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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『イマジン』

イマジン メイン (2)


1963 年ワルシャワ生まれのアンジェイ・ヤキモフスキ監督による長編3作目。
アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した勢いでロングラン上映中の『イーダ』や、
同じく静かなる強力作『幸せのありか』(旧“邦題”『ライフ・フィールズ・グッド』)に続き、
“ポーランド映画祭”が昨年のジャパンプレミア上映で日本のシーンに送り込んだ映画である。
盲目の男女を中心にした物語を綴り、
これまた可能性無限の映画でしかできない表現で五感をゆっくりと震わせて切り口に富み、
ポーランド映画云々のみならず映画史にひっそりと刻まれる示唆に富む佳作だ。

イマジン2

視覚障害者に治療などを行なっている寄宿診療所にやってきた義眼の男のイアンは、
担当する子供たちに斬新な技術でトレーニングを試みる。
“手打ち”や“舌打ち”など自ら発した音の反響で周囲の物の存在を認識する“反響定位”と呼ばれる手法を教え、
日頃自ら放棄して実戦している視覚障害者には欠かせない白杖を使わない歩行を目指し、
転んだりつまずいたりして傷だらけになりながらイアンは日々奮闘。
戸惑いと反発を覚えながらも開放的な気持ちを味わっていく子供たちは、
“外の世界”に導こうと刺激的なイアンのやり方に少しずつ惹かれていく。
だが普遍的に興奮とは背中合わせのものと言える大きなリスクが伴うイアンのアグレッシヴなやり方は
以前から周りの人間から危惧されていて、
まもなくイアン自身がケガを負うだけでは留らなくなった。

そういった流れと同時進行で男と女の物語も展開される。
イアンの隣の部屋に住む盲目の成人女性のエヴァはほとんど引きこもりの日々だったようだが、
鳥を呼び寄せるために種を窓際にまくイアンの行動に興味を示したことをきっかけに二人は接近。
直接の“生徒”ではないとはいえ内向的なエヴァはイアンの“外向的”な姿勢に惹かれていき、
イアンの手ほどきで二人は白杖無しで診療所敷地内から出て行って外の世界を五感で楽しむ。
どちらからということもなくいつのまにか二人は惹かれていき、
様々な“障害”を抱えて乗り越えながら
視覚的な魅力以外のすべてでゆっくりと近づいて交感していく。

イマジン1


裸眼で夜間外出すると事故を起こすと確信できるほど僕も視力がイマイチだから多少は想像できるが、
日本だと視覚障害等の方が白杖無しで外出することが道路交通法で禁じられていることも納得できる。
だが傷だらけになりながらもなお白杖無しでの歩行を試みるイアン。
そういう積極果敢なアティテュードの映画としても楽しめる。
歩行の際のつまずきは人生のつまずきとも解釈でき、
そこを克服することで次に進めるとも読める。

気持の面も含めて“外に出る意識”に包まれた映画だ、
イアンに続いて自然な流れでエヴァや男子生徒も実際に診療所敷地内の門を出て、
かたやリスボンの街の中へ、
かたや港にまで足を延ばす。


治療/トレーニングのシーンではリアリズムに引き寄せている。
対象の人などが発する何かの物音や匂い、
そして触覚・・・薔薇のトゲが刺さる子が続出するシーンも描かれる。
そういったシーンでの男と生徒たちのやり取りも見どころで、
うわべだけに留まらないコミュニケーションの映画でもある。

言葉数の多い映画ではないからこそセリフのひとつひとつが大切で、
特にメインの男と女の駆け引きが見どころだ。
“このあとどうなるのか・・・”というスリルとサスペンスの要素も密かに仕込まれ、
わりと聴き取りやすい英語だから軽妙な会話も自然と耳に入ってくる。
イアンは仕事に対して真剣な一方で何気に“粋”を気取り、
人目を気にする外出時のみならず診療所領地内でもしょっちゅうサングラスでキメているが、
カッコつけているからこそズッコケるシーンに苦笑を禁じ得ない。
そんなイアンの嫉妬心を何度も煽るエヴァが一枚も二枚も上手(うわて)である。
二人がサングラスかけて外出している姿も実にクールで、
ジェラシーを覚えるほどロックを感じる“絵”なのだ。


靴音の響きが外出の“命綱”にもなっているだけに履物にも注意が行く映画だ。
たびたびアップで映し出される男の革靴からは使い込んだ味が滲み出し、
女のサンダルとヒールや、
子供たちのスニーカーなどにも目が行く。

混血雑種のハイブリット感覚もさりげなく持ち味になっている。
ポーランドの監督が、
英国人男優とルーマニア系ドイツ人女優を“主演”にし、
ヨーロッパの南西の端であるポルトガルのリスボンをロケーション地にして撮影。
微妙な“交わり具合”と“混ざり具合”が淡く深い味わいの映画の仕上がりに一役買い、
それぞれの“誤差”が面白みを醸し出している。
世界各国から集まっているらしい診療所の子供たちの人種が雑多なところにも注意したい。

イマジン3

動きや言葉のひとつひとつが、さりげない映画である。
恋に落ちる流れにしてもそうで、
僕は“ポーランド映画祭2014”で最初に観た時にはいつのまにか恋に落ちていた印象だったが、
試写会で二度目に観た時は“ここでこうしてこうなったのか……”とニヤリとした。
深い映画は感じたことがない体験を観るたびに味わう。
ただし“いかにものディープな映画”によくある重たい空気感はなく、
本作のキーワードのひとつにもなっている“海風”のような佇まいに覆われている。

先端都市の半歩ぐらい後をゆっくりと歩んでいるようなポルトガルのリスボンの街並みの景色も、
この映画にぴったりである。
くつろげる雰囲気でいっぱいだ。
すべてがナチュラルな映画で自然光を活かした映像はあたたかく、
やわらかな陽の光でずっと目覚めの気持ちになる。
障害の程度によっては盲目の方でも“光”を感じるというが、
自然光を活かし切ったこの映像には生と命の光を感じる。
開かれた意識も感じる。
ゆっくりまったりしたリズムの音楽がそこに寄り添う。


素敵な映画はやっぱりラストが染みる。
目にも耳にも肌にも鼻にも舌にも心にも染みる。
続きは観た方それぞれの“imagine(想像)”の中で・・・とでも言いたげなエンディングも心憎い。
これが理想的な男女関係かもしれないと僕はあらためてジェラシーを覚える。
ロマンスは相手を想う“イマジン”から生まれることを知る。

ありふれた感動を超え、
これまで体験したことがない気持ちに包まれ、
心が静かに震えて深い余韻を残す。
オススメ。


★映画『イマジン』
2012年/ポーランド・ポルトガル・フランス・イギリス/105分/カラー/デジタル
配給:マーメイドフィルム
4月25日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムで公開後、全国順次公開。
Ⓒ ZAiR
http://mermaidfilms.co.jp/imagine/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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