なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

hell-guchi『LIFE. LOVE. REGRET』

hell-guchi.jpg


1975年に近畿地方で生まれた男性のhell-guchiが父親に捧げるべく綴った自身の半生記。
帯に書かれた“「成り上がり」より「裸一貫」”という言葉が心に響いたし、
個人的にツボを突く音楽関係の固有名詞も頻発するから一気に読んでしまった。


3日で一気に書き上げたというだけに四十男の初期衝動でもって駆け足で描かれ、
エモい“泣き”の要素はなく飄々とした“足取り”の文章ゆえの感傷が削ぎ落とされた筆致ではある。
でも南カリフォルニアのサンディエゴのニュースクール激情ハードコア・バンド、
UNBROKENの94年のセカンド・アルバムのタイトル『Life. Love. Regret.』と書名がほぼ同じなのは、
偶然ではない。
そのフレーズがピッタリの本だし、
他にもhell-guchiが吸収してきた音楽が言葉の中で息をしている本なのだ。
本書とは直接関係ないが、
最近だとLongLegsLongArms[3LA]レーベル周辺のバンドのライヴにも足を運んでいるようで、
SWARRRMの『20 year chaos』を愛聴しているのもうなずけるカオティック・ライフが静かに走っている。

僕より12歳年下の方だけに同時代感覚とは違うが、
たどってきた音楽遍歴にはうなずきまくりだ。
hell-guchiは大学入学後の90年代の半ばからしばらくは東京に住んでいたらしく、
しかも高円寺のライヴ・ハウスの20000V(R.I.P.)やショーボートに入り浸っていたというから、
僕も絶対どこかで場を共有していたはず。
その頃hell-guchiが愛用していたというANAL CUNTのTシャツを当時ライヴで着ていた人のことを
思い返したりもしてみた。
それはさておきhell-guchiは自身のノイズ・ユニットに加えて自主ライヴ企画を95年に始め、
非常階段のメンバーでもあるT.美川がその準メンバーだったF.コサカイとやっているINCAPACITANTSと、
メロディック・パンク・バンドのLOVEMENを含む組み合わせで決行することもあった。
その頃に現REDSHEERのメンバーが中核だったバンドのATOMIC FIREBALLとも
交流を持っていたようである。

どんなアーティストでもいいってわけじゃないだろが、
ヒップホップやトランス・ミュージックに入り込んだりもしているフットワークの軽さは、
いい意味で文体に表れている。


話を戻すとhell-guchiが“主演”の物語ではあるが、
hell-guchiにとってかなりでかい存在の“親父”のことにかなりの字数を割いている。
“貧乏でも、子供達への愛情は惜しげなく注いでくれた親父。
連帯保証人として背負った1億円の借金を、20年かけて返済した親父。”
という帯の文句に本書の肝が凝縮されている。

子どもの頃からかなり生活が困窮していたようだが、
本当にそういう人間が表現するものは貧乏自慢や不幸自慢にはならない。
可笑しいほど、ある意味突き抜けているからである。
そしてhell-guchiのようにエクストリームな生活状態で子供の頃から暮らしていると
パンクに向かうモチーフは反体制だの反資本主義だのを超えてもっとプリミティヴな“飢えた心”になる。
それにしてもhell-guchiが長男の3人兄弟と“親父”と“オカン”の家族5人は、
貧しいながらも子どもたちの将来を考えた御両親の気だての良さと他人を思いやる気持ちの強さでしあわせそうだ。
お互いに敬意を表わし合っている家族に映る。

特にやはり“親父”の努力は計り知れないと想像できる。
家族内の状況はかなり違うが、
父親に関してはhell-guchiと近い点が多いがゆえにも読んでいて僕も心に染み入ってきた。
大型車の運転手の仕事でやはり「人に使われるのは御免だ」みたいな性格だった
(ただしhell-guchiの親父のメインの職業がトラックの運転手で他にも色々やったのに対し、
僕の父親はダンプの運転手で(有)行川建材興業という会社まで作るもやがて必然的に一匹狼に)。
仕事ばかりしていたようで原始的DIY精神に基づき完成品を買うより自分で作る“趣味”もそっくりだ。
僕も少なからずリスペクトしているから“親父”についての部分は読んでいてちょっと目が潤んできたし、
自分もこういうことを書きたいと思った。


hell-guchiは冒頭に書いたバンドの名前の“UNBROKEN”そのものだ。
父親譲りの精神性であることは言うまでもない。
“UNBROKEN”と言えばアンジェリーナ・ジョリー監督の2014年の問題作映画の原題も思い出すし、
本書のイメージとちょっと違うしカッコ良すぎのフレーズながらその邦題を引用すれば、
さりげなく“不屈の男”である。
そして本のタイトルの最後の“REGRET”だけ“.(ピリオド)”を打ってないところも重要なのだ。

ちょっぴりしょっぱくて苦辛い味の日本映画の佳作を観た気分になった自伝エッセイである。


★hell-guchi『LIFE. LOVE. REGRET』
税込:1080円
単行本(ソフトカバー): 113ページ
出版社: 文芸社
商品パッケージの寸法: 19 x 12.6 x 0.8 cm


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/1717-aa8f2e7f

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (241)
JOB/WORK (290)
映画 (247)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (43)
METAL/HARDCORE (47)
PUNK/HARDCORE (409)
EXTREME METAL (128)
UNDERGROUND? (93)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (121)
FEMALE SINGER (42)
POPULAR MUSIC (25)
ROCK (82)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん