なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ベル&セバスチャン』

ベル メイン


日本では1980年代頭にアニメ『名犬ジョリィ』にもなった小説『アルプス村の犬と少年』が元の、
2013年のフランス映画。
英国スコットランド出身のバンドのBELLE & SEBASTIAN(BELLE AND SEBASTIAN)は、
そのセシル・オーブリーの児童小説のタイトルの原題『Belle et Sébastien』からバンド名を付けている。

少年と犬との交流を核にナチスの問題も絡めて描く物語である。
“子供+動物+家族=感動”という個人的に苦手なブレンド具合の映画で
観る前は“やっぱりダメかな・・・"とも思っていたが、
色々な意味で押しつけがましくなく、
まっすぐな攻めの描きっぷりに引き込まれてしまった。

監督は作家や探検家の肩書も持ち『狩人と犬、最後の旅』(2004年)も手がけている、
1962年フランス生まれのフラニコラ・ヴァニエ。
2005年パリ生まれで映画初出演のフェリックス・ボシュエがセバスチャン役で主演し、
1954年トルコ・イスタンブール生まれのチェッキー・カリョらが脇を固めている。

ベル2

ナチス占領下だった第二次世界大戦中の1943年のフランスが舞台。
アルプスのふもとの小さな村で、
血のつながってない“祖父”セザールやその妹の娘アンジェリーナと暮らす孤児セバスチャンは、
山で大きな野犬と出会う。
その犬をベルと名付けたセバスチャンは交流を深めつつ、
家畜や人を襲う“野獣”と見なして射殺対象にしていた村人らに対して誤解を解くことに必死だ。

一方アンジェリーナの恋人はナチスに狙われているレジスタンスで、
同じくナチスから狙われているユダヤ人の峠越えの“密出国”の手助けをしている。
とあるトラブルで彼が動けなくなってアンジェリーナが代わりを務めることになり、
途中で加わった“ベル&セバスチャン”が道案内人になって危険な豪雪の山の中を進み、
同じ年ぐらいの女の子を含むユダヤ人家族とともにスイスを目指す国境越えを試みる。

以上はあくまでも物語の大筋である。
いわゆる政治的な映画ではないが、
ナチスがユダヤ人全滅を目指した当時の基本的な知識さえあればストーリーに入っていけると思う。

ベル7

まずスクリーンで体験する価値ありありの映像が素晴らしい。
山岳地帯の険しさや冬の雪山の厳しさをひっくるめた雄大な景色の美しさに飲み込まれる。
何しろ遠近感のパワーと味わいを駆使した映像そのものが“メッセージ”で、
スマホとかのちっこい画面だの了解し合ったちっこい“サークル”だのを百万光年超越した、
でっかく開かれた自然界へと引き込むのである。
犬以外の様々な動物も自然の光景の一つとしてけっこう登場して目を楽しませてくれるし、
野性味を隠せない素朴な住民たちの姿も嗅覚をくすぐるいいアクセント。
一方でナチスの男たちのスマートな佇まいも絶妙なコントラストになっている。
光の活かし方も特筆すべきで、
晴れ渡った昼間の野外は言うまでもなく、
くすみがかった屋内や夜間も含めた雪上なども淡い像でしっかりと対象物の息遣いを見せている。

ベル4

さらに脚本で内面の視野の広さと深みを強めている作りだ。
原作本を元にしているとはいえ、
物語の持って行き方が情緒に頼りすぎずストロング・スタイルだから惹かれる。
撮影当時7~8歳とは思えない、
いや7~8歳だったからこそピュア&ストレートな演技の少年セバスチャンと犬のベルとの交遊もナチュラルだ。
家族のつながりも織り込んでいる映画だが、
死ぬまで逃れることができない“血のつながり”から解き放たれた“家族の絆の強さ”をさりげなく描き、
反目も確執も憎悪も突き抜けて加速していく流れに目が覚める。
人間の良心を信じてもいいかも・・・とヒガミ屋にも思わせるほどだ。

ベル1

孤児セバスチャンの母親がロマ人だったということも含めて、
さりげなくナチスや戦争に対する監督の思いが込められているようにも見える。
野犬だったベルを引き合いに出して、
“生まれつき凶暴な犬も人間もいない。虐待が戦争を引き起こす”みたいなセリフも挟み込む。
スペインの映像作家ホセ・ルイス・ゲリン言うところの“ほのめかす方法”で政治性を織り込み、
子供たちが “集団イタズラ”を試みるラスト・シーンも素敵だ。


★映画『ベル&セバスチャン』
2013年/フランス/フランス語、ドイツ語/99分/シネスコ/原題:Belle et Sébastien/
音楽:アルマン・アマール/主題歌:ZAZ「Belle」
9月19日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
(c)2013 RADAR FILMS EPITHETE FILMS GAUMONT M6 FILMS ROHNE-ALPES CINEMA


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コメント

こんにちは。
タイトルから気になってたんですが、やはりベルセバは関係あったのですね~!

セバスチャンの母がロマという設定も気になりますね。ロマもユダヤ人と同様に強制収容所送りになっていた訳ですし、今年岩波ホールで見た「パプーシャの黒い瞳」の中でも、ロマとユダヤ人が共存していたのが分かりましたから。

ところで、別記事の話になりますが、先日やっと「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」を見てきました。最初から最後まで、画面と音楽に引きつけられました。そのうち拙ブログでも何か書こうと思っているのですが、行川さんのブログ記事をトラックバックさせてもらっても良いでしょうか。
どうぞ、宜しくお願い致します。


Re: タイトルなし

yuccalinaさん、書き込みありがとうございます。
映画自体との直接の関係はないですが、原作本でつながっていて、必然的にバンドの方とも空気感が近いと思います。ロマに着目していただたのも、さすがです。そうやって物事を見ていくと世界観も視野も広がっていきますからね。
「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」、気に入っていただいて僕もうれしいです。トラックバックも大歓迎です。覗きに行きます。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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