なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ルンタ』

ルンタ メイン


中国政府に抑圧弾圧されているチベットの問題をテーマに描いた映画。
『延安の娘』(2002年)、『蟻の兵隊』(2006年)、『先祖になる』(2013年)を手がけた、
池谷薫監督ならではの厳しくもあたたかいまなざしの“人間ドキュメンタリー”である。

政治的なテーマを扱うにしても“トレンド”に流されることのない池谷ならではの制作だ。
“今なぜチベットか?”と問われても“何も変わってないから”と答えるであろう、

チベット問題は一時期音楽方面でもよく話題になった。
BEASTIE BOYSが中心になったイベントの“チベタン・フリーダム・コンサート”は、
90年代の後半から2000年代の頭にかけて米国だけでなく日本でも何度か行なわれた。
2009年には難波章浩が中心になったオムニバス盤『ソングス・フォー・チベット・フロム・ジャパン』も出た。
『ルンタ』は、
そのアルバム・リリース直後あたりから始まったとされる“焼身抗議”を核にチベット問題と人間を炙り出す。

ルンタ2

人知れぬ場を選ぶとしても自死によって問題がアピールされる側面があるとはいえ、
もちろんチベットの人たちの“焼身抗議”はいわゆる自爆テロとはまったく別物だ。
他の人を巻き添えにはしない。
同じ中国国内での抑圧に対する闘いでも、
新疆ウイグル自治区などで過激な行動とる人たちともまったく違う。
すべてはいわゆるpacifism(≒平和主義)の非暴力闘争の一貫であり、
つつましやかでもある。

RAGE AGAINST THE MACHINEが92年に出したセルフ・タイトルのファースト・アルバムを思い出す。
アメリカが侵攻してまもない頃のベトナムで撮影された写真らしいが、
そのジャケットも仏教徒の焼身写真だった。

“焼身抗議”についてあらためて色々と考えさせられる映画でもある。
仏教などの“利他”の目的を持って覚悟を決めたチベットの人たちが親などに残した“遺筆”は、
『きけ わだつみのこえ』にも載った日本の学徒兵や特攻隊員の“遺書”も思い出す。
チベットの人の中には“自らに火を灯す”という気持ちで“焼身抗議”をする者もいる。
「ハートに火をつけて」という邦題が付いたDOORSのヒット曲の原題「Light My Fire」も僕はイメージする。

ルンタ3

『ルンタ』は中国政府の非道を告発するみたいなドキュメンタリーとは一線を画している。
収監された方々は残酷な拷問の様子も語ってはいるが、
そういった具体的な仕打ちのひどさ以上にインタヴューから深く伝わってくるのは、
諦念を超えた気高さだ。
いや囚われた方々だけでなく、
この映画に登場するすべての人が気高い。
因果、縁、業(≒カルマ)、慈しみなど
チベットの仏教のアティテュードやスピリチュアリティに裏打ちされている。

もちろんテーマは重い。
でも風通しよく仕上げるのが監督の“池谷薫流”である。

チベット問題を扱った映画には、
定番と言える劇映画の『風の馬』(98年)、
真っ向勝負のストロング・スタイルの映画『雪の下の炎』(2008年)、
少年が中心になったマイルドな感動ものの『オロ』(2012年)などが挙げられる。
ある意味そういった映画の硬軟の要素をバランスよくブレンドしつつ、
あくまでも池谷監督ならではの描き方が成されている。
もっと言えば中国残留日本兵を扱った『蟻の兵隊』に近い手法が取られているのだ。

ルンタ1

チベットの亡命政府が置かれているインド北部のダラムサラに30年間住み、
直接的/間接的にチベットを支援して焼身抗議”を行なった人の詳細なリポートもブログで逐一発信し続ける
52年広島生まれの“チベット亡命政府専属の建築家”、
中原一博を通してチベット問題が描かれている。
仏僧らの様々なスタイルの“デモ”などの様子も盛り込みつつ、
中原が様々な“現場”に脚を運びながらチベットの関係者の方々に話を訊いていく語り部になって
まったりと映画が進むのだ。

“中国が主な舞台”ということで2002年の“デビュー作”『延安の娘』とつながる映画だが、
“元気なジジイを撮らせたら日本一!”みたいな
敬意たんまりのキャッチコピーも以前どこかで見かけた池谷監督ならではだし、
『蟻の兵隊』や『先祖になる』と同じくアクティヴな中高年の男性の行動を追っていく作りである。

“チベット亡命政府専属の建築家”とも呼ばれるその中原一博が
こだわりの一つとして目を離さずフォローして全世界に伝え続けている出来事ゆえに、
必然的に“焼身抗議”がキーワードになってもいるが、
おっとりした中原のキャラのユーモアも交えて軽妙な筆致でチベット問題が綴られる。
と同時に単なる脇役の語り部以上の存在として中原が扱われ、
チベットに心が向かった精神的経緯も含めて
チベットの人たちと共振して交流する一人間としての中原一博の魅力もさりげなく溶かし込まれているのだ。
あちこちの“現場”を見て回っているから紀行ドキュメンタリーのようなところもあるが、
ポイントを押さえつつ敷居を低くして重苦しくならないように
そうやって中原が“クッション”のように佇んでいる。

中原がナビゲイターになってチベットの文化や宗教、自然を伝えるような映画にもなっており、
スクリーン映えする映像もふんだんである。
草原や野菜市場などからは詩情や生活臭が滲んで叙情的な味わいが感じられるが、
のどかな風景だからこそそこに中国政府が打ち込む無言の圧力のクサビがコントラストで際立つ。

様々なチベットの人間の“生のドラマ”を綴っていく映画だから、
情緒的な音楽の挿入などで主題を薄めることはない。
ホロコーストの映画『ソビブル、1943年10月14日午後4時』を想起する強烈なエンドロールに、
監督の思いが集約されている。

ルンタ サブ

チベットの人たちはカラフルな色で気持ちを表現している。
僕には希望の色に見える。
チベット語で“風の馬”を意味する“ルンタ”が天を翔けているのも見えてくる。


★映画『ルンタ』
|2015年|日本|カラ―|DCP|111分|16:9|5.1ch|日本語・チベット語|
監督:池谷 薫 (『延安の娘』『蟻の兵隊』『先祖になる』)
製作:権 洋子/撮影:福居 正治/音響構成:渡辺 丈彦/キャスト:中原 一博/配給:蓮ユニバース
7月18日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラム他全国順次公開。
© Ren Universe 2015
http://lung-ta.net


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Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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