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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』


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野犬ブローカー役を自ら本作で務めたように俳優としても活動している、

75年ハンガリー生まれのコーネル・ムンドルッツォ監督/脚本の2014年の作品。

ゆっくりと加速しながら人間と犬の愛憎をクールな視点で描いた強烈な“ハードコア映画”である。

 

 

物語の舞台になったのは、雑種犬の飼い主に重い税を課す新たな法律が施行されたある都市。

母親の仕事の都合で13歳の少女リリは離婚した父親のもとにしばらく預けられる。

リリは雑種の愛犬ハーゲンも連れてきたが、

いつも不機嫌でそりが合わず彼女の気持ちを理解しようとしない父親はハーゲンを捨ててしまう。

トランペット奏者として所属するオーケストラの練習に参加しつつリリは愛犬を探すが、

ハーゲンは食糧を求めて漁っているところで脅されて逃げるも、

ホームレス、野犬ブローカー、闘犬調教師、野犬狩り人、

そして引き取り手が現れるまでの待機所であり殺処分の待機所でもある保護施設の人の元を転々とし、

やがて250匹の“仲間”とともに反乱を起こす。


サブ4

 

動物の愛護や殺処分の問題は色々と考えさせられるわけだが、

どこかで他の生き物を“食いもの”にしなければ人間は生きていけない。

食肉にしなくても首輪を付けたり家に閉じ込めて飼うのはいいのか?と突き詰めていくとどこかに矛盾が出てくる。

ヴィーガン・ストレートエッジを気取る人でも “不純物”を排す妙に潔癖症な輩は肉食人間より傲慢で、

結局この映画で“雑種”犬を排除する者と変わらない。

色々な面でハイブリッド“混血”を認めないのはそういう音楽のロックを認めないのと同じだ。

食肉産業の仕事の人たちと犬を絡ませたシーンを設けているのも
白黒つけがたい監督の複雑な気持ちの表われに見えるし、
犬が他の肉を食らう場面を見せていることで
結局は弱肉強食ということもほのめかしているようにも映る。

そういう葛藤にも似た感情が噴き出しているからこそこの映画は深く心臓を突き刺す。

ホワイト・ゴッド サブ3

 

人間と動物の交感と死闘の間で血に混じって流れ出る愛憎を描いた映画だが、

ハーゲンがたどる凄絶な“修羅の道”が見どころの一つ。

人間にいいように使われていく流れは、

他者をいいように使って利用していく人間世界と同じである。

まさに弱肉強食、

動物に対して身勝手な人間のみならず“人権屋”や“動物愛護屋”のモラルの喉元すら食いちぎる迫力だ。

監督が本気で人間や犬と向き合っていることが血管をも震わせる死に物狂いのエナジーで迫りくる。


ホワイト・ゴッド サブ2 
 

暴動というより反乱と言うべき統制の取れた犬たちの集団は、

無差別に獲物を求めて人間を襲うというより明確な対象人物を見つけ出して確実に殺るかのように駆ける。

リリの愛犬ハーゲンがリーダーシップをとり、

自分を捨てた人間や裏切った人間や傷つけた人間に対して復讐するかの如く街中を駆ける。

ストーリーと同じくまっすぐなその走りが圧巻である。

でかいスクリーンで映像を浴びると自分が250匹の犬に襲われている錯覚を覚えるほどだ。

 

激しい動きのシーンも遠近を活かして要所をしっかり撮りつつ、

いい感じで粗削りの作りだからこそ生々しく迫ってくる。

明るすぎない映像の色合いも的確だ。

 

ホワイト・ゴッド サブ1

 

リリと愛し合っていた頃とは“別犬”のにように、

ハーゲンの顔つきが野獣へと変貌していく過程にも息を呑む。

ハーゲンの行動はとても“演じている”ようには思えない。

もちろん虐待する人々も含めて俳優陣も迫真の演技で物語に命を吹き込んでいる。

特に主役のリリを凛然と演じたジョーフィア・プショッタはこれが映画デビュー作とのことだが、

ピュアながらナイーヴな感動ものとは一線を画す本作の肝のクールな佇まいに心の底から魅せられる。

リリの父親も嫌な性格全開で映画の中の辛いスパイスになっているだけに、

上から目線でも下から目線でもない“同じ目の高さ”のラスト・シーンが際立つ。

 

 

少女が吹くトランペットが映画の中で大切な力になっている。

音楽が持ち得る力をあらためて知る。

意識触発の映画としてもグレイトな作品だ。

 

 

★映画『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)

2014年/ハンガリー、ドイツ、スウェーデン合作/119分/シネスコ/配給:シンカ

1121日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー。

2014©Proton Cinema, Pola Pandora, Chimney

www.whitegod.net

 

 

 

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コメント

すぐに観たいと思いました。

ちなみに、ぼくの愛犬の名前がリリでした。
犬は人間が思っている以上に頭がよくて、
ぼくが子供であった事も理解して付き合ってくれていたように思います。また、よく犬や猫が飼い主の代わりに死んでいくという話がありますが、そういう意味でぼくは愛犬に救われました。
子供ながらに首輪という関係が嫌で、そう思った時から首輪を外していました。
普段は、おとなしい性格の愛犬が脱走し、近所にある広いグラウンドに入り、全力疾走をしている様は、本当に自由に見えました。

この行川さんの吠えたレビューを読んで、好きなバンドであるMiseryの名曲、Filth of
Mankindとそこから名前をとったと思われるバンドを思い出しました。

元々、雑種である音楽なのに、吠えてないアーチスト、バンドが多いと思います。
血統書付きなアーチスト、バンドも予想以上の音は出してくれません。
人間として、雑種でないから仕方ありません。

自分で喉を食いちぎった、あるいは食いちぎられたバンドは確かに代表作と呼ばれる
ものを残していると思います。

Re: タイトルなし

LIFEさん、書き込みありがとうございます。
LIFEさんにド真ん中の映画だと思います。リリという名も必然的なつながりでしょう。ぼくは犬にはほとんど縁がなくて、子供の頃はずっと猫を飼っていました。放任だったので外で飛び回っていて、よく交通事故で死にました。確かにクールですが猫も実は頭がいいのです。本能なのでしょう。
ポーランドのFilth of MankindはMISERYの曲名をバンド名したと思います。シンボリックなフレーズですね。

> 元々、雑種である音楽なのに、吠えてないアーチスト、バンドが多いと思います。
・・・以降の文もLIFEさんならではの着眼点とリンクのさせ方で、さすがです。見てないにもかかわらず、この映画の肝を捉えていると思います。バンドやアーティストも声が大きいとか凄むとかしても逆に心は吠えてなかったりしますし、なんもかも表面的なのが多すぎますね。

ついに観て来ました。

傲慢で汚らしい者同士が交わって生まれる
のが人間という生き物であり、人間こそが雑種だと思わされました。

社会背景も読み取らせる内容でしたが、どんどん身勝手になっていく人間への警告のようでもありました。

個人的に犬達に感情移入して観ていました。喉笛を食いちぎっちまえ!とか。

ラストは、やはり真剣に向き合う、上下関係なく向き合う事が、犬に対してだけでなく人間同士でも求められている、そんな気がしました。

ユナイトというワードも、この映画からは感じ取れました。

Re: タイトルなし

LIFEさん、書き込みありがとうございます。
犬を飼ったりしていたLIFEさんらしい視点ですね。
「人間こそが雑種」、まさにです。やっぱりNo one is innocentというか。
「やはり真剣に向き合う、上下関係なく向き合う事」も、まさに。カオスが続いてあのラスト・シーンというのも見事でしたね。
グレイトな映画って、善悪を語るより色々触発させる・・・そう改めて思う映画ですね。

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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