なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『クワイ河に虹をかけた男』

クワイ列車


1918年岡山県生まれで1941~1945年の太平洋戦争時に陸軍通訳として東南アジアのタイに従軍した、
永瀬隆の晩年の活動を中心にしたドキュメンタリー。
監督は岡山県・香川県を放送エリアとする瀬戸内海放送(KSB)の満田康弘で、
1994年以降コンスタントに永瀬の活動を紹介し続けた映像の劇場版である。

タイとビルマを結ぶべく太平洋戦争時に旧日本軍が建設した泰緬鉄道がこの映画の“メイン舞台”だ。
『戦場にかける橋』や『レイルウェイ 運命の旅路』といった映画の舞台にもなった場所であり、
後者で真田広之が演じた役が永瀬で、
その映画の原作本の著者で日本兵の拷問にあった英国人元捕虜のエリック・ロマックスも含む様々な人との和解と、
持続する意思と意志の強さに打たれる映画だ。

クワイ天国

太平洋戦争の時期にタイとビルマを結ぶ泰緬鉄道建設のタイ側の拠点に派遣された永瀬は、
英国やオーストラリアやオランダなどの連合国軍捕虜と現地や周辺のアジア人が動員された建設工事で、
強制労働、拷問、伝染病死など悲劇の全容を目の当たりにする。
戦後に鉄道建設の犠牲者の慰霊に駆り立てられた永瀬は、
一般人の海外渡航が自由化された1964年から妻の佳子と二人三脚で巡礼を始める。
1976年にはタイのクワイ河鉄橋で元捕虜と旧日本軍関係者の和解事業を成功させ、
1986年にはクワイ河平和基金を創設するなど“ナガセ”の名は欧米やアジアでも知られる存在となる。

フィリピンなどと同じくタイも英国などの連合国軍と日本軍が当時争っていた。
そこで永瀬は拷問行為を行なったわけではなく
日本軍と英国人捕虜などとの間の通訳として従軍していただけだが、
たとえ結果的にであろうが捕虜のみならず日本兵の死を黙殺したことですべてを黙認したことになった。
いわゆる終戦になって帰国しても心のつかえがいつまでも取れず、
おのれを少しでも解き放つべく贖罪に人生を捧げることを永瀬は決意する。

クワイ基地

1965年の一回目を皮切りに、
旧連合国軍捕虜や旧日本軍関係者の強い反発に屈することなくタイへの“巡礼”を年一回以上行ない続け、
93歳で他界する2年前の2009年に行なった最後の“巡礼”が実に135回目であった。
永瀬は“巡礼”に留まらず、
1965年にタイからの留学生を受け入れ始め、
タイの学生に奨学金を送り続けた。

旧日本軍がインパール作戦の物資輸送を目的に作ったこの映画の“舞台”の泰緬鉄道は
日本側の戦況が悪化していたためハイピッチで進められ、
1942~1943年の建設中に数万人の死者を出したため“死の鉄道”とも呼ばれた。
一方で1944年に決行されたそのインパール作戦は数ヵ月で頓挫して日本兵は撤退するが、
大半の南方戦線と同じく補給等はなく飢えと疫病により道端で兵士たちは次々と力尽き、
放置されたその撤退の路は“白骨街道”とも呼ばれた。
そんな無念の日本兵たちに対しての“贖罪”も永瀬が行なっていたことも大切なところである。

クワイ永瀬さん横

示唆に富む映画で色々なことを考えさせられる。

“メジャーなもの”にしか目が向けられないのは戦争関係も同じだ。
毎年8月には広島長崎靖国に注目が集まる。
でもたとえば靖国に行って免罪符をゲットして得意げになる輩より、
永瀬のようなタイ行きや、
今年1月の平成天皇(2012年の訪英中に元捕虜が日の丸に点火した映像も本作に収録)のフィリピン行きみたいに、
南方諸島などで人知れず無念の死に至った無数の兵士たちに対して謙虚に向き合う人の方に深い誠意を感じる。
お手軽に済ませる気持や自己保身とは対極の葛藤が渦巻いてるからだ。

満ちたりた我が物顔でエゴに溢れた正義を振りかざす集団行動に強欲な人間のあさましさを見る。
だが永瀬はいつも低姿勢で謙虚極まりなく基本的につるんだりしない。
“無所属”だからこそ色々な人とつながりを持てた。
結局はただ目立ちたいがためにトレンディーな政治ネタに目がない“アクティヴィスト”とは違い、
永遠に埋もれがちなテーマに生涯を捧げとさころも特筆したい。
ブレることなく誠実ゆえに多方面のたくさんの人から敬愛された。

クワイ虹

絶対に許さないと言う元捕虜もいる。
それでもなお糸口を探るべく永瀬は動き続けた。
急激に起こった革命がもろいのは近年の世界中の出来事を振り返ってもわかる。
変革はゆっくりと足場を固めていくしかない。

敬意を込めて“元気なジジイ!”と呼びたくなる様々な人を僕は思い起こした。
“アジア太平洋戦争“関係の日本のドキュメンタリー映画なら『蟻の兵隊』の男性もそうだ。
周りの人からのサポートを受けつつ“個”や“孤”の姿勢で立ち上がって闘い道を切り開く。
MOTORHEADのレミー・キルミスターじゃないが、
永瀬も最期までおのれの“仕事”をまっとうした。
その佇まいが実にすがすがしい。

最晩年の映像は奥さんとの二人三脚ぶりも描かれているが、
それによって“和解”というだけでなく、
身内も含めて人と人とが真正面から向き合うことの大切さもさりげなく示す。
下心やウソのない絆がこの映画の肝とも気づかされる。

さりげなく強靭な力作だ。


★映画『クワイ河に虹をかけた男』
2016年/日本/16:9/119分
東京・ポレポレ東中野にて8月27日(土)公開。他、順次公開。
www.ksb.co.jp/kuwaigawa


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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