なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『真珠のボタン』

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1941年南米チリ・サンティアゴ生れのパトリシオ・グスマン監督・脚本によるドキュメンタリー。
チリにおける先住民の受難や70~80年代の独裁政権下の民衆の虐殺をモチーフにしつつ、
血塗られた母国の歴史の一端を
“水”をはじめとする自然をキーワードにしたユニークな視点で描き出している。
貴重な写真や映像を交えつつ新たに撮り下ろした映像中心で進め、
適宜関係者へのインタヴューも盛り込みつつ
あくまでも映像作品として仕上げられた映画である。

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太平洋に面して7万4千キロに及ぶ南北に長い国のチリでも、
16世紀あたりにはヨーロッパからやってきた人々による“植民地化”が進行していき、
入植者が住むようになっていく。
先住民は脇へ追いやられ、虐殺され、人によってはアルコール依存症にもなっていった。
族によっては“神”や“警察”といったものとは無縁の生活もし、
何より先住民は様々な面で水を“糧”に生きてきた。

現代史の方では、
死者の数が及ばないからこそナチス北朝鮮ポルポト政権下のカンボジアなどの影に埋もれているが、
1973年にクーデターで生れたチリ軍事独裁政権のピノチェト体制下の暴政。
反体制派や前政権支持者とみなされた十万を越えるとされる人が強制収容所等で拷問や強姦で痛めつけられ、
3千人とも3万人とも言われる人が“行方不明”になった。
監督自身独房に監禁されて処刑される恐怖を味わったという。
水との関連についてを書くと、
殺された人々は砂漠に埋められもしたが、
浮き上がってこないように切断した30キログラムほどの鉄道のレールを括りつけられ、
海中に投げ捨てられたらしい。
一種の水葬と言えなくもないが、
一種の火葬ではあったナチスの大半の葬り方がある意味人間味を感じさせるほどの仕打ちである。

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言葉に頼ったドキュメンタリー映画とは一線を画す作品である。
先住民の末裔の何人かに語ってもらってはいるが、
訊く人を限定して話を凝縮して簡潔にまとめているのも的確だ。
話にリズムがない限りトークが長いとどうしてもダレるからである。
拷問経験者の知識人や詩人にもインタヴューしているが、
妙な政治談議に陥らない作りにもなっている。

ポリティカルな話を最小限に留めているのも正解だ。
たとえドキュメンタリーでも政治的な面をメインに出すと説明的になりすぎてイメージが限定され、
奥行きも深みも欠けがちになるからである。
被抑圧者や被害者をネタにすれば何でも感動!拍手喝采!みたいな“不幸自慢”に頼る映画とも次元が異なり、
クールな作りが見事だ。
疑似遺体に鉄道のレールを括りつける“再現シーン”もその一つである。

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まぶしいほどの自然美の映像でオープニングから引き込まれる。
自然賛美の類いの作品ではないが、
ポリティカルな要素とブレンドして“抑圧”されることなく“ありのままであること”を描いている。
鮮烈な色合いの風景と対照的な調子でアクセントになっているのは、
モノクロで映し出される先住民の貴重な写真や映像。
独自の文化の野生の佇まいに息を呑む。

都市での撮影シーンがほとんどないからと言ってしまえばそれまでかもしれないが、
ビルディングの類いの建物もほとんど映らない。
いわゆる文明の利器はほとんど映らない。
その例外の一つが“海中遺体探索”シーンだ。
40年ほど前に“捨てられたもの”だから海中に沈められた遺体自体はさすがに“原型”を留めてないが、
見つかった中には括りつけられたレールなどに殺された人の服のボタンが貼りついた状態のものも少なくない。
語らずとも雄弁なボタンが本作のタイトルの由来であり、
暗喩で伝えるこの映画を象徴している。

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「動きのあるものはなんでも音楽になる」というような発言がある。
水音を使った“音楽”と言えば
個人的には昔よくカセット作品を送っていただいた日本のユニットのAUBEを思い出すが、
いわゆる挿入音楽以外に水の音をはじめとする自然音がBGMみたいになっているところもポイントだ。

水は津波や洪水で人を飲み込みもするが、
水は生かし、
水はすべてを見ている。
テーマは重いが、
水と同じく包容力あふれる映画である。


★映画『真珠のボタン』
2015年/フランス、チリ、スペイン/16:9/82分/
2015年10月10日(土)から東京・岩波ホールで、
同じくペルー題材の同監督の『光のノスタルジア』(2010年)とともにロードショー。
(C) Atacama Productions, Valdivia Film, Mediapro, France 3 Cinema - 2015
http://www.uplink.co.jp/nostalgiabutton/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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