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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『地獄に堕ちた野郎ども』

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ヴィスコンティの名作映画『地獄に堕ちた勇者ども(英題:The Damned)』ではない。
ロンドン・パンクの中でレコード・デビューもアルバム・デビューも米国ツアーも最初だった、
DAMNEDの初のドキュメンタリー映画である。
原題は79年にリリースしたサード『Machine Gun Etiquette』の
アルバム・タイトル曲(別名「Second Time Around」)の歌詞から引用した、
『The Damned : Don’t You Wish That We Were Dead』だ。

映画『極悪レミー』を手がけたウェス・オーショスキーが監督。
けっこう色々と見せてくれる初期のライヴ映像がモーレツにカッコいいことは言うまでもないが、
ノスタルジーに陥らずに現在進行形で描いている。
日本での撮影もたっぷり含む2001~2002年の結成35周年ツアーを追ったライヴ等の映像を中心に、
様々な時代の懐かしの映像や写真を挿入しつつ関係者の話で進めていく。

オリジナル・メンバーのデイヴ・ヴァニアン(vo)、キャプテン・センシブル(b、g)、
ラット・スキャビーズ(ds)、ブライアン・ジェイムス(g)はもちろんのこと、
歴代メンバーのルー・エドモンズ(b)[現PiL]、ジョン・モス(ds)[後にCULTURE CLUB]、
ポール・グレイ(b)[元EDDIE and The HOT RODS]、ローマン・ジャグ(g、kbd)、
故ブライアン・メリック(b)、モンティ・オキシモロン(kbd)、ピンチ(ds)[元ENGLISH DOGS]、
スチュ・ウェスト(b[元ENGLISH DOGS])も語る。
他の元メンバーもほとんどが多少なりとも映像で顔を出しており、
いかにDAMNEDが色々なバンドやシーンとリンクして進化と深化を繰り返してきたかもわかる。

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もちろんSEX PISTOLやCLASHと比べて云々という話も展開されるが、
ロンドン・パンク云々という伝説に頼った観点に固執せず、
時代も国境も越えて活動しているDAMNEDらしく大きな視野で捉えている映画だ。
ということは以下に列記したメンバー以外の主な発言者にも表れている。

ミック・ジョーンズ(元CLASH~BIG AUDIO DYNAMITE)、ドン・レッツ(元BIG AUDIO DYNAMITE)、
ビリー・アイドル(元GENERATION X)、クリッシー・ハインド(PRETENDERS)、
グレン・マトロック(SEX PISTOLS)、ジャン=ジャック・バーネル(STRANGLERS)、
ゲイ・アドバート、TV・スミス(以上、元ADVERTS)、スティーブ・ディグル(BUZZCOCKS)、
ニック・メイスン(PINK FLOYD)、レミー・キルミスター(MOTORHEAD)、
チャーリー・ハーパー(UK SUBS)、デイブ・ガーン(DEPECHE MODE)、
クリス・ステイン、クレム・バーク(以上、BLONDIE)、
キース・モリス(元BLACK FLAGCIRCLE JERKS、OFF!)、ジェロ・ビアフラ(DEAD KENNEDYS)、
イアン・マッケイ(元MINOR THREAT、FUGAZI)、ジャック・グリシャム(T.S.O.L.)、
デクスター・ホーランド(OFFSPRING)、バズ・オズボーン(MELVINS)、
ジェシー・ヒューズ(EAGLES OF DEATH METAL)、ジミー・アシュハースト(BUCKCHERRY)など。

“この人いらないだろ?”って感じの人はほとんどいない。
たとえばDEPECHE MODEのデイブ・ガーンの佇まいみたいなものはサード以降のDAMNED風だし、
PRETENDERSのクリッシー・ハインドはDAMNED結成前夜のロンドン・パンク・シーンに関わっていた。
意外な関係性が見えてきて面白いのもDAMNEDならではで、
米国のミュージシャンも多いのは
70年代後半から80年代前半にかけてのカリフォルニア・パンクへの影響のでかさを思えば当然だ。

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© 2015 Damned Documentary LLC.
Photo by Ian Dickson

過去の映像/写真もインタヴューも膨大にネタがあって長時間にならない範囲で駆使したかったのか、
談話を流す部分で発言者の顔の代わりにライヴ等のレア映像/写真を映して“時間を節約”しているが、
ただ語っているだけのシーンが多いと映像として単調になるから正解だろう。
証言がメインになっている部分も適宜短時間で発言者をポンポン切り替えることにより、
映画全体のテンポの良さを作るのに一役買っている。
ネタの並びも緻密に考えられているようで、
禁欲的な歌詞でアレコレ物議を醸したイアン・マッケイがDAMNEDの魅力を語った直後に、
酒瓶ラッパ飲みのブライアンを映したり、
デイヴの「説教じみた歌詞はない」といった言葉を続けるなど編集に制作者の意図が見え隠れして面白い。

内容盛り沢山で新旧ライヴ等を映しながら基本的には数奇な歴史をたどっていく流れだが、
インターネットでちょっと頑張って調べればわかることを説明する描き方はしてない。
言葉だけでなく映像と音楽も同時に絡められる映画という表現ならではの見せ方を大切にしている。
歴史が長いバンドだから懇切丁寧に綴っていくと時間がいくらあっても足りないだろうし、
几帳面にアルバムごとにという感じでもない。
監督の主観でトピックを絞り、
結成前夜の話をはじめとしてマニアックな話も含む。
随時“遊び”の要素も挟み込んでいるのは『極悪レミー』の作りに通じるが、
DAMNED自体の歩みと同じく中盤以降ヘヴィな話が続くがゆえの配慮にも思える。

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77年のファースト・アルバムの日本盤タイトルから引用した今回の映画の邦題がピッタリの映画で、
“呪われし者”という名を付けた時点でバンドの運命が決まっていたとも思わされる。

80年代で話を止めてないからこそ軋轢の話から逃れられない。
そこを避けてやんちゃでファニーなネタでまとめたらウソのドキュメンタリーになってしまう。
ブライアン・ジェイムス→キャプテン・センシブル→デイヴ・ヴァニアン→ラット・スキャビーズ
→キャプテン・センシブルといった具合に、
メンバー・チェンジに伴ってリーダーが数回変わってきたバンドだが、
78年の最初の解散の時点で既に確執が始まっていた。
バンドの内の“不協和音”が年々大きくなる一方だから映画の後半は“冷戦”の緊張感に覆われている。

メンバー間の“反目”がテーマの一つという点で、
やはりRAMONESのドキュメンタリー映画『エンド・オブ・ザ・センチュリー』を思い出さずにはいられない。
どちらもポップでメロディアスなパンク・ロックで楽しいサウンドとは裏腹に
多かれ少なかれ“バンド内外”で不和が続いていたことで共通するが、
主因が異なるとはいえバンドの根っこのキャラの違いがねちっこいほど伝わってくる。
ひとまず観て、感じていただきたい。

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今もDAMNED現役のオリジナル・メンバーであるキャプテンとデイヴには、
特に焦点を当てている

初期から2010年代の映像を映し出しているだけによくわかるが、
マイナー・チェンジはあれどキャプテンとデイヴのルックスが変わってないところも特筆したい。
音楽的には様々な姿を見せてきているバンドだが、
肝のスタイルが変わってない証拠である。
とりわけ体型もずっとキープしているキャプテンのヴィジュアルの不変性にはちょっとした感動を覚える。
トレードマークの赤のベレー帽をはじめとして派手な色のポップなパンク・ファッションのパイオニアだし、
お馬鹿なステージ衣装も相変わらず“飛び道具”として使っている。
“じじいパンク”の歳になってもこの格好がサマになっているのもキャプテンのセンス。
「キャプテンは俺たちの世代で最高のコメディアンの1人だ。特別で優れたミュージシャンだ」
「キャプテンは、いかれた道化。人生でショーをしようとしている」
というキャプテン評も的確で、
クールな佇まいのデイヴとのコントラストがDAMNEDだとあらためて思わされる。

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尊大で快く思わないパンクスも多かったGUNS’N ROSESによるDAMNEDのカヴァーの問題も含めて、
キャプテンは潔癖なほど許さないことは許さない気に入らないことは気に入らないと正直に言う。

あくまでもDAMNEDの映画だからキャプテン個人のポリティカルなスタンスにはほとんど言及されてないが、
イラク戦争をリードした米英のトップのブッシュ(息子)とブレアを“口撃”している。
ただキャプテンは政治家だけでなく“パンク仲間”も容赦しないし、
“身内”だろうが免罪はしはない。
だから“こういう映画”に仕上がったのである。
対象にきちんと向き合っているからこそ痛烈かつ痛快な毒舌が飛び出る。
監督はかなり“厳選”したと思われるが、
映画を観ていくと撮影中にキャプテンが吐いた“毒”の総量が計り知れないことも想像できるほどだ。
昔のライヴ映像のMCでそういう姿勢も昔からのことだとわかる。
柔和な笑顔を見せる一方で、
時に観客もつっつく英国人らしいシニカルな挑発的トークも変わってないのだ。

映画の中で誰かが言っている「キャプテンこそがDAMNED」という言葉は言い得て妙だが、
最もヒットした時代ながらキャプテン不在の80年代半ばのDAMNEDはパンク感が薄かった。
いくらポップな曲をやっていてもキャプテンがいる時はさりげなく毒を盛っている。

媚びずおごらず我が道を行く姿をトータルで見ていって
“ほんとキャプテンってパンクだなぁ”とも思わされるのだ。


実は映画のパンフレットにも原稿を書かせていただいたのだが、
調べれば調べるほどキャプテンをはじめとして彼らがほんとうに音楽好きだと再認識させられた。
観たらファーストから最新作まで音源を色々と聴いてみたくなる映画だ。


★映画『地獄に堕ちた野郎ども』
2015年/アメリカ映画/110分/ビスタサイズ/原題:The Damned : Don’t You Wish That We Were Dead
9月17日(土)より渋谷HUMAXシネマほか全国順次公開。
http://damneddoc.jp/


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コメント

どパンクな映画

ステッカー付きの前売券を買って楽しみにしています。パンフレットも購入させて頂きます。
予告編でちらっと日本人が出ていたのを確認したのですが、その日本での撮影シーンが多めに含まれているようなので特に楽しみです。後はゲイ・アドヴァートの現在とかも気になります。
因みに私的ダムドベストは(ライブ・シェパードン1980)です。

Re: どパンクな映画

余分三兄弟+さん、ありがとうございます。
毎度の購入にも感謝します。
日本で撮った映像もたっぷり入っています。
インタヴューで登場する同期のミュージャンたちと比べるとキャプテンとデイヴの現役ぶりが際立っています。LED ZEPPELINとDEEP PURPLEの違いのような感じで、やっぱり精力的にコンスタントに続けているかどうかは見た目にも表れますね。
ライブ・シェパードン1980がベストというのは渋いですね。僕は王道でやっぱりファーストとサードですが、映画のエンディング・ナンバーがオープニング・ナンバーの『Strawberries』が最近の好みです。

行川さん、ご無沙汰しております。映画も良かったですが、パンフレットの行川さんの仕事も最高でした!つぎのダムドの来日公演でお逢いしましょう。

Re: タイトルなし

N.69.Kさん、書き込みありがとうございます。
映画の鑑賞+パンフレットの購入もありがとうございます。こういう機会がないと一つのバンドを掘り下げる機会はなかなかないので、僕も勉強になりました。
DAMNEDの奥深さをあらためて知りました。60年代のガレージ・サイケ・ロック~ブリティッシュ・ポップス~ロックンロール~カリフォルニア・パンク~ハードコア・パンク~アナーコ・パンク~デス・ロック/ゴス/ホラー・パンクへのリンク、無縁に見えて実はディープな政治との関わり、そして人間関係などなど、語るネタが無限にあるバンドですね。
ライヴはサマーソニック以来観てないですが、次回の来日公演で会いましょう。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
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