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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

VISION OF DISORDER『Razed To The Ground』

VISION OF DISORDER『Razed To The Ground』update


92年にニューヨーク州ロング・アイランドで結成されたメタル・ハードコア・バンド、
通称VODが約3年ぶりに出した5作目のオリジナル・アルバム。

再結成活動は前作『The Cursed Remain Cursed』をリリースして終わりかとも思っていたが、
ギタリストの一人だったマット・バウムバックが去って
96年のアルバム・デビュー時から不変の鉄壁体制が崩れたにもかかわらず、
活動を続けていて心の底からうれしい。

そして甘え無き声と音に身震いが止まらない。


HATEBREEDSHADOWS FALLなどのメタル/ハードコア系の名作を多数手がけてきた、
ゼウスがミックスとプロデュースとマスタリングを担当。
ありそうで今までなかった人選だが、
言うまでもなく相性バッチリである。

音を多少重ねてはいるとはいえ今回のレコーディングではギタリストが一人になって多少シンプルになったが、
一点集中のリフにもなった反復演奏から加速し、
マイク・ケネディ(g)が密かに得意とする哀切のメロディのギター・プレイも目立つ。
タイプは違えどWITH THE DEADに匹敵するリズム隊の二人は、
VODからしか生まれ得ない生のヴァイブレイションを繰り出して前へ前へと曲を押し進めていく。
ケミストリーは健在だし、
複雑なリズム・パターンの音のテクスチャーを勢いで一気に聴かせる。

98年のセカンド『Imprint』の曲がコンパクトに凝縮されたようでもあるが、
96年のセルフ・タイトルのファーストや2001年の4作目『From Bliss To Devastation』を思い出す
キャッチーなパートもアップデートして無理なく挿入。
CDを再生して1秒でVOD!とわかるほど“VOD節”全開のサウンドをさらに掘り下げて突き詰め、
粗製乱造のメタルコアだのスクリーモだのの似非“ポスト・ハードコア”を木端微塵に粉砕する。
KING CRIMSONが破壊的になったリズムもデス/ドゥーム・メタルのリフも織り込まれ、
カオティックなハーモニーの音像をふくらませている。

矢継ぎ早に叩きつけられる楽曲群は、
膨張した熱量で前作をアップデートしたかのようでもある。
だが、ますます壮絶だ。
混乱を曲にし、
錯乱を歌にしている。

もともとリアリスティックな表現のバンドだったといえ、
アートワーク同様にいつになく世界情勢が投影されたみたいな歌詞である。
米国がモチーフにもなっているようだが、
“war”という言葉が頻発している。
言葉遣いがストレートで、
“government”や“American hatred”も歌い込んでVODのイメージを更新。
むろん今までの歌詞と同じく言葉をよく知っているからこそ中学校レベルの単語しか使ってない。
それで深い表現をする。
ラスト・ナンバーの曲名「Amurdica: A Culture Of Violence」の“Amurdica”は、
“America”と“murder”をミックスした造語だろうか。

でも単なる政治的メッセージとは一線を画す地獄絵図である。
他者に真剣に向き合うことは、おのれに真剣に向き合うことと、あらためと思わされる。
おのれ自身と対峙し、おのれをえぐりだす。
でないとこういう歌詞は生まれ得ない。
ストイックな言葉の連なりは心の反目を血で描いた詩であり、
意識が無限大に触発される。

だが歌詞がわからなくても、
稀代のヴォーカリストであるティム・ウィリアムズ(vo)の声を全身に浴びるだけで総毛立つ。
いかにものメッセージ・ソングに限って声はウソばかりで底意地も下心も見えてくる。
このアルバムみたいに心の軋みも震えも声から聞こえてこなきゃウソだろ。
声の響きは正直だ。

90年代以降の米国のハードコア/メタルコア/スクリーモ・タイプのバンドに目立つ、
力まかせの単細胞スクリーマーとはまったく別次元の喉が激昂している。
ラップみたいに整然と言葉が進みやしない。
“はらわた”から搾り出したアナーキーな激情が炸裂しているからこそ、
スタイリッシュなヴォーカリゼイションにはなりえない。

逆上の歌心が貫くスクリームと歌唱は、
曲や音と調和と成しつつそれらとの軋轢のエナジーですべてを突き破りながらインプロヴァイズしている。
メロディ・ラインを歌うパートもひっくるめて、
これぞ全身全霊
凄味を超えて戦慄の妖気すら漂う。
なにしろ体裁を一切気にしてない。
内から湧き上がって止まない殺伐とした熱情を外に出さなければ死ぬ人間の表現がここで激しく息をしている。

すべてが鎮魂歌にも挽歌にも聞こえてくる。
だがこういうアルバムにし希望を感じない。
胸を刺し、胸を打ち、胸に響き、胸が熱くなる。

VISION OF DISORDERという究極の名を自ら背負ったバンドにふさわしい今年一番震えたアルバム。
グレイトと言うほかない。


★VISION OF DISORDER『Razed To The Ground』(CANDLELIGHT CDL558CD)CD
12面のインナーシート封入の約41分10曲入り。
僕が買った↑のカタログ・ナンバーのCDはデジパック仕様。


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コメント

真打登場2

いつも楽しみに拝見させて頂いております。
自分にとっては今年2度目の真打登場です。


VODの新作がまた楽しめるとは、、、。
ジャケットも今までにない感じですね。(ライトニングボルト風??)
じっくり腰を下ろして味わいたいと思います。


Re: 真打登場2

jojokiさん、書き込みありがとうございます。
まさに真打ですね。
VODは冷静さを失わせる音楽に出会える喜びにどっぷりになれるバンドです。
と同時にやっぱり自分や他者とどこまで対峙できるかを迫られるバンドであり、
こういうアルバムのことを書くには音楽/表現にどこまで真剣に向き合えるかの気合も自分に要求されるので、
エネルギーが必要です。
でもその分、解放感が死ぬほど格別なのです。
ジャケットがリアリスティックなコラージュなのも異例ですね。CRASSっぽいとも思いました。
それにしてもVODとLIGHTNING BOLTで同時に震える感覚、素敵です。

アルバム一枚限りの再結成だろうな、とタカをくくってましたが、新作をリリースしてくれるとは嬉しい誤算です。
単なる「おこづかい稼ぎ」で安易に再結成するバンドとは気合いが違うんでしょうね。
前作をかなり聴き込んだので、このアルバムも早く聴きたいです。

Re: タイトルなし

Korokuさん、書き込みありがとうございます。
僕もアルバム1枚で終わりと思っていました。このブログでREDSHEERを書く際にVODを検索していたから、ちょうど新作がリリースされる直前と知り、目を疑いました。日頃情報をフォローしてなかったので。
CANDLELIGHTから出すぐらいですからそこそこ売れていると思いますが、VODを再結成してもそれほど儲からないとも思っています。ただティムとマイク・ケネディはVOD休止時期にやっていたBLOODSIMPLEでの“失敗”を教訓にして、VODを再編したとも思います。
単なる「おこづかい稼ぎ」のバンドや、みんなと同じメッセージを歌わないと不安な主体性のないバンドとは、根本的なモチーフが違うことは、聴いて1秒でわかります。音が曲がどうこう以前に、空気感が違うんです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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