なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『シアター・プノンペン』

プノンペンM


アンジェリーナ・ジョリー主演の映画『トゥームレイダー』(2001年)でラインプロデューサーを務めた、
カンボジア初の女性監督の1973年生まれのソト・クォーリーカーによる2014年の映画。

親子などの家族関係や三角関係などの恋愛も絡めながら人間を掘り下げ、
“知識人”を中心に国民の4分の1を殺すなど1975年から4年近く続いた恐怖政治の一環で行なわれた、
自国の映画文化の“殲滅政策”に伴うクメール・ルージュ(≒ポル・ポト派)支配下の悲劇を炙り出し、
様々な意味で人と人との“和解”をほのめかす。
女性ならではとも言える包容力の視点で映画が持ち得る“力”をあらためて示す力作である。

プノンペン2

カンボジアの首都プノンペンに住む女子大生のソポンは窮屈な日々を送る。
軍人の父親から将軍の息子とのお見合いを押しつけられ、
そういう反動か拳銃をブッ放す物騒なボーイフレンドと付き合い、
学校にも行かずに売春婦と見られる服装で遊び歩いている。

そんなある日に迷い込んだ廃墟のような映画館で古い恋愛映画をたまたま目にするが、
その主演女優は病床に伏している母・・・何も聞かされてないソポンは衝撃を受ける。
その映画館主からクメール・ルージュが支配する前年に作られたことを教えてもらうが、
内乱で映画の最終シーンのフィルムが失われていることを知る。
そこでソポンは病気の母のために、
映画館主を監督にして母親の“代役”として娘の自分が主演になり、
真実は一つじゃないとばかりに最後のクライマックスのシーンを新たに撮って上映しようと試みる。
だがその撮影をして映画を紐解いていくうちにソポンは、
母、その元の映画の主役、映画館主、父の“運命の糸のつながり”が見えてきて愕然とする。

プノンペン6

逆らえば殺すし従っても死に至らしめるクメール・ルージュに翻弄され、
この世の地獄を生き延びてきた大人たちの空漠と葛藤。
結婚も含めて「女に選択肢はない」という環境を突き抜けて、
映画を作ることで親と母国の歴史を知っていく子供世代の娘の自立心。
様々な思いが交錯していく映画だが、
俳優陣が熱演する人物たちの心理を剥き出しのまま映画化した手法が大胆で痛快だ。

“自分の身の回り30センチ以内の出来事を撮る”みたいなインディ映画とは違ってスケール大きく挑み、
時代と人間関係を縦断する脚本や様々な環境での撮影などダイナミックな作品だけに、
“キャパシティ”を超えたような製作だったのか粗削りなところも見受けられる。
でも、だからこそのパワーがゆっくりと伝わってくる。
映画でも音楽でも大切なのは作品のヴァイブレイションである。
小ぢんまりとまとまった映画を観る機会が多いだけに無鉄砲な作りがえらく新鮮だ。
たとえば意識的なのか技術的な問題なのか明かりが暗い場面では見えにくいところもあるが、
本作後半で試みたと自主制作での映画作りにダブらせて観ることもできるし、
そんな熱量がじわじわ高まっていくのである。

プノンペン7

かつて国立劇場として利用されてきた映画館をそのまま“シアター・プノンペン”として撮影場所とし、
まさにカンボジアの悲憤の映画史が刻まれた館内の雰囲気に圧倒される。
他のロケ地も色々と興味深く、
プリミティヴなネオンが花盛りだった頃の昭和時代の日本の歓楽街をイメージする猥雑な街並み、
クメール・ルージュの“killing field”だったと思しき荒野などなど、
たとえセリフが少ない場面でも目に物を見せるのである。

文部科学省選定映画ながらこの映画が“青年・成人向け”とされているのは、
生々しいシーンを含むからだろうか。
たとえばクメール・ルージュが惨殺するシーンは血で見せるのではなく、
撲殺音や言葉少ないセリフなどの遠回しの表現だからこそ余計残虐で、
暗がりで覗き見している気分にさせるほどだ。

プノンペン4

声高な政治的メッセージや糾弾や反対の“合唱”なんかしなくても、
いやそんなことをしないからこそ深く訴えかけてくる。

昭和30年代前後の日本映画の精神性を思わせる無骨な作りがたのもしい。
終盤で主人公の女性が語る映画文化に対する思いは素朴だからこそ心に響くし、
善悪で白黒つけたがるから争いが絶えない権力者から民衆までの古今東西の政治姿勢や、
日常の人間関係に対する示唆に富む言葉にも聞こえる。
「真実には色々な面がある」という思いを込めたこの映画らしい。

あの時代の多くの映画関係者の無念死の上で
今日のカンボジアの映画文化が生まれたことを示すエンディングにも、
『シアター・プノンペン』の意思と意志が満ちている。


★映画『シアター・プノンペン』
2014年/105分/クメール語/カラー
7月2日(土)から東京・岩波ホールにてロードショー。以降、各地で順次ロードショー。
C)2014 HANUMAN CO.LTD
http://www.t-phnompenh.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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