なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『カルテル・ランド』

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自国の麻薬カルテルと戦うメキシコの自警団と米国のアリゾナ国境自警団を描くドキュメンタリー映画。
『ハート・ロッカー』(2008年)の監督・製作を務めたキャスリン・ビグローが製作総指揮を執った力作である。
ナイーヴな告発ものに留まらず、
最終的には人間そのものにも焦点を当てている


長年にわたって極悪非道を繰り返している麻薬カルテルに怒り、
「大人しく殺されるか? それとも銃を手にして自営するか?」と自問し、
2013年の2月に一部の住民が拳銃やライフルで武装したのがメキシコの自警団。
かたやメキシコ国境沿いの米国で麻薬や暴力を流入させる不法移民を見つけるべく、
銃を片手に日夜仲間とパトロールしているアリゾナ国境自警団。
共に連邦/州政府も警察も役立たずなら自分たちでやるしかない!と最前線で立ち上がった、
リアルDIYのボランティアである。

サブ①

コロンビアの“麻薬戦争の一部”を描いた劇映画『エスコバル/楽園の掟』が今年日本でも上映されているが、
この映画の麻薬カルテルは国家を取り込むほどは巨大化してないから自警団でもなんとか対峙できるようだ。
とはいえ、むろん命懸けの撮影である。
それぞれの自警団に密着し、
アジトに突入するシーンも含まれている。

外部の専門家のインタヴューや説明テロップの類いは無し。
米国のアリゾナ国境自警団とメキシコの自警団と奮闘ぶりを交互に描く真っ向勝負作だ。

アリゾナ国境自警団で活動する人も考え方は様々ということをまず念頭に置いていただいた上で、
「メキシコから米国に渡ってくる不法移民は麻薬や暴力を流入させる“侵略”とみなす」という人の話は、
これを書いている時点で米国大統領選挙の共和党の有力候補になっているドナルド・トランプの主張と多少ダブる。
人種差別という批判も浴びているらしいが、
無法地帯が野放しになっていることをメディアなどが直視しようとしない怒りにも駆られ、
あくまでもメキシコからアメリカに“輸出”しようとする連中がターゲットの小規模の活動だ。
恋人や仲間たちと組んでいるアリゾナ国境自警団のリーダーは、
この映画の製作者から見せられたメキシコの自警団の活動の映像を興味深そうに見てもいる。

サブ⑦

麻薬カルテルの本場で対峙するだけにやはりメキシコ側の方に時間を割いている。

この映画の麻薬カルテルを見ているとイスラム国などとダブる。
ライムやアボガドなどの生産農家、商人、事業主などのあらゆる業種で、売上に応じて“税金”を取り立て、
従わない者は拉致し、
見せしめで殺害して首や四肢を切断した状態の遺体をさらし、
その家族の女性を強姦もする。
麻薬カルテルが麻薬の密造(の戦慄のシーンも生々しく映し出す)や密輸だけで終わらないのは、
結局は根が極悪非情の金の亡者だからである。
貧困云々の話が言い訳や免罪符にすら思えてしまう。

メキシコのパンク・バンドは麻薬カルテル絡みのカオスをよく表現のモチーフにする、
たとえば2010年代のバンドのINSERVIBLESはグロテスクなアートワークにも何度か反映させている。
さすがにあまりに残虐な映像は映画の中で使えなかったと思われるが、
麻薬カルテルに殺された家族の葬儀のシーンも強烈だ。

サブ⑨

多少牢屋に入っただけで出所してまた同じことをする連中。
貧困と暴力の連鎖の中で更生もヘッタクレもない。
したり顔で調子のいいことばかり言う人権屋が入り込む余地もない。
自警団の人たちは本当に必死で命懸けだ。

でも組織立って規模が大きくなり活動範囲が広がっていっただけに
メキシコの自警団の方は色々と問題もふくらんでいく。
驕りが引き起こしたのか、
素行の乱れに加えて強硬な手段で一般人を取り調べるやり方も目立っていった。
もともと地元の支持を得て麻薬カルテルの支配地を次々と制圧していったが、
住民が「余計なお世話!」などと自警団の行動を快く思わない人が大勢の地域にも出くわし、
困惑もさせられる。
さらに民間人の武装組織は本来違法だから組織の合法化を巡って論議が起きて分裂。
政府が一部の人間を民兵として取り込んで“地方防衛軍”とし、
麻薬カルテルの一部メンバーの寝返り組も入れて混沌とした組織にしていた。

その前後にメキシコの自警団のリーダーは狙われて重傷を負ってしまう。

サブ② 

米国出身のマシュー・ハイネマン監督は
「物語は取材を始めたころには予想もできなかったような驚くべき展開を見せました」と言う。
確かにそうだろう。
もしかしたら麻薬カルテル糾弾作品に仕上げるつもりだったのかもしれないが、
長い期間同じ人間を追った撮影ゆえに二人のリーダーのキャラや生き様も浮き彫りにし、
ハードボイルドになりすぎずに人間ドラマのような色も映画に加わっている。
麻薬云々とは直接関係ないプライヴェイトなネタを盛り込んだことで、
麻薬カルテルと戦う二人の男のドキュメンタリー人生ドラマ仕立てにもなっているのだ。

二人は対照的である。

メキシコ自警団のリーダーは普段は医者として信望を集めて一時カリスマ性も帯びて集会でも支持を集め、
前半で挿入される家族/一族とプールで楽しそうにたわむれるシーンなどはほのぼのとしている。
でも中盤以降はダークな色彩を帯びていき、
最初は冗談でやっているように見えたプライヴェイトな“とある問題シーン”も堂々と撮らせている。
そして、もともと家族を守るための行動だったにもにもかかわらず、慢心ゆえか切ない展開になる。

かたやアリゾナ国境自警団のリーダーは、
よりオルタナティヴなアティテュードで政府や警察をほぼ当てにしていない。
アメリカン・スピリットならではの自分のことは自分でやる自己責任に裏打ちされたDIYである。
ある種のニヒリズムに突き動かされ、
慣れ合いの集団で示威行動をとることもしない少数精鋭で地道だ。
だからこそ米国陸軍の戦闘工兵を務めたキャリアを持つのも納得の精悍な戦士のツラ構えである。
ストイックに研ぎ澄まされているのは子供の頃に父親から虐待されたことも大きそうだが、
むろん自分の子供には同じ行動とらない。
悪い連鎖は断ち切れる・・・そういう意識で取り組んで希望を持たせてはいる。

だが、
この映画は同じ“現場”をとらえた一番危険なシーンをオープニングとエンディングに持ってきている。
終わりがないことを暗示するかのように。

サブ③

★映画『カルテル・ランド』
2015年/メキシコ・アメリカ/100分/原題:CARTEL LAND/配給・宣伝:トランスフォーマー
5月7日(土)より、東京・渋谷シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開。
© 2015 A&E Television Networks, LLC
http://cartelland-movie.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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