なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

Lizzy Mercier Desclouxの5枚のリイシュー盤



80年代をメインに活動したフランス生れの女性シンガーソングライター/ミュージシャンの異才、
リジー・メルシエ・デクルーの5枚のアルバムが紙ジャケットの日本盤でリイシューされている。
ロック史とか名盤ガイドみたいなものから漏れがちなアーティストだが、
守りに入った意識のものが最近すごく嫌になってきているからハマった。
変わればいいってもんじゃないが、
女性ならではと言えるやわらかい感性にじわじわとヤられ、
フランス出身の自称“永遠のコスモポリタン、ボヘミアン、ジプシー”ならではの音の旅が楽しめる。


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オリジナル・ファースト・アルバム『Press Color』(79年) はダンス系のニューウェイヴとも言えるが、
当時のメイン・ストリームのコマーシャルな音から外れて好き勝手に踊っているサウンドだ。
エレクトロニクスは未使用で基本的には3人でレコーディングしたプリミティヴなプレイで、
曲によっては彼女自身もギターやベースやパーカッションを演奏している。
アーサー・ブラウンの「Fire」のリメイクから始まり、
映画音楽で知られるアルゼンチンの音楽家ラロ・シフリンの「Mission Impossible」「Jim On The Move」、
ペギー・リーの「Fever」の替え歌の「Tumour」もやるという、
伝統的なものを探求しつつ進取の精神に富む彼女の特異な才気が走ってリスナーを追わせる。
英米生れのアーティストにはない“品のいいアウトロー”なセンスは、
当時も今も自国語にこだわりをもつシンガーが多くロックとは一定の距離を置くフランス出身ならでは。
そんな彼女が大半の曲を英語で歌ったこと自体も様々な意味でチャレンジだったと思う。

ボーナス・トラックは10曲。
ギター2本と彼女の歌でニューヨーク拠点に活動していたデュオROSA YEMENの6曲(78年録音)や、
ビル・ラズウェルの音楽をバックにアルチュール・ランボーの詩をパティ・スミスと詠んだ曲(95年)など、
いずれも世に出てありがたい音源である。


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セカンドの『Mambo Nassau』(80年) は、
後にTOM TOM CLUBの『Tom Tom Club』も手がけた、
ジャマイカンのスティーヴ・スタンリーとの共同プロデュース。
アルバム・タイトルはバハマのナッソーのコンパス・ポイント・スタジオで録音したことに由来している。
彼女のヴォーカルは上手いとかではないかもしれないが、
ファンクを軸に色々ニューウェイヴな感性で取り入れて楽しみながら踊いながら歌う姿が目に浮かぶ。
POP GROUP解散後にその演奏陣が組んだバンドやSLITSのセカンド以降にも近いが、
先を行っていた。
同時代のいわゆるポスト・パンク勢とは一線を画し、
逆にパンクがお里ではないことを強みにしている。
ニーノ・ロータの「Milk Sheik」やKOOL & The GANGの「Funky Stuff」のカヴァーもクール。
オリジナル曲のストレンジな佇まいも捨てがたい。

ボーナス・トラックはほとんどが82年録音の6曲(うち1曲は日本盤のみ)。
本編は英語で歌われたラヴソングが中心だが、
追加された中にはフランス語でリラックスして歌って愛らしくも濃い曲があり、
政治的なニュアンスが顔を出す曲も。
あまり表立った活動がない時期の95年に録ったボブ・マーリーの「Sun Is Shining」のカヴァーも素敵だ。


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サードの『Zulu Rock』(84年) はいわゆるワールド・ミュージックの範疇に入りそうなサウンドだが、
やはり白人女性ならではのニューウェイヴな感覚で臆せず展開している代表作の一枚。
かつてアフリカ大陸を植民地にしたフランス出身の彼女が、
アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国の黒人ミュージシャンをバックにレコーディングしたことで、
ちょっとした物議を醸し出したとか。
他人と違うことをしたら文化侵略と言われたりして“異種交配”にもデリケイトな時代ならではの話である。
ジャケットをそれっぽいヴィジュアルでキメたこともそんな話題に拍車を掛けたのかもしれない。

いつでもどこでも無邪気を肯定する気はないが、
あらゆる意味で“ポップ感”に包まれたこのアルバムはまっすぐだ。
当時の政治状況からすると大胆かつ挑戦的でもある歌詞も含めて肯定性に満ちている。
ジェイムズ・ブラッド・ウルマーの『Are You Glad To Be In America?』や、
POP GROUPのギタリストとドラマーを含むRIP RIG & PANICの『Attitude』も手がけた、
アダム・キドロンのプロデュースも微妙なバランス感覚の彼女の音楽を上手にまとめ上げている。
すべてオリジナル曲という点にも自身が感じられ、
よりリラックスしてゆるい音で歌声も突き抜けている。
滑らかなサウンドの波はアフリカン・ビートというよりも、
“ファンカラティーナ”という言葉を復興させたい気持ちよさ。
弱っているときに聴けばますます力となる。

ボーナス・トラックのうち日本盤のみの1曲は本編のリミックスだが、
他の5曲はすべてフランス語で歌われている。
本編は大半が英語なのはポピュラリティを考慮してのことだったのかもしれないが、
フランス語だとより生き生きと聞こえる。


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86年にリリースされたサードの『One For The Soul』は、
その前年の8月にブラジルのリオデジャネイロでレコーディング。
引き続きアダム・キドロンがプロデュースを行ない、
大ざっぱに言ってR&B、
アルバム・タイトルになぞらえればソウル・ミュージック。
穏やかなジャズもブラジル音楽も入っている。
アル・グリーンの「Simply Beautiful」に加え、
トランペットで参加したチェット・ベイカーのテイクでも知られる「My Funny Valentine」もカヴァー。
2曲のボーナス・トラックのうち1曲はマーヴィン・ゲイの「Let’s Get It On」。
ソウルフルというよりはポップに仕上がっており、
線の細いヴォーカルにも表れた大人の女性になりきれない未成熟さが魅力だろう。

ジャケットの変遷にも表れているが、
自由な気質の彼女ならではというかアルバム単位でやることが違う。
変わるというより、
その時々でやりたいことを臆せずにやる。
いったん射た矢は戻らず行ったままみたいで、
ひとつのところに留まることがないことは歌詞にも表れている。
普遍的な内容の曲もあるが、
このアルバムではプライヴェイトな視点を感じさせるものが目立つ。
ポップ・パンクがかった「Women Don’t Like Me」は、
同性に挑戦状を叩きつけた“フェミニズム・ソング”と勝手に解釈もできる。
歌詞がすべて英語だからポピュラリティも高い。


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そして『Suspense』(88年)はアルバムとしては最後になった作品。
CONTORTIONSらと共に78年のオムニバス盤『No New York』に参加したMARSのマーク・カニンガムと、
英国のニューウェイヴ・バンドを多く手がけていたジョン・ブラントとの共同プロデュース。
すべてオリジナル曲で前作の流れをくみつつ、
いい意味でポピュラリティが高い洗練された滑らかな音だ。
曲によっては木管楽器や金管楽器や各種弦楽器が彩りを添えている。
全編でドラムを叩いたブルース・スミスなる人はPOP GROUP~RIP RIG & PANICの人だろうか。
本編の半数の曲をフランス語で歌っていてその特有の響きのアクも強いが、
エスプリを効かせつつ歌詞の内容もポップ・ミュージック的だし、
ヴォーカルはどのアルバムよりもキュートかつ大人っぽい。
このレコーディングのあと絵画の方に集中したことを思えば、
ひとまず音楽をここでやり切った感もある。

ボーナス・トラックは6曲。
英語で歌った4曲と、
POP GROUPの『Y』やSLITSの『Cut』のプロデュースで知られるデニス・ボヴェルのミックスの2曲だ。
特に86年の9月に録音された後者はゆっくりと疾走する素敵なレゲエ・チューンで、
誰もが解き放たれるハッピーなグッド・ヴァイブレイション・ソングである。


残念ながらリジーは2004年に癌で他界している。
享年47歳であった。


●リジー・メルシエ・デクルー『プレス・カラー』(Pヴァイン PCD-24238)CD
英国盤デザインのジャケットの18曲入り。

●同『マンボ・ナッソー』(同 PCD-24230)CD
フランス盤デザインのジャケットの16曲入り。

●同『ズールー・ロック』(同 PCD-24231)CD
フランス盤デザインのジャケットで2006年のマスタリングの18曲入り。

●同『ワン・フォー・ザ・ソウル』(同 PCD-24235)CD
フランス盤デザインの二つ折りジャケットで2008年のマスタリングの15曲入り。

●同『サスペンス』(同 PCD-24239)CD
フランス盤デザインのジャケットでドイツ盤に付いていたセルフ・ライナーの和訳付で、
2008年のマスタリングの16曲入り。

すべて内袋が復刻されて大半の歌詞とその和訳付。
カラーではないが貴重な写真も盛り込んだ日本盤のブックレットも丁寧な作りだ。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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