なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『バベットの晩餐会』デジタル・リマスター版

バベット メイン


87年にアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した87年のデンマークの映画が
デジタル・リマスター版で全国上映される。

落ち着いた趣の“グルメ映画”としても楽しませつつ、
運命や人間のつながりを描きながら生や精神性をさりげなく刷り込み、
歴史を重ねてきたヨーロッパの底無しの深さを思い知らされる名作である。


19 世紀の後半、
デンマークの辺境の小さな漁村で牧師だった父の遺志を継いで善行に励み、
つつましく生きる初老の姉妹。
ある日、とある縁で、彼女たちのもとにフランス人女性のバベットがやってくる。
パリ市の動乱(パリ・コミューン)で家族を失った彼女はメイドとして姉妹に仕えることになる。
以上がストーリーの前半である。

バベット2

映画全体の中では“料理の仕込み”みたいな役割の上記の前半部分で姉妹の若い頃も描かれ、
それぞれに求愛した士官と有名歌手のちょっとした行動が中盤以降の道筋をつけることになるなど、
ダシの効いた料理みたいに脚本が練られている。
無数の機知が織り込まれながらも物語はシンプルでわかりやすい。
バベットが目立ち始める中盤も、
姉妹の父親の生誕百年記念で宗教関係の馴染みの12人を招待した自宅でのつつましい晩餐会で
バベットがフランス仕込みの料理の腕を振るう後半も、
なだらかな話にもかかわらず104分の時間が経つのを忘れさせる力を秘めている映画だ。

賛美歌などが歌われるシーン以外は必要最小限しか音楽が使われてないし。
スロー・テンポの展開にもかかわらず映画全体にリズムがあるのも大きい。
グレイトな映画のすべてがそうであるようにカメラの切り替えや編集の妙味でリズムが生まれているのだ。
とにかく淡く鮮やかな彫りの深い映像に吸い込まれる。
特に調理と食事でたっぷりと魅せる後半の晩餐のシーンは食べ物が生きているかのような色合いなのだ。
物音にしろ“匂い”にしろホント五感をくすぐる映画である。

バベット3

長年メイドとして仕えたバベットの初めてのお願いで晩餐会の料理をまかせたはいいが、
食材が運び込まれるのを見てから姉妹は
「魂を危険にさらすことになりかねない。何を食べさせられるか心配」になってくる。
姉妹はヴィーガンではないが、
さばかれた生き物・・・しかも普段口にしてない海亀やウズラの剥き出しは生々しすぎた
(映画を観ている人に食材の生命を意識してもらうように露骨な状態を故意に見せたと思われる)。
宗教の問題も絡めながら文化的価値観の違いなども炙り出されているが、
ワインやスイーツも含めて理屈を超えて美味しい食事がいつのまにか“すべて”を解決していく。

メイン以外の人物も含めて、
一人一人の意識の流れや感情の動きを丁寧に描き綴っているのもヨーロッパ映画ならではだ。
バベット役を務めたクロード・シャブロル監督の元夫人のステファーヌ・オードランをはじめとして、
表情のとらえかたが素晴らしい。
大半が地味な服装も実は見どころである。
そんな人たちが美味しい食事で“peace of mind”を取り戻していく。

バベット1

別に豪華なフランス料理でなくても美味しいものを食べると人はひと時でもしあわせになれる。
病気などで思うように食べられない人のことにも一人一人が思いをはせて気配りすれば平和が訪れるかもしれない。
そんな感じで結局は“お互い様!”という具合に、
人と人とのつながりが“冷戦”を溶かしてまろやかなスープみたいな人間関係にする縁結びの力も食事は持ち得る。
正義を掲げる人間もひっくるめて何でもかんでも白黒つけようとするから世の中おかしくなる。
けど宗教関係が全部悪!ということもまったくないわけで、
“なんだこりゃ?”という発言も飛び出すが、
宗教にまつわるものと思しき示唆に富む敬虔な言葉の数々も美味しい。

僕は食べたことがないから推測だが、
いわゆるフランス料理のフルコースみたいなものはじっくり作ってゆっくり味わうもののようであり、
この作品もまさに“スロー・ライフ”のスピードだ。
速くて早い食の良さも認めつつ、
ファーストフードみたいな映画や音楽が目立つ今だからこそ渋く輝く映画である。


★映画『バベットの晩餐会』デジタル・リマスター版
監督・脚本:ガブリエル・アクセル│ 原作:カレン・ブリクセン(イサク・ディーネセン)
出演:ステファーヌ・オードラン、ビアギッテ・フェザースピール、ボディル・キェア
1987年│カラー│デンマーク│ 104分│デジタル・リマスター版
配給:コピアポア・フィルム
4月9日(土)より東京・YEBISU GARDEN CINEMAにて公開。他全国順次公開。
© 1987, A-S Panorama Film International. All Rights Reserved.
http://mermaidfilms.co.jp/babettes/


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コメント

こんにちは。これ、大好きな映画です!
多分公開から数年後に民放地上波のミッドナイトシアターみたいな番組で見て、去年再びBSプレミアムで見ました。荒涼とした大地の中でつましくも丁寧に暮らす姉妹と、バベットの間に流れる愛情の温かさ。最初はビクビクしてた村人たちが、おいしい料理で心がほぐれるラストとか、何度見ても心にしみるんですよね。
若い世代にも是非見てほしい映画です。

Re: タイトルなし

yuccalinaさん、書き込みありがとうございます。
さすが御覧になられていますねー。テレビでもそんなにやっていたとは!
話の持っていき方が自然で、交流なども押しつけがましくないですし、見るたびに発見がありそうです。
あたたかさや戸惑いの気持ちが表情をしっかりとらえた映像や音声から伝わってくるだけに、スクリーンで体験されると味わい倍増だと思います。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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