なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ベラ・ヴィータ』

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『ワン カリフォルニア デイ』(2008年)などの
サーフィン・フィルムの監督として知られるジェイソン・バッファが、
プロ・サーファー/アーティスト/環境保護活動家のクリス・デルモロらと作った
2013年のドキュメンタリー映画。

サーフィン映画も奥が深く、
僕が観た作品だけでもオーガニックだったりサイケデリックだったりハードコアだったりして色々ある。
この『ベラ・ヴィータ』は父親がイタリア生まれの前述の男性二人が中心になり、
イタリアで撮影された初のサーフィン・ドキュメンタリーとのことだが、
サーフィンを映しているだけではなく示唆に富んでいる。
節目節目にサーフィン・シーンを織り込んでロードムーヴィの趣きも含みつつ、、
サーフィンをキーワードに人間を通して大きく開かれた世界へと持っていく映画だ。

サブ1

拠点のカリフォルニアをはじめとして世界中を旅していたクリス・デルモロが30歳を迎え、
故郷のイタリアの田舎で3ヶ月間の旅をする。
もちろんサーフィンは切っても切れないわけだが、
“形のある波”だけではなく、
自身のルーツの家族や友人たちとの関係性といった“瞳に映らないもの”も描かれ、
彼らの生活やイタリアの文化の匂いに包み込まれていく。

輸出文化の国のイタリアもサーフィンは輸入もので、
カリフォルニア・スタイルとは違うイタリア流でやってきた。
カリフォルニアとイタリアでは人間性も海の波も違うだろう。
歴史の浅いイタリアのサーフィンの話を展開する中で、
イタリアのサーファーや板作りのイノヴェイターの話などマニアの心をくすぐるネタも盛り込まれているが、
敷居を高くしてない。
そういう話題も人間の生き方やつながりに焦点が当てられ、
ナチュラルな形で自然との関わりを描いているからだ。

サブ4

南北に細長く昆虫の触覚のごとく南にアンテナを伸ばした南欧の地で、
ここ数年“アラブの春”関連で話題の絶えないチュニジアをはじめとしてアフリカ大陸に近く、
日本語のイメージどおりの海の地中海に囲まれたイタリアならではのホット&クールな空気に覆われている。
国境が見えないカリフォルニアの海とは違い、
陸地が遠くなくて“国境”が近い海でサーフィンするイタリアならではのバランス感も漂う。
カリフォルニアより波もゆるやかに見え、
サーフィン・シーンも空とのバランスの取れたクールな映像で魅せる。

わずらわしくないタイミングで次々と流れてくる音楽もナイス!だ。
音楽ジャンルとしてのいわゆるサーフ・ミュージックだけではないが、
どの曲もサーフ・ミュージックに聞こえるゆるやかなスピード感の波乗り具合が絶妙なのである。
そして自然体のままオーガニックでスピリチュアルな方向に導いていく。

サブ5

本作の“メイン・キャラクター”のクリス・デルモロから派生した人々にスポットが当てられるが、
キーワードは“家族”“友達”“仲間”といったところか。
といっても“家族自慢”の類いの映画じゃない。
そもそも友達の家族の紹介はあっても、
話題を避けるかのようにクリスは自身の家族/家庭については深く言及しない。
クリスの父親と母親は不仲で、
その夫婦が仲むつまじいレアな写真を披露しながら、
両親揃って一緒に仲良く暮らした記憶が幼い頃しかないことを語る。
クリス自身が家族に関していい思い出がないからこそ、
友達やその家族、サーフィン関係者などの仲間を大切にして映画に収めているようにも見えるし、
彼にとっては自身のルーツを探るべく自分の祖父の過去とつながる旅でもあるのだ。

といっても身内ウケでしかない映画とは一線を画し、
サーフィン界隈に疎い僕も引き込まれたほど普遍的な作りの映画になっている。
人間のつながりがテーマのひとつだが、
人生を縛りつけるほどの重い鎖になりかねない“絆”じゃなく、
サーフィンや波のイメージのゆるやかでストロングなグルーヴの関係なのだ。
おっきい波や景色も含む映像から醸し出される空気感がそれを表し、
自然ともに息をしていることも映像で醸し出す。

サブ6

人間同士のつながりと共振しながらさりげなく“環境”への大切な思いも映画に溶かしこまれている。
エコなメッセージと呼べるほど押しつけがましい理屈ではなく、
まさに映画ならではと言える作品全体の“気配”で伝える。

他者を責め立てることはない。
取って付けたラヴ&ピースを説くわけでもない。
まずは自分がどうするだから、
自分自身の言葉で話し、
自分自身のやり方で動く。
謙虚だからこそ深く説得力が息づいている。

サブ7

友達を作るのに苦労したカリフォルニアよりも開放的だと自分が感じるイタリアを愛して、
友達やその家族などを紹介しつつクリスは、
“身内”を大きく超えて世界規模で物事を見ているし感じている。
海と交わりながら世界を見わたしているサーファーの器のでかさに包まれていく。

サーフィンの経験はないし海とは違うが、
僕も週2回2000メートルずつ市民プールで泳いでいて水の感覚が身体に染みついているから、
水との交わりが心の解放にもつながることを多少なりとも感じている。
水に浮いて進むことは社会システムで言えば一種のアナーキー状態をいかに操って司って生きるかであり、
水と調和することは自然とのハーモニーであり、
水と戯れることによって身体でそういった感覚を覚えると思うのだ。

サブ8

登場する人たちの言葉は頭デッカチではなく体と心から生まれたシンプルだからこそリアルだ。
「人は魂の入ったものを求める」
「人が作ったものがなくなりつつある」
「サーファーにとって社会貢献が大事」
「海のおかげで仕事ができる」
「海を守るのが大切」
「伝えたいのは大きな海ではなく関わり合うこと」
といった心に響く名言がいっぱいである
感謝とリスペクトの気持ちが穏やかに滲み出ている。

そういった流れで本作のメイン・キャラクターのクリス・デルモロは、
いわゆるグラフィティ(≒落書き)とは違い、
真剣に伝えたいがために関係者の許可を取って自らビシッ!と責任を負って“壁画”を描いた。
クリス曰く「環境のための作品」で巨大なクジラの画が描かれる。
意味深ではあるし作品の評価も様々だろうが、
考え方の違いを含めてそこから会話が始まり、
環境について考えるきっかけができ、
つながることを期待しているのだ。

サブ9

ポーランド映画『幸せのありか』の英題の“Life Feels Good” というフレーズが僕は大好きだ
(注:最初の日本上映時は“邦題”も『ライフ・フィールズ・グッド』だった)。
“人生いい感じ”というニュアンスになると思うしビシッ!とした語感とリズムが気持ちいいから、
気持が腐るたびに口に出して言ってみるのだが、
この『ベラ・ヴィータ』のキメの言葉である“Life Is Beautiful”を僕は今後付け加える。
“人間・イズ・ビューティフル”ではないかもしれないが、
何が起ころうと“ライフ・イズ・ビューティフル”と思わせてくれる映画なのだ。
ヒガミ屋の僕でもそう思うのだから間違いない。
“Life Is Beautiful”・・・突き抜ける語感とリズムに胸がすく。
ちなみに映画のタイトル“Bella Vita”は“美しき人生”を意味するようだ。

もちろん言葉による説明がメインの映画ではない。
なにしろ映像そのものがプラス思考の淡くやわらかな色合いで彩られている。
海はもとより太陽、丘陵、ブドウ畑、ワイン、食べ物などが映り込まれたちょっとした光景もさりげなく“画”になっている。
イタリア現地の人たちの様々な面での協力も大きかったらしいが、
低予算ためのDIYな撮影が奏功して撮りたいものをストレートに撮った映像になり、
適度に粗削りの質感がイイあんばいだ。
サーフィン・シーンや景色も含めて、
やっぱりでかいスクリーンで観るとさらに解き放たれる。

個人的には“自分がいつも居る場所”みたいなところとは違う映画だが、
違っているからこそ思わぬ発見がいっぱいだ。

人生に乾杯。


★映画『ベラ・ヴィータ』
2013年/86分/カラ―/アメリカ・イタリア/イタリア語・英語/シネマスコープ/デジタル
配給・宣伝:レイドバック・コーポレーション
6月13日(土)より、東京:ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪:シネ・リーブル梅田、
神奈川:横浜シネマリン他全国順次公開。
©2014 BELLA VITA MOVIE,LLC
http://www.laidback.co.jp/bellavita/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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