なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

爆音ソクーロフ Vol.1~亡霊たちの声 at東京・吉祥寺バウスシアター

ソクーロフ


終戦直後の昭和天皇を描いた『太陽』でも知られるロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督の“映画祭”。
90~93年の作品の
『セカンド・サークル(Second Circle)』
『ストーン/クリミアの亡霊(Stone)』
『静かなる一頁(Whispering Pages)』
『ロシアン・エレジー(Elegy From Russia)』
を12月中旬に3~4日ずつ上映する催しに行ってみた。
今年見る最後の映画にふさわしく徒歩10分ほどのところの映画館での上映だから、
気合入れて前売りの4回券を購入して通ったしだい。
そこそこ大きな映画館だが連日30人前後の入場者の中でゆったりと見た。

普段紹介している試写会で見た映画も東京近郊の方以外は見るのが難儀というものも多いとはいえ、
時を経ずしてDVDになるものもある。
ただ今回の4本のほとんどは現時点でたやすく見られないから書くのもどうかと思ったが
(『ロシアン・エレジー』は今日の21時15分から最後の上映)、
深いところまでヤられてインスピレーションをもらったから普遍的な視点で簡単に書いてみる。


実際は腰に響く爆音の中低音は無しの映画がほとんどだったが、
80年代からハードコアなバンドのライヴやってきた会場ゆえ通常の上映より何倍も音声が大きくて、
さしずめ“ラウド・アンビエント”な響きに包まれて効果絶大。
今年日本で上映された『ボヴァリー夫人』もそうだったが、
響きへのこだわりがそうとうな監督である。
「ラジオドラマで形成された」というソクーロフの感情世界が全開で息を呑む映画ばかりであった。

やっぱり同郷の巨匠アンドレイ・タルコフスキーの流れも感じさせるが、
タルコフスキーの映画ほどの過剰なほどの“演出”はない。
『太陽』にしてもそうだったが、
じわじわと淡々と肉薄してくる。

演出を必要としないのは圧倒的な映像力ゆえのことだろう。
4作品ともほぼ全編モノクロで映像の彫りが異様に深い。
『セカンド・サークル』『ストーン/クリミアの亡霊』『静かなる一頁』には脚本もあり、
それぞれ、
父親の葬儀にまつわる話、
生き返ったチェーホフと館の万人の話、
老婆殺しの青年と娼婦の少女の話、
といった感じでもあるが、
ストーリーを楽しむ構成ではない。
そもそも展開がシンプルすぎるがゆえに明快な物語とはかけ離れ、
あとで映画の説明文を読むと“ああそういうことか…”と納得する仕上がりだ。

『ロシアン・エレジー』に至っては脚本がなくドキュメンタリー扱いになっているとはいえ、
冒頭の数分間は映像がなく会話だけ。
その後しばらくは帝政ロシア末期の写真の数々が一種のスライド・ショーみたいに映し出され、
その後しばらくは第一次世界大戦の戦闘シーンが映し出されていく。

けどみな抽象的とも観念的とも言いたくはない。
十分にダイレクトなのだ。

その鍵を握っているのが音。
物音ひとつが響いた瞬間の刺すような“ノイズ”のインパクトも表現になっており、
映像上に浮かび上がる“ノイズ”と共振している。
ちょっとした物音の怖さは深夜の静けさの中で聞こえる出刃包丁の如き音にも似ている。
ナマの映像とナマの音像のナマのまぐわいはアナログな感覚に満ちている。
映像無しで心臓を震わせること必至の音。
目を閉じて音に耳を傾けていてもイメージが浮かんでくるが、
そういう響きが映像と抱き合ったときの静謐なるモノクロのエナジーは格別だ。


無理やり音楽にたとえると、
サウンドが映像、
歌詞がストーリーか。
誰かを糾弾するメッセージで終わらないのが映画や音楽に内包する無限大の可能性とも再認識させられた。


数週間前に来春公開予定のとある日本映画の試写会で渡されたアンケート用紙に、
“日本映画に足りないものは?”みたいな問いがあり、
映像力と音……みたいな回答をして提出した。

映像力に関してはトラディショナルな日本の光景は外国に対して今も強みだろう。
けど音の使い方に関して欧米の映画に比べて気遣いの足らなさは否めない。
今ほど知られていない頃のMERZBOWのノイズを『エンジェル・ダスト』(94年)で使った、
石井聰亙みたいな映画監督も存在している。
ただひとつひとつの響きが映像と摩擦したときに熱を放つちからに対して全体的には認識が甘いと思う。
もっとも映画の世界だけではなく音楽の世界でもCDの最終的な音の仕上がりは、
様々な国の様々なジャンルを聴くと日本ではメジャーでもアンダーグラウンドでも詰めの甘い作品が目立つ。
日常生活でもそうだ。
少なくても日本のシステムは聴覚を研ぎ澄まさなくても便利なマニュアルはいくらでも用意されている。
だからこそ食うか食われるかの状況ゆえ音に対して敏感な野生の動物の感覚を失いたくない。


音で、
殺しもできるし、
昇天もできるし、
映像とファックすればもっとできる。


2009年のベスト映画の『アンナと過ごした4日間』も覚醒するほど響きが強烈だった。
近場に来たら鑑賞をオススメしたい。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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