なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』

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英国北部スコットランド・グラスゴー出身のバンドのBELLE AND SEBASTIANを率いる、
1968年生まれのスチュアート・マードックが自身の二十代の経験を活かして脚本を書いて監督を務めた
ミュージカル仕立ての“青春ロマンス映画”。
物語、俳優、音楽、ファッションの魅力がブレンドできる映画にしかできない表現の作品で、
脚本も演技も映像も“ガールズ映画”のど真ん中をポップに走り、
じれったい恋と友情を奇跡の出会いとして淡くヴィヴィッドに描く快作だ。

メインの出演者は、
主人公のイヴが88年オーストラリア生まれのエミリー・ブラウニング(『エンジェル・ウォーズ』他)、
ヘタレ男子のジェームズがYEARS & YEARSのシンガーでもある90年英国生まれのオリー・アレクサンデル、
二人の音楽仲間になるキャシーが89年英国生まれのハンナ・マリー(『ゲーム・オブ・スローンズ』他)である。

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うつ病と拒食症の治療のためにスコットランドのグラスゴーで入院中のイヴは、
病院を抜け出して向かったライヴハウスでバンドとステージに立っていた理屈っぽい草食系男子ジェームズと出会い、
彼と同じ建物の別室で暮らすようになる。
まもなくイヴはジェームズがギターを教えているキャシーとも出会い、
街を貫く河に沿ってカヌーで遠出をするなどして楽しみつつ
3人で一緒に音楽を作って他のメンバーを募集しながらバンド結成を試みる。
一方でその前からイヴは病院でピアノを弾いてソングライティングもしながら音楽で世に出るチャンスを探していて、
自分の曲を録音したデモ・テープをジェームズではない他のバンドのメンバーに渡し、
その男と“関係”を結ぶ。
と同時にイヴとジェームズは惹かれ合っているにもかかわらず友達以上恋愛未満の関係が続いていたが、
イヴは“前に進む”のであった。

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プロデューサーの“まとめ力”も作用しているとは思うが、
映画のタイトルをはじめとして監督・脚本のスチュアート・マードックのセンスにうならされた。
ミュージシャンが監督した映画だからといって必ずしもそうなるわけではないが、
けっこう短時間で切り替わる場面転換のタイミングをはじめとして、
まず映画全体のテンポが素晴らしい。
ドキュメンタリーものも含めてどんな映画でもノリ切れない作品は
結局は頭デッカチで全体のテンポがダメなパターンが多いが、
この映画は最初から最後まで“心のビート”が鳴り続けていて体感リズムが弾んでいる。
だから恐ろしいほどスクリーンの中に引き込まれてしまうのだ。

登場人物たちを包容しながらストーリーに寄り添って挿入される音楽の素晴らしさは言うまでもない。
スチュアート監督はこの映画の本格的な制作に着手する前の2009年にまずサントラをリリースしているほどで、
音楽からイメージを広げて映画を仕上げていった過程がうなずける曲と音がほんと絶品なのだ。
インスト・ナンバーもさることながら、
メインの役者3人が中心になって演じながら劇中で披露する“歌もの”は、
大半が踊りながら歌われるだけにパンチが効いている。
もちろんミュージカル仕立ての映画が陥りがちの“うるさいほどのやりすぎ感”から遠く離れ、
クールな“体温”をキープして控えめなのはBELLE AND SEBASTIANの音楽と同じだ。

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JOY DIVISIONやThe SMITHSやPASTELSからニック・ドレイクや10CCまで、
スチュアートの音楽趣味の“小ネタ”が登場人物の会話の中などに小出しされているのも心憎い。
それほど無名なアーティストの名前は出てこないが、
もちろん知らなくても十分に楽しめる。
だってとっても開かれた映画だから。

データでやり取りするのが一般的なこの時代に
二十代頭と思しき少女イヴがデモ・テープを作っているところにも、
スチュアート監督のフレッシュなレトロ・センスが表われている。
スコットランドの香りとグラスゴーの風味でどこもかしこも彩られ、
さりげない自己主張っぷりが見事な登場人物たちのファッションにもいつのまにか目が奪われる。
こだわりは映像などのディテールにさりげなく出ていて、
ちょっとした小物などのアイテムも大切な表現になっていることは言うまでもない。

そういういった身に着けるものだけでなく風景なども含めて色合いの品が良く鮮やかで、
みずみずしく甘酸っぱい映像には目が覚める。
晴れやかなのに嫌味がないこういう淡くて鮮やかな映像はどこにもあるようでどこにもない。
もちろん撮影技術の裏付けがあってのことだろうが、
余計な作為なしで映画に臨んだからこそだと確信する。

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そして何より中心になって物語を進める3人がとってもチャーミングだ。
ジェラシーを覚えるほど3人のポップな関係が微笑ましい。
無邪気に見えるし冷めているようにも映るがいやらしくなくポジティヴで、
少女少年の佇まいのこの3人が子どもっぽく見えるようで自立した大人に描かれているところも好きだ。

スコットランド/グラスゴー流とも言うべきボケとツッコミみたいな会話の妙味もたまらない。
ゲラゲラ笑うというより炭酸が抜けるように笑い声が出ないみたいな調子で、
半分ナンセンスな皮肉スパイスでチクリと刺すユーモア・センスにも数秒後にクスッ……っと笑わせられる。
露骨なシーンの代わりにキュートなエッチ・ネタを盛り込んでいるのもその一つだ。

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どこもかしこも無駄がない。
けど“余白”たっぷり。
だから心地いい時間が楽しめるし味わえる。

素敵な映画すべてがそうであるように、
ほのめかしながら余韻を残すラストもお見事。

オススメ。


★映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
イギリス/2014年/英語/カラー/111分/DCP上映/原題:God Help The Girl
2015年8月1日より、新宿シネマカリテ、ほか全国順次ロードショー
© FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
http://godhelpthegirl.club/


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コメント

これはっ、、、

気になってた映画です。先月某ミニシアターで映画を見た時に、チラシを貰ってました。ブライアン・ウィルソンの映画とどちらにしようか迷ってましたが、Pastelsの名前に背中を押された感じです。

スコットランドが舞台と言うのも魅力的ですね。『マクベス巡査』や『刑事タガート』(古いけどグラスゴーが舞台!)が好きだったんで、あのひんやりした空気感も楽しみたいです。ご紹介ありがとうございました!

Re: これはっ、、、

yuccalinaさん、書き込みありがとうございます。
チラシのイメージそのままで、PASTELSの雰囲気の映画ですね。グラスゴーの空気感が好きでしたら間違いない映画です。考えすぎで余計なことをしすぎる映画が多い中、王道ストーリーでフレッシュに見せる素敵な映画です。観て良かった・・・思えますよ。

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プロフィール

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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