なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『殺されたミンジュ』

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『アリランや』『嘆きのピエタ』などで知られる、
60年生まれの韓国のキム・ギドクが監督した2014年の映画。
チャールズ・ブロンソン主演の映画『Death Wish』シリーズ、
いや集団でヤるから80年代の日本のテレビドラマ『ザ・ハングマン』を思わせる。
ただし勧善懲悪では終わらず“トゥー・マッチ”ゆえに痛快を超越して物哀しく、
苦悶の末に救いのない展開と容赦のない描写で意識を触発する作品だ。


ある日、女子高生のミンジュが集団に殺された。
しばらくしてから謎の集団が“容疑者”を一人ずつ拉致して犯した罪を白状させる行動に出る。
だが隊長の“やりすぎ行為が”災いして集団の結束が徐々に乱れていく。

主なストーリーの筋はそれだけ。
でも色々と考えさせられてアートな脚色もなく粗削りでまっすぐだからこそ生々しくて面白い。

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まず“プリミティヴな拷問見本市”みたいなシーンが見どころの一つである。
“容疑者”をアジトに連れ込んですぐに罪を認めれば手荒なことはしない。
だが善人を気取っている人間ほどそうならないのが世の常だから“自白”のための拷問を行なう。
その様子はほとんど暗黒警察さながらで、
実質的に死刑がなくなっている韓国の処罰状況の反動とも言うべき“私刑”は、
正視するのが難儀なほど残酷だ。
ネタバレを避けるべくぼかして書くと、
釘を打ちつけた棒やハンマーや電流や薬物などを使い、
頭や手や腕や男性器などを痛めつける。
そもそも殺すことが目的ではなかった。
自分が犯した罪を死ぬまで忘れないように
“不治の傷みと痛み”を肉体に植え付けるために行なっているようにも映る。


調べたら韓国の軍歌でも使われているらしい“滅共”という言葉や、
元の言葉はわからないが日本語字幕で表示される“アカ”という言葉に、
世界一クレイジーな国家の北朝鮮と臨戦態勢で対峙する韓国が舞台ならではのナマの反逆性が見え隠れしている。
終盤に明かされる謎の集団の隊長の前職を知れば、
気を抜けない“最前線”で異様な気合が鍛えられたことに納得させられるのだ。

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監督によれば韓国の格差社会もあぶりだしている映画だという。
親が子供の学力を上げるために獅子奮迅となる超学歴社会であることが象徴するように、
韓国は日本以上に格差が強烈に思える。

手を汚して“勝ち組”“リア充”になった者たちの犯罪を最終的には軍人や権力者まで追うのだが、
隊長はともかく、
拷問対象の人間たちに対して恨みはない手下の者たちにとっては劣等感を解消するための復讐にも映る。
“謎の集団”の要員は、
客から見下されて幼稚な逆襲をする無能なウェイターの男、
仕事をごまかしたりして上司から怒られる自動車修理工の男、
米国の名門大学を卒業するもニートな男、
不治の病に侵された妻の治療費を払うために借金をして高利貸に迫られる即席ラーメン愛食の男、
友人にお金をだまし取られて建物取り壊し跡にテントを張って母親と住む男、
そしてアパートの一室で情夫のDVに悩まされつつカラダの関係は切れない女である。

ハードボイルドにわかりやすく格差を描きつつ、
“正義側”と“悪側”の人間関係が多少絡み合う脚本になっていて、
善悪割り切れるわけではないことも醸し出している。

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韓流ならではとも言える突っ込みどころ満載なのもたまらない。
たがそんなの知ったこっちゃない強引なパワーに押し切られる。
かなりハードな映画だから“スキ”だらけなところが息抜きになるし、
色々と細かく説明せず、あえてぼかしてサスペンス濃度を高めている。
たとえば女子高生の殺害と“謎の集団”が標的にする人間たちの“悪事”がどう結び付くのか。
なぜ女子高生は殺されたのか。
“謎の集団”の隊長がなぜここまで残虐に“天誅”を下すのか、
終盤まではっきりさせてない脚本も正解だろう。
そういうことが最初の方でわかってしまったらこの映画の面白さは半減する。
観る人の想像力にゆだねながら物語を進める映画ほどエキサイティング濃度が深い。

何しろ思い切りがいい。
無骨だ。
アップが多いカメラもぐいぐい対象に迫っていて、
小細工が多い最近の日本映画が小ぢんまりしたものにますます思えてくる。

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戦隊変身特撮ものみたいに色々とチープな変装をして楽しみながら拉致に臨むなど、
70年代の日本の劇画やアクション・テレビドラマを思わせる作りも心の脇の下をくすぐる。
艶っぽい紅一点の存在もこの手の“集団もの”としてパーフェクトなバランスで、
ヴァイオレントながら考えさせるエンタテインメントものに仕上がっているのだ。
必然性がないのに中途半端な映し方で延々続くとセックス・シーンで萎えてシラケる映画も多いが、
ぼかし無しで絶妙なアングルで見せる性交場面も強烈だ。
18禁映画になっているのはそういう交尾シーンのためだろが、
同じぐらい強烈な拷問シーンも18禁スレスレだと思われる。
ホラー映画ではないから臓物が飛び散ったりはしないのだが、
モロを見せないからこそ意外と強烈に見えるのはエロと同じだ。

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「こういうのを許しておくからのさばる」
謎の集団の隊長の言葉だ。
怒りを抱えて憎しみを家族にして復讐のために生きる生活にひとまずケリを付けたい、
あくまでもおのれの手で。
結局は他人事で涼しい顔した無責任な人権屋の入り込む余地はそこにない。
当事者はひとまず“終わらせたい”のだ。
区切りをつけなければ自分が精神的に死ぬからヤる。
ただそれだけのことである。
だが、それでも気持ちが収まり切らずに苦悩する。
エスカレートして拷問の“先”にまで至ってしまったことで分裂する“仲間たち”の異議と、
それによる隊長の気持ちがブレる終盤は特に息を呑む。

韓国映画だけに陳腐な言い方だが、
やはり“恨”の深さを思わずにはいられない。
いたたまれない。
誰も救われない。
救いようも容赦もないエンディングのno future感に身震いがする。
ウソばっかりのヒューマニズムと反体制の映画な中指を立てたかのような、
アンチヒーロー&アンチヒューマン映画。

人間の空漠の暗部を痛めつけて掘り下げて浮き彫りにして蘇生させる。


★映画『殺されたミンジュ』
2014年/韓国/122分/R18
2016年1月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
http://www.u-picc.com/one-on-one/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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