なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『エスコバル/楽園の掟』

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南米コロンビアの麻薬王として70年代初頭から1993年に射殺されるまで国内外を揺るがせた
パブロ・エスコバルの所業の一部を描いた劇映画。
エスコバルが主役とも言えるが、
彼の“家族”になってしまった青年の愛と戦いを描くことでエスコバルの残虐性を炙り出す作品である。

監督は『ダブルフェイス 秘めた女』(2009年)などに出演して俳優として活躍してきた、
1972年イタリア・ローマ生まれのアンドレア・ディ・ステファノ。
エスコバル役は
『チェ 28歳の革命/39歳 別れの手紙』(2008年)でチェ・ゲバラ役を演じたベニチオ・デル・トロ、
青年役は『ハンガー・ゲーム』(2012年)でメイン・キャストを務めたジョシュ・ハッチャーソンで、
二人とも両極端の立場と性格を演じ切っている。


最近は以前よりかなり沈静化していると聞くが、
これは非情と非道が極まるコロンビア国内の暴力がピークだった時代の話である。
コロンビアと言えば極左ゲリラも容赦ない行動を取っていたが、
それとも絡む仁義なき麻薬戦争の首領と被害者の短期間の物語である。

エスコバルといえば
死体写真でお馴染みのグラインド・コア・バンドなどがアートワークで顔等を使ったりもしている。
NAPALM DEATHのシェーン・エンバリーらが参加してきたとされる
“覆面バンド”BRUJERIAがジェロ・ビアフラのレーベルから94年にリリースした、
7”レコード『El Patron』のジャケットの表と裏(生前の懸賞金広告付)もエスコバルだった。

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オフィシャル・サイトに載っているストーリーを多少アレンジして以下に引用させていただく。

兄の住むコロンビアを訪れたサーファーのカナダ人青年のニック。
青い海と白い砂浜が広がるそこは、まさに理想郷のような世界だった。
ある日、彼は美しいコロンビア人女性のマリアと出会い、激しい恋に落ちる。
マリアには敬愛する大切な叔父がいた。
彼の名はパブロ・エスコバル――国会議員を務め、民衆からの支持も厚い富豪であるエスコバルは、
コカインを扱うコロンビア最大の麻薬カルテルのボスという裏の顔を持っていた。
我が子のように可愛がる姪のマリアが連れてきた恋人をエスコバルは暖かく“家族”に迎え入れる。
エスコバルの“王国”は楽園のようでもあるが、ニックはその恐ろしさに少しずつ気づいていく。
中毒性の麻薬と同じく簡単には抜け出すことはできず、
ニックは脱出不可能な巨大な悪のスパイラルに巻き込まれていく。

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裏切りは許されない
どこに逃げようが逃がさない。
そんなエスコバルの哲学が貫くストーリーの後半は息が抜けない。
史実を基にしたリアルな作りであり、
短い期間に絞りながらも表と裏でエスコバルがどういうことをしてきたかを伝えている。
ラヴ・ロマンスを絡めたアクションものとしてもエキサイティングな映画にもなっている。
そして何よりエクストリームな“家族”ものとして確実に心臓を射抜く映画なのだ。

エスコバルも青年ニックも“家族”にこだわる。
青年ニックは妻だけでなく兄の家族も殺されないように大切に思い、
見ず知らずにもかかわらず自分が殺さなければならなくなった少年の家族も殺されないように気遣う。
エスコバルは血縁関係だけでなく、
いわゆる“ファミリー”としてもっと広い意味で周りの人間を“家族”として迎え入れる。
ただエスコバルは麻薬組織の一員も含めて血のつながってない“家族”の人間に対しては冷厳冷酷だ。
エスコバルにとって“家族”のほとんどは使い捨ての道具であり、
たとえ姪が愛して夫になる青年だろうが自分を裏切って使い物にならないと察知したら容赦しない。

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“所属”することになってしまった“家族”によって
人間は人生を縛り付けられ方向づけられ決定づけられる。
この映画やストーキングやドメスティック・ヴァイオレンス系みたいに
徹底的に追われて人生を終わらされてしまった人も無数いる。
ひとまずだけ逃げることができる場合もある。
だが“どちらか”が死ぬまで解放されることはない“家族”関係。
そこに人権屋が出てくる幕はない。

拘束力が強くて逃れられない“家族”は“個”を殺す集団の代表にも成り得る。
“家族”を大義名分にしていいように利用し、
絆で絞殺されるような家族関係の悲惨な事件が後を絶たない。
家族のあったかい面を青年ニックが醸し出している一方、
家族の残酷な面をエスコバルが絞り出している。
“家族”に対する二人のコントラストが見どころだ。

手下を使って誰かを殺害する時もその人間の家族愛を立ち直れないほどズタズタにする手法を使う。
実際はもっと卑劣な手口なのだが、
わかりやすく書くと親の目の前で子供を殺し、
あるいは子供の目の前で親を殺すような形で、
残された家族の精神をメッタ刺しにする。
ある種の宗教テロリストもよく使う殺害シチュエーションだ。

そういう精神的ダメージを大切にしたエスコバルの手法に沿うように、
血はあまり見せない映画だ。
音声などで想像力を刺激して神経の隅々にまで痛みを響かせるのである。

エス子

政府とも対峙したとはいえ様々な権力者を金で味方に付けて邪魔者は消す。
いわゆる政治家はよく標的にされるが
そういう連中を攻撃して世のため人のためにと得意げな慈善家や革命家みたいな人間の裏も見る。
調子のいいこと言って体裁を整えている人間や外ヅラのいい人間ほど信用できないこともあらためて知る。
慈善を“免罪符”にするかのように、
貧しい人々に手を貸す善行の一方で
自分らに都合の悪い人間やその民族や国民などの殲滅を目指す。
どこぞの“宗教国家”や、
同根のアフリカ北部の宗教過激派がやっていることのルーツみたいな人間がエスコバルだ。

反体制だの反権力だののオメデタさもあらためて思い知らされる。

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正直者が馬鹿を見る好サンプルみたいな感じでも青年ニックが描かれる。
徹底した合理主義者に映るエスコバルと対照的な青年ニックの情緒性が痛々しく、
最期を覚悟するシーンで愛するマリアと兄の姿が去来するのも切ない。

序盤はぬるいかなと思ったが、
どんどんどんどん加速していく映画。
最初のうちは洗練された様子で“楽園”と見せておいて徐々に失楽園の地獄へと引きずり込む。
粗削りの作りだからこそ生々しい。

一見の価値あり。


★映画『エスコバル/楽園の掟』
2015年/フランス・スペイン・ベルギー・パナマ合作/119分/カラー/原題:Escobar:Paradise Lost 
3月12日(土)シネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開。
©2014 Chapter 2 – Orange Studio - Pathé Production – Norsean Plus S.L – Paradise Lost Film A.I.E – Nexus Factory - Umedia – Jouror Developpement
http://www.movie-escobar.com/


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いつも読んでます。昔ユニオンで購入したパンクロックディスクガイドいまだに大切にしてます。さて ジュラシックジェイドのレフトアイのジャケイラストレーターの事が長年分かりません。名前 HP等 知っているなら教えて下さい。お願いします。尚 このコメントが不適切なら削除して構いません。

Re: コメント

Aさん、書き込みありがとうございます。
本、大切にしていただき嬉しいです。
イラストレーターの件、お時間いただくかもしれませんが、調べて、もしわからなくても返答します。

>Aさん
JURASSIC JADEのメンバーに訊いてみましたが、一言で説明しにくいので、知りたいことを直接問い合わせたみた方がいいようです。
http://www2.odn.ne.jp/jurassic-jade/contents.htm
の“MAIL”をクリックしたらメールできます。
丁寧に応えてくださると思いますので、お手数ですが、よろしくお願いします。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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