なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『イレブン・ミニッツ』

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度肝を抜く作品を世に放ち続けて日本にも熱狂的なファンが多いポーランドを代表する映画人の
奇才イエジー・スコリモフスキが世界に問う問題作。
脳ミソをどつきまわしてしまいにはパニックに落し入れる異形のサスペンス映画である。
グレイトな映画のすべてがそうであるように、
これまでのスコリモフスキ監督作品以上に観るたびに新しい発見があって“謎”が解けていくような映画で、
奈落の底のような深さに震撼する

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スコリモフスキと言えばアンジェイ・ワイダらと並んで巨匠とも呼ばれる監督だが、
そういう権威がかった“尊称”を拒絶するかのような大胆極まりない“やんちゃな映画”だ。
巨匠ならではの“重厚な作風”で撮るどころか、
“年相応の落ち着いた映画作り”に中指を立てたみたいでもある。
ファンも含む観客や映画関係者に対して挑戦的であり、
守りに入らぬ今年78歳のスコリモフスキに対して敬意を込めて“元気なジジイ!”と呼びたい。

まず撮り方や編集が斬新だ。
かといって無理やり“若作り”した仕上がりでもない。
基本的にはトリッキーな手法が売りではなく地に足の着いた撮影で、
人物の彫りの深い表情を映し出して都会ならではの角ばった景色も鮮やかに見せる。
と同時に映写ミスで“流出映像”が紛れ込んだかの如きオープニングが本編の“予告編”であるかのように、
現代を象徴する、監視カメラ、Webカメラ、カメラ付き携帯、CGの映像も適宜使用。
事件の目撃者や密会の覗き魔になった気分にさせるアングルで見せることにより
船酔いしている気分になるほどダイナミックに翻弄する。

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現代社会を象徴する機器も要所で使っているのはストーリーの組み立て方が普通じゃないからでもある。
午後5時から午後5時11分までの11分間に大都会の数人の間で起こった出来事を見せていく。

女優の女、女優の夫で嫉妬深い男、女優を狙う映画監督の男、
出所したばかりで屋台のホットドッグ屋の主人を務める気前のいい男、
ホットドッグ屋の主人の息子で人妻との情事を重ねつつバイク便を飛ばすジャンキー男、
ホットドッグ屋の常連客と思しき修道女たち、映画の撮影現場に偶然居合わせた老画家、
ホテルの一室で男にAVを見せる登山家の女、ビルの壁の修理もしている登山家の男、
質屋強盗を失敗した少年、犬を元彼から返してもらって連れ歩くパンク女、その元彼、
救命隊員の医者の女、産気づいた女、死んだ男・・・・・らが織り成す人間模様と言える。

偶然でなければ出会うことのない人間同士が出会い得る都市生活ならではの残酷なマジックとケミストリーにより、
安穏が暗転してアクシデントがアクシデントを呼ぶ。
本作の映画監督のネタはスコリモフスキ自身の実体験と解釈したら本人に怒られそうだが、
その部分をはじめとしてどの話もリアリティ十分。
個々の出来事自体は比較的わかりやすい。
ただし、
とある日の午後5時から午後5時11分までに繰り広げられた7つ前後の物語の進行を次々と見せていくゆえに、
ストーリーを解体してカットアップしたかのような構成になっており、
しまいにはすべてが収斂していくような作りだ。
各シーンが分離しつつほとんど関係ないようでありながら徐々に“距離”が縮まって最終的に交わるが、
時間/時刻が映画のタイトルだけに映画全体を貫くタイム感が今回も素晴らしい。
時間軸を司るスコリモフスキの真骨頂である。

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わりとストレートだった前作『エッセンシャル・キリング』(2010年)の反動のようでもあり、
代表作の一つの『アンナと過ごした4日間』(2008年)をはじめとして、
今までスコリモフスキがさりげなく使ってきた手法を極端な形でアップデートしたようにも見える。
数ヵ所に場面が分かれていて個々に物語はあるのだが、
それぞれの“ドラマ”をアトランダムかつ順番に見せていくみたいな作りで一筋縄ではいかない。
ストーリーを追う映画が好きな方には話の筋が途切れっぱなしで“迷宮入り”になりかねない作品だが、
気がついたらこのカオティック・ムーヴィーの末路の“目撃者”に留まらず、
しまいには“共犯者”になっている恐ろしい作り。
押しつけがましい感動や手垢にまみれたセンチメンタリズムを殺ぎ落としながら
人間の“灰色ゾーン(not ブラック・ゾーン)”を“面白哀しく”浮き彫りにする、
スコリモフスキの現時点での到達点である。

斬新な手法でありながら今までのスコリモフスキ特有の“異臭”をキープした作りは、
映画ファンのツボを突く俳優のキャスティングにも表れている。
『イーダ』(2013年)や『幸せのありか』[主演](2013年)のダビド・オグロドニク[すぐ↑の画像]、
『借金』(99年)や『カティンの森』(2007年)のアンジェイ・ヒラ[すぐ↓の画像]、
『裏面』(2009年)のアガタ・ブゼク、
『バリエラ』[スコリミフスキの監督で主演](66年)、『灰』(65年)、『夜の第三部分』(72年)、
『砂時計』(73年)のヤン・ノビツキもキー・パーソンとして出演。
2012年から毎年日本で行われているポーランド映画祭の監修者でもあるスコリモフスキならではの新旧の人選で、
伝統の香りを残しつつ新たな息吹がみなぎる本作を象徴している。
スコリモフスキが飼っている犬が登場して不気味な存在感を放っていることも忘れちゃいけない。

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主人公が誰かと問われれば、
登場人物すべてが主人公であり、
映画観ている人すべてにも思える。
英国のSTRANGLERSの代表曲「No More Heroes」じゃないが主人公なんて世界中どこにもいないようにも映る。
ヒーロー非待望論の映画!とか、いくらでも深読みできるが、
それこそがスコリモフスキの思うつぼであり巧妙な罠にも感じる。

地味にクレイジーな作りの中から日本風に言えば“もののあはれ”や滑稽な趣を醸し出す映画を作りつつ、
さりげなくメッセージのニュアンスを刷り込むスコリモフスキ。
この映画で起こる“事件”の数々はすべて新聞の社会面や女性週刊誌に載っているようなネタで、
世界を揺るがすものではない。
でも怖いほど暗示的な映画だ。

避けがたい政治要素が絡むシチュエーションに挑んだ『エッセンシャル・キリング』(2010年)とは違い、
特定の土地が舞台と断定できない映画とはいえ全世界とつながる都市性が際立つ映像ゆえに、
この映画も否応なくポリティカルな事象がイメージされる。
でも固有名詞でイメージを限定させず、ほのめかす手法である。

そういう意味合いをスコリモフスキは込めてないようだが、
映画のタイトルの数字の“11”で2001年9月11日の米国でのテロの“9.11”をイメージするのは
僕だけではないだろう。
同じ時間に別々の場所で起こっている“同時多発的な物語”を次々に見せていく作りだからである。
テロ直前をイメージさせる光景が映し出されるし、
何より終盤は映画によるテロリズムそのものだ。

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スコリモフスキは60年代から俳優としても活躍していて
わりと最近だと『アベンジャーズ』(2012年)にも出演していたが、
そういった大メジャー映画の洗練されたムードも漂わせる。
もちろん格調の高さと背中合わせであることを示すように今回も、
監督お得意の覗きネチネチ紙一重のエロ・ネタもちょろりとナマのまま挿入されている。

前述したように映画館のビッグ・スクリーンを活かして生かす映像力の素晴らしさは言うまでもないが、
スコリモフスキならではの音声に対するデリケイトなこだわりにも磨きをかけている。
映画はストーリーを追うだけではない総合アートであり、
またまた映像と共振した音声でも神経をじわじわと浸食する作品に仕上がっている。
多くの映画でいわゆるBGM的に曲が垂れ流される余計なお世話の音楽は例によってひとつもない。
挿入される微細なアンビエント/インダストリアル/ノイズの音は、
世間から邪険にされた“雑音”こそが命の息遣いということをこの映画であらためて知らしめる。

映画に何ができるか。
それは音楽を含む“アート”に何ができるかということでもあるが、
この映画は世界を変える表現が使いマワされたメッセージではないことも明らかにする。
すぐウソをつく言葉に頼らず、
音楽がサウンドそのものでファックするように、
映画は映像と音声でファックする。

クライマックスと“終末”に向かって加速する終盤とネタバレ厳禁の“最期”は特に目が離せない。
エクスタシーの余韻をこわさないエンドロールまでパーフェクトだ。

必見。


★映画『イレブン・ミニッツ』
監督・製作・脚本:イエジー・スコリモフスキ/英題:11 MINUTES
2015年/カラー/ポーランド、アイルランド/81分/デジタル/
提供:ポニーキャニオン、マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム
8月20日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
©2015 SKOPIA FILM, ELEMENT PICTURES, HBO, ORANGE POLSKA S.A., TVP S.A., TUMULT
http://mermaidfilms.co.jp/11minutes/


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コメント

テロ

いつも楽しく拝見しています。
ところで例のテロの日付ですが「3.11」ではなく「9.11」ではないでしょうか…?

Re: テロ

川上様
御指摘ありがとうございます。訂正しました。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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