阿武誠二(SEIJI/GUITAR WOLF)『昭和UFO』
2016-08-12

87年に東京でパンク/ロックンロール・バンドのギターウルフを始めた、
セイジ(vo、g)こと阿武(あんの)誠二の“エッセイ”集。
ブログの“フジヤマシャウト”に2007年の6月から今年4月にかけて書いた文章の中から89篇を抜粋し、
加筆および一部改題のうえに再構成した本である。
幼少時や学生時代をはじめとする過去の述懐が過半数ながら当然ギターウルフ結成以降の話も多いが、
書いた順番ではなくセイジの人生を追うような感じで文章が並べ替えられ、
おおおまかなテーマごと固めながら一つの流れができているところがポイントだ。
実直ながら天然の頓智が隠し味になったゴツゴツしたセイジの文体が骨まで味わいやすいように、
ぎゅうぎゅう詰め込まずに字が大きめの風通しのいい縦書きで読みやすい作りになっている。
ひとつひとつの文章のタイトルのほとんどがギターウルフの曲名そのもののセンスで、
どこを切ってもブレのない“セイジ節”全開である。
個人的には同い年(1963年生まれ)ならではの同時代感覚で切なくクスッと可笑しく楽しめたし、
ギターウルフに思い入れのない方もセイジの“まっすぐな人間ぶり”にヤられること間違い無しだ
ビシッ!と曲名が決まればそこから音と歌詞のイメージがふくらんでできあがっていく
ギターウルフのソングライティングそのままの“ドラマ”が描かれている。
ロマンあふれる人間臭い美意識に貫かれている。
シンプル&ドラマチック!なライヴや歌詞や音の世界観そのままの本だが、
底無しの妄想力と夢想力と想像力と観察力に舌を巻くしかない。
ネタは、昆虫、天体、飲食物、特撮もの、現場仕事、バイクなどなど尽きることはなく、
音楽をはじめとするセイジのルーツもさりげなく伝わってくる。
ツアーや映画撮影などで赴いたアメリカやヨーロッパなどの海外“紀行文”もリアルな一方、
日本の情趣があちこちから滲み出ているところもセイジらしい。
“地方出身者コンプレックス”を隠すことなく逆バネにし、
“しでかしてやるぜ!”ってなアティテュードはパンクそのもの。
伝統的なロックンローラーとは一線を画してストイックに自分を追い込んでいく姿勢はハードコアだ。
やせ我慢と根性は体育会系直系でオリンピックに対する愛も非常に納得できる。
ギターウルフがエクストリームな形で体現し続けている“ロック・ロマン”に対する思いも本書の肝である。
ジョーン・ジェットや忌野清志郎らに対しての一ファンとしての態度に象徴されるように、
セイジは純情で正直である。
だからこそピュアだが必ずしもナイーヴではない。
潔癖と言えるほど表裏がないのだ。
ロマンチシズムとリアリズムの間を全力で加速するセイジの意識は、
“M78星雲”というタイトルの回のウルトラセブンと沖縄の話にもよく表れている。
セイジが成人になってから話では文章の中に必ずといっていいほどビールが登場する。
特にビールがメイン・アクトの“生ビール IN タイ”というタイトルの回は爆笑必至だ。
1995年のアルバム『ミサイルミー』のリリース時に
ミュージック・マガジン誌で行なったインタヴューを僕は思い出す。
以降取材するたびに「あのインタヴューは楽しかったなー」と言ってくれて、
ギターウルフのオフィシャル・サイトにも長年転載されていたほどセイジも気に入ってくれた。
そのインタヴューの場所は2年前に閉店した東京・下北沢の名物店ぶーふーうー。
基本的には喫茶飲食店ながらビールをジョッキで出していたお店で、
メンバー3人はビールをガンガンおかわりしてゴキゲンで特にセイジはジョッキ片手に話しまくり、
30年以上ライターをやってきた中で最も噛み合った絶好調インタヴューの一つだ。
僕はギターウルフのインタヴュー記事や書き原稿を本人や事務所等に読んでもらってチェックされたことはない。
どうしても書き間違い等は有り得るから“原稿チェック”を否定はしないが、
その手直しのやり方などで相手の底意地が見えたりもする。
だからこそ光るそんなセイジの潔さに本書はビシッ!と貫かれている。
宇宙を超える人間セイジの器のでかさに圧倒される本だ。
★阿武誠二(SEIJI / GUITAR WOLF)『昭和UFO』
定価:1,944 円(本体1,800円+税)
仕様:四六判/352ページ
リットーミュージック刊
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