマニアック』も観たのですが、理屈っぽい会話はともかく、すべてを御破算にするラスト・シーンで考えさせられて、実は紹介するのをやめてしまったのでした。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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