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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

HIGH ON FIRE『Luminiferous』

HIGH ON FIRE『Luminiferous』


米国の“エクストリーム・ヘヴィ・ロック・バンド”HIGH ON FIREによる、
『De Vermis Mysteriis』以来の約3年ぶりの7作目のオリジナル・アルバム。

張りつめた気持ちでCDをプレイヤーにセットし、
例によって正座の姿勢で深呼吸してから“play”ボタンを押す。
1秒でHIGH ON FIREだとわかる。
今回もやってくれた。
このバンドと同じ時代に生きていることにあらためて喜びを覚える。


プロデュースと録音とミックスは今回もカート・バルー(CONVERGE)。
2作続けて同じエンジニアというのは初めてだから
HIGH ON FIRE自身も前作で余程相性の良さを実感したのだろうが、
それも納得である。
メンバー3人の意識がカオティックな音像になり、
さらなる超重量級のリアリスティックな“生”のメタルに仕上がっている。

彼らも特に印象的なフレーズを入れた曲をオープニング・ナンバーに持ってくるが、
いい意味でサビがキャッチーかつ勇壮なメロディ・ラインのアップ・テンポの曲で始まる。
もともとBOLT THROWERなどのクラスト系デス・メタルのリフやリズムとも接点をもっているサウンドだが、
今回はそれがよくわかる。
珍しくツー・ビートで走る2曲はHIGH ON FIREにしてはストレートに走っていて驚かされ、
“クラスト・メタル(≠メタル・クラスト)”の加速度が全開だ。

プレイがとことん野性児の一方で、
むろんブルース~ロックンロールの伝統から解き放れたロックのテクスチャーはますます緻密で複雑だが、
それを感じさせないミュージシャンシップの高さにあらためて痺れる。
特に手も足も休める瞬間がないデズ・ケンセル(ds)のドラミングは過小評価もはなはだしい。
このドラムだからこそHIGH ON FIREはどんな曲をやっても加速している。
ドゥーム・ロックを応用したようなスロー・パートにも引き込まれる。
本作で参加4作目になるジェフ・マッツ(b)の自己主張もさらに高まって豪放なグルーヴで曲を引っ張り、
ドライヴ感は止まらない

そしてカリスマ性も帯びたフロントマンのマット・パイク(vo、g)のギターとヴォーカル。
リフの剛腕ぶりに磨きをかけながら、
簡潔なギター・ソロはSLEEP時代からのシャイな妙味をキープしつ、
さりげなくやさしい表情もたたえている。
“HIGH ON FIRE節”みたいなスタイルが完全に確立しているとはいえ、
今回も多彩な長めの曲を展開しているが、
これまでにないたおやかな旋律も漏れてくる。
野生の歌心に加えてLED ZEPPELINの「No Quarter」を思わせる穏やかな歌心も聞こえてくる。
今までで最も暴虐でありながら、
いや、だからこそ最もやさしい。
極端であればあるほどもう片方も極端になる。
それが人間らしい人間の背中あわせだ。

Burrn!誌の最新8月号掲載のジェフ・マッツのインタヴューによれば、
マットはアルコール依存から抜け出すのに大変だったらしい。
“人助け”のためのおせっかいな音楽が蔓延している。
けどあらためて思う。
少なくても自分を救うことをしなきゃ死んでしまうくらいの崖っぷちの人間がやらなきゃ
はらわたを心から揺さぶる表現は生まれ得ない。
このアルバムは音楽にも歌詞にも甘えがない。
覚悟を決めている。
苦闘に聞こる。
突き抜けようともがく。
そして光を発する。
アルバム随所にたおやかな旋律がいつになく目立つのも象徴的だ。

僕が買ったCDを包装していたビニール・フィルムのステッカーに
“TO GENERATION OF BIKERS AND BARBARIANS~”と書かれていたが、
まさに!である。
特に“BIKERS”ってことなら、
BLUE CHEERMOTORHEADのラインに連なる堂々のサウンドと歌だ。
言ってしまえば友川かずきの初期の名曲「南無妙法蓮華経」みたいに、
“みんなで肩組んだラヴ&ピース”をファックする慈愛に満ちたバーバリアン・ロックだ。

以前マット・パイクは「人間が好き」というようなことを言っていた。
それはセカンドの『Surrounded By Thieves』(2002年)をリリースした後の
最初の日本ツアーの際にインタヴューした時の話だから、
最近どう思っているのかはわからない。
当時在籍していたオリジナル・ベーシストに
「だからお前は甘いんだよ!」と、たしなめられていたのも印象的だった。
けど今回のアルバムにしたって、
根っこで「人間が好き」あるいは「人間を信じている」のでなければ
出てこない音楽であり言葉だと思う。

アルバム・タイトルの変遷に表われているが、
歌詞は“盗っ人どもに囲まれて”みたいな調子のけっこうストレートなニュアンスのものから、
神話的/象徴主義的な色合いを強めていて宗教画のようにも映る。
だがどれもがリアルな言葉であり、
音とまぐわってブルータルと化したヒューマニズムに聞こえる。
体制も反体制も善も悪もヘッタクレもないエゴ丸出しの“正義”でもって争いだらけの世界で、
全身全霊の地鳴りの如きこのサウンドだけが信じられる。
エレクトリック・ギターの響きをでかい音で轟かせるアンプの如く、
意識と想像力を無限大に拡大増幅(amplify)させる音楽にしか成し得ない表現がここにある。

アルバム・タイトルの『Luminiferous』は“光を発する”“発光性の”という意味だが、
まっすぐな光ではなくジャケットのニュアンスの光に近い。
つまりは熱放射であり、
このアルバムのサウンドそのものじゃないか。

アルバムはスロー・ヘヴィに終わる。
厳しい行軍は永遠に続くと言わんばかりに。

獰猛な憎悪を突き抜けるための至福の一枚。


★HIGH ON FIRE『Luminiferous』(e one EOM-CD-9345)CD
約54分9曲入り。


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コメント

真打登場

いつも楽しみに拝見させて頂いております。
一時は先行きが見えず、どうなるかと思っておりましたが無事アルバムを完成してくれて感無量です。僕自身もベスト3に入るバントなので思い入れは半端なく緊張感を持って聴きました。どこから切っても間違いなくHighOnFire節が炸裂で一安心です。
モーターヘッドみたいにホント息の長いバントになってくれるものと思っております。

Re: 真打登場

jojokiさん、書き込みありがとうございます。
まさに真打登場!ですね。
もちろんSLEEPを嫌いなわけじゃないですが、もしかしたらそっちの方に力を入れるのでは・・・という危惧もしていたので、喜びもひとしおです。しかもこんなアルバムですからね。
モーターヘッドを引き合いにだすのもいいですね。このテンションのまま続けられるのか、という心配もしてしまいますが、コンスタントに出してアルバムが毎回同じようで毎回違うという点でも似ていますし、何よりロックの権化というところでどちらも別格です。

熱のこもった行川さんのレビューで読んでるうちに思わず肩に力が入ってしまいました。

“クラスト・メタル(≠メタル・クラスト)”な2曲を聴いていて2ndをはじめて耳にした時の興奮がよみがえってきました。
よく覚えてますが、2nd発売当時行川さんDOLLか何かで"クラスト"の進化版といったような評価をされていましたよね。あれは卓見です。このバンドを語るのに欠かせないキーワードだと思います。

それ以外のミドルテンポの曲も含めて全て凄いですね。特にVoがパワーアップしていて曲を引っ張っている印象さえ受けました。
話題になっている7曲目の"The Cave"ではDOWNのフィリップ・アンセルモを彷彿とさせる詩情豊かで繊細なVoも披露して聴き惚れました。

このアルバム聴いて、もっと自分自身と向き合い格闘できるんじゃないとか勇気がわいてきました。

長文失礼しました。

Re: タイトルなし

溝口さん、書き込みありがとうございます。
どうしても向き合う対象によって文の熱度が上下してしまいます。
クラスト云々という表現が通用する雑誌媒体といういことはDOLLのストーナー・ロック特集で書いた時ですかね。マット・パイクの音楽キャリアはクラスト・シーンが活動フィールドだったASBESTOSDEATHから始まっているわけで、セカンド当時のベーシストが特にAMEBIX好きだったというのでクラスト~と書いたというのもあります。自己保身に陥らずに様々な音楽のテクスチャーを織り込んだ現在進行形のクラストの一つの姿がこのアルバムにも感じられます。最近の他のアルバムだとTAU CROSSのデビュー作もそうでしょう。
ヴォーカルもますます力こもっていますね。フィル・アンセルモの引き合い、わかります。
> このアルバム聴いて、もっと自分自身と向き合い格闘できるんじゃないとか勇気がわいてきました。
僕も同じ感じです。HIGH ON FIREの音楽だけでなく、その素晴らしい言葉に僕も力が湧いてきます。こういう気持ちのリンクも音楽が持ち得る力ですね。

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
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