なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ひつじ村の兄弟』

ひつじ


北欧アイスランドの村を舞台にした2015年の映画。
老兄弟と羊たちが“主人公”なのだが、
そういう作品を老監督ではなく、
若手と言える77年生まれの監督(グリームル・ハゥコーナルソン)が撮ったところがまずユニークだ。
ほのぼのとした雰囲気の中で兄弟間の年季の入った反目をエナジーにしてゆっくりと加速し、
羊たちを介して近親憎悪の“冷戦”の雪解けが雪崩を成していく余韻の映画だ。

ひつじ2

アイスランドの辺境の村で暮らす老兄弟はほぼ隣同士に家を構えて住んでいるにもかかわらず、
40年間も口も利かない間柄。
実直で気が短く即直接行動に出る兄キディーと下の子らしくしたたかで頭脳派の弟グミーの共通項は、
立派なアゴヒゲに加え、
国内随一の優良品種で村の特産とも言える羊に人生を賭けてきたことである。

にもかかわらず兄キディーの羊が疫病に侵され、
保健所は感染の恐れのある地域の動物すべてを殺処分することを決定。
生活の糧も生きがいも羊という村人たちは動揺しながらみんなで話し合って個々が“進路”を決めるが、
死ぬほど羊たちを愛しているがゆえに老兄弟は保健所の言うことを聞かず、
各々の性格が表われた対照的な“独自の方法”を取る。
兄弟間の確執は続くが、
“死が迫った”あるきっかけで二人は羊を愛する“同志”として“結託”。
元気に見えて年齢的に老い先は短そうな二人が死を賭すのであった。

ひつじ8

家庭を持ってない独り暮らし同士の兄弟。
最低限の近所づきあいはしているが、
家の中には文明の利器がほとんど見えないことも相まって、
どちらも世捨て人に映る。
羊に情熱を注ぐこと以外は何もない。
でも孤独死の覚悟を決めているからこそ二人ともストロングで、
キャラは違えど元気である。
それぞれの存在が奇妙だし、
もはやアウトロー同士。
偏屈すぎて笑いも出てくる。

ひつじ6

彼らの親が片方を優遇した形になったことで二人の仲が引き裂かれたようにほのめかされるシーンもあるが、
そういう原因に関しては深く言及されない。
この映画を観ていると、
片方が世渡り上手く要領よく立ち回り、
片方が貧乏くじを引いて損をした人生を送らされたとずっと思っていたようにも映る。
でもお互いずっと気には掛けていて黙殺はしていなかった。
だからこそ何か事が起きれば銃で威嚇射撃するほどになる。
二人の思いは怨念の類いの感情的な問題を超え、
羊の品種等を競い合うライバル同士ならではのピュアな確執にも映る。
羊以外に失うものは何もない。
だからこそ羊たちがギリギリの状態になった時は裸で抱き合うほど命懸けで協力し合う。

すっぱだかでの熱い抱擁は若いカップルだけのものではない。
老兄弟だってやる。
人間ってもんは気持ちが高ぶると抱きしめたくなるものだ。

ひつじ9

とにかく映像に吸い込まれる。
横長のスクリーン目一杯に広がったアイスランドの村の景色で、
映画館の中がアイスランドの匂いに覆い尽くされるほどだ。
映像の発色も気温が低く見える色合いで、
やはり頭デッカチや理屈を無にする映像そのものの説得力がまず映画のパワーだとあらためて知らしめる。
穏やかの天候の時の穏やかな風景のまっすぐな静の映像は言うまでもないが、
そういう光景と背中合わせの死も意識させる暴風雪の映し出し方も暗いにもかかわらずダイナミックだ。
どちらも“生”の象徴として映し出されているように見える。

ひつじ4

“自分の食生活用”に飼ってもいたようで、
兄弟は骨付きの肉の塊入りのスープの食事もしている。

羊の存在はシンボルと言える。
普段おっとりしているが、ヤるときゃヤる。
この映画が“R15+”指定になっているのは羊のワイルドな交尾シーンゆえとも思えるほどだ。
特に個人的に出会った方々で判断するが牡羊座の人間によく見られる性格のようにオスは加熱したら止まらない。
そんな感じで結局、
押さえ切れない牡羊の性欲が元で兄弟が奇跡の“結託”を行ない、
“最期”に向かって加速する映画なのだ。

ひつじ3

映画は自由な解釈が魅力のはずなのに、
今の世の中みたいに何かと白黒つけたがる作品も増えているが、
この映画は説明しすぎの余計なお世話はせず結論は見た人の想像力の中でふくらませる。
この後のストーリーは自分で勝手に物語を続ければいい。
それが映画だ。

こんなラスト・シーンの映画は見たことない。


★映画『ひつじ村の兄弟』
2015年/アイスランド、デンマーク/スコープサイズ/DCP/93分/英語題『RAMS』
12月19日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
(C)2015 Netop Films, Hark Kvikmyndagerd, Profile Pictures 
http://ramram.espace-sarou.com/


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コメント

今年もよろしくお願い致します.

年明けに観てきました.
40年間口もきかない,一応隣同士の兄弟の血縁と,
血統が途絶えそうになる羊の話が,面白くからまっていて,
ある視点部門ならではの語り口だなと,思いました.

ラストの凍えた身体に血を通わせようとするシーンが,
大真面目にもブラックジョークにもとれて,よかったです.

血筋ってなんなのか,ひねった視点で観れる小品だと思います.

では!












Re: タイトルなし

ss2gさん、書き込みありがとうございます。
映画はほとんどが公開前の紹介ですし地方の方が観られない作品も多いと思いますが、リアクションいただけると力になります。
年明け早々に渋い映画・・・ss2gさんらしいセレクションですね。兄弟と羊が血縁~血統~血筋でダブっている・・・ss2gさんならではの着眼点・・そういう切り口に気づきませんでした。さすがです。「凍えた身体に血を通わせようとするシーン」・・・なるほど!ですねー。“血”がキーワードと感じると、さらに面白さがふくらむ映画ですね。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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