なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『AMY エイミー』

AMY M
©Rex Features


83年英国生まれでロンドン北部育ちのソウルフルなジャズ・シンガーソングライターである
エイミー・ワインハウスの映画が、
他界してから5年後の今年7月に日本でもロードショーになる。
『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』(2010年)を手がけた、
72年ロンドン生まれのアシフ・カパディアが監督だ。

“大ヒットを飛ばしたジャズ・シンガー”という先入観で関心が薄かった僕みたいに、
この映画をきっかけに日本でも盛り上がってほしいアーティストである。
欧米圏ではビッグ・ネームでジャズ・ミュージシャン以外からの支持も厚い人だ。
たとえばエイミーに捧げる曲として、
パティ・スミスが「This Is the Girl」を
(2012年の『Banga』に収めて今月上旬の日本公演でも“エイミー追悼云々”のMCとともに歌われた)、
GREEN DAYが「Amy」(2012年の『¡Dos!』に収録)を作っている。

僕も音楽ドキュメンタリーは内外の様々なジャンルのものをけっこう観てきているが、
これはストレートでありながら斬新な作りの128分のマスターピースである。
1万字でも2万字でもいくらでも書ける深く濃密な映画だ。

サブ2(C)Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky
©Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky

ただ自分が体験したことを書いて歌うのが好きな女の子がブレイクし、
みるみるうちに大スターになって否応なくセレブみたいになってしまい、
恋愛や家族関係や拒食症やドラッグやアルコールも絡んでふくらんだ心のカオスが自爆する物語である。
エイミーや関係者の談話を盛り込みながらエイミーの映像や写真で進めていくが、
音楽ドキュメンタリーもののオーソドックスな作りのようで常道を外している。

もちろん悪口が飛びかっているわけではないが、
まずミュージシャン仲間が主役を延々ベタボメするコメントがほとんどない。
映画のシメに“とある人物”がビシッ!と言い切っているのみだ。
そうやって馴れ合いみたいなノリを排しているからこそ、
リラックスした作りにもかかわらず張りつめた空気感に覆われている。

ドキュメンタリー映画の新規撮影の談話シーンに多い整然とした部屋で語る“かしこまった映像”もない。
そういう画の挿入は生々しい映像で進めていた流れを寸断して気持ちがクールダウンしがちだが、
関係者のインタヴューの話が流れる時はその人物の他の活き活きした映像やエイミーを映し出す。
エイミーの談話を流すシーンも画が退屈にならぬよう彼女の他の映像や写真を見せて生々しさをキープしている。

エイミーに対して必ずしもプラスにならかったように描かれる関係者たちの言動も臆せず挟み込む。
家にあまりいなかったにもかかわらずエイミーが崇拝していたという父親と、
“ヤリマンとヤリチン”みたいな言及もあるエイミーと“腐れ縁”の恋人/(元)夫が、
いいようにエイミーを利用していたようにも描かれている。
完成した映画を観て彼らが不愉快に思うこと承知の上で、
制作者の解釈と意思がさりげなく表わしていてこれまた見事だ。

サブ5(C)Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky
©Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky

もちろんエイミー自身のダーティなネタや映像/写真も適度かつ豊富にまぶしている。
ドキュメンタリー映画は“主人公のネガティヴな面の入れ方”によって作品の深みが左右されるが、
スキャンダラスな話題に欠かなかった人とはいえキレイ事で済まさないからこそ胸に迫ってくるのだ。

とにかく何よりプライヴェイト映像をホントふんだんに使っていることが作品のリアリティを高めている。
ビデオ撮影されていた幼少の頃の映像も貴重だが、
動画撮影の敷居が低くなった時代の強みを活かしてエイミーの周囲の人が撮った完成度度外視の映像の数々が、
デビュー前夜からセレブになってからの姿も含めて“普段着のエイミー”を浮き彫りにしていくのだ。
メジャー・フィールドで活躍していた人だから膨大に残しているはずのオフィシャル映像は厳選し、
女性ゆえか粘着度の高いパパラッチが撮ったような映像も含めてすべてが生。
いつだってノー・メイクの心で裏表なく本音で向き合ったエイミーの肝と本質を炙り出す。
それだけに愛嬌いっぱいだったお茶目なエイミーの風貌が豹変していく後半の流れは痛々しい。

適度にゆるいテンポで映画全体を貫くリズム感は曲と共振したエイミーの彼女の生きるスピード感そのもので、
監督の力量を感じる。
特に終盤の“追い込み”はエイミーが生き急いだかのようなタイム感だ。
セルビアでの野外ステージにおける“失態”から最期に至るまでの1ヶ月弱の“ふっきれた加速度”は、
ハードボイルドなほどセンチメンタリズムを削ぎ落とした描写と観る物の喉元を撫でる言葉の連続だけに、
息を呑むしかない。

AMY1.jpg
©Rex Features

2006年の大ヒット曲の「Rehab」はドラッグ等のリハビリ施設がモチーフの歌だが
(といっても“行きたくない♪”みたいな楽しいトーンの曲)、
エイミーは子供の頃から曲を書いて歌うことを精神的なリハビリにしていた。
それは家族が揃うことがあまりなかった子供の頃の家庭環境に端を発しているが、
その時々のオトコ関係がソングライティングのメイン・モチーフだったのがうなずける映画にもなっている。

育った環境も近くて惹かれ合った運命の男でチャラ男の恋人/(元)夫と一緒にいるシーンが目立つ。
公の場で自分もセレブ気取りで金魚のフンみたいに終始彼女にくっついていたウザい男で怒りすら覚えるが、
“ずっと一緒に居て♪”と自分でお願いしたと思えるほどゾッコンのエイミーの様子がやるせない。
最初に試写で観た時は途中で“この馬鹿女……”と思ってしまったほどだが、
途中までそう見えてしまったからこそ最後に僕は泣けてきた。
何しろ社会性に欠ける音楽馬鹿なだけに音楽に携わる時以外のエイミーは純なほど子供である。
だからこそ幼少の頃に構ってもらえなかったにもかかわらず(構ってもらえなかったからこそかも)、
有名人になって色々と大変になってからは父親を頼りにしていた姿も切ない。

エイミーのアイドルである米国の大物ポピュラー・シンガーのトニー・ベネットに対する態度が、
またいい意味で子供である。
彼女が5部門を受賞した2008年のグラミー賞の授賞式にトニーが登場した瞬間のソワソワ顔も
(注:ドラッグ問題でエイミーは米国に入国できず実際のグラミー賞の授賞式には行けなかったが、
ロンドンのスタジオからの衛星中継ながら米国の現場にいるような編集になっている点も注意)、
他界する4ヶ月前のデュエット・レコーディング現場におけるトキメキ顔も、
純情すぎてたまらない。

AMY3.jpg
©Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky

正直なエイミーは気持ちをいつでも言葉にしていた。
ライヴ・シーンだけでなく映画の中から流れてくる歌詞が日本語の字幕で表示されるからよくわかる。
たとえば2004年のシングルの「Stronger Than Me」は“私より強くなるべき”と男に諭す曲だが、
“慰めて元気づけてほしいのは私の方”と挑発的に歌っている曲でもある。
これがデビュー曲というのは強く見える女性ほど支えを求めるエイミーの気持ちの原点を象徴するようであり、
最期まで“叫んでいた”本音に映る。

何気ないエイミーの言葉も深く考えずに発しているだけに直観の本音である。
特に序盤の「(爆発的に)売れたら対処できなくなる」と、
「Rehab」が大ヒットした後に「有名人を自覚したら●●するかも」(●●はネタバレ等を避けるため自粛)が、
耳に残った。
どちらも自分の将来を予見したかのような言葉だが、
特に後者は制作者によるエイミーの死の解釈の一つとして挿入したようにも考えられるから、
注意して映画に臨んでいただきたい。
といっても劇場内に響き渡る音楽も相まって目が離せない映画になっているから自然と頭に飛び込んでくる言葉だ。

図らずもロバート・ジョンソン、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、
ジム・モリソンカート・コベインといった、
27歳で他界した著名ミュージシャンの一人に名を連ねることになってしまったエイミー。
その面々の影響はほとんど受けてないと思われるにも関わらず流れをくむ生き方を思えば、
“運命”にも感じられる映画でもある。

AMY4.jpg
©Winehouse family

絵になる女性だ。
ジャズ・シンガーにふさわしく小さなクラブでのライヴとアルバム作りに専念したかったにもかかわらず、
皮肉ながら人を引きつけるスターの素養をもともと持っていたようにも見える。
プライヴェイトはもちろんのこと、
テレビ番組などのインタヴューなどにおける言いたい放題のトークも本音パフォーマンスである。
ダイナミック&デリケイトなシンガーソングライターというだけでなく、
自然体の“芸人”やエンタテイナーとしてもチャーミングだった。


ファン必見であることは言うまでもないし見ればますますエイミーが好きになること間違い無しの映画だ。
音楽のみならずドキュメンタリー映画が好きな方も、
恋愛映画や家族映画が好きな方も、
女性も男性も理屈抜きに感じさせる力がある映画だ。
なにしろ映画そのものがスウィングしている。
そう、エイミーの歌のように。


★映画『AMY エイミー』
2015年/イギリス・アメリカ/英語/カラー&モノクロ/ヴィスタサイズ/デジタル5.1ch/128分/原題『AMY』/配給:KADOKAWA
7月16日(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー。
© 2015 Universal Music Operations Limited.
http://amy-movie.jp


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プロフィール

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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