なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『アルジェの戦い』<デジタル・リマスター/オリジナル言語版>

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19世紀からフランスの支配下に置かれていた
北アフリカのアルジェリアにおける1954~1962年の“独立戦争”の史実に基づく、
1966年の劇映画がこのたびデジタル・リマスター/オリジナル言語版で再び日本ロードショーとなる。
インタヴュー・シーンのないドキュメンタリー映画のような作りで、
映像と音声がまぐわう映画ならではのダイナミズムと心理描写で表現のリアリズムを体現しているから、
足を運べる状況の方でしたらなんとか映画館で体感していただきたい傑作と言い切れる映画だ。

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まず政治性云々以前に映画の存在感そのものとしてグレイトな作品である。

彫りの深いモノクロ映像美にとにかく引き込まれる。
さりげなく滲み出ている心の陰影も刻み込まれている映像そのものの力にあらためておののく。
ほぼすべてを“言って”しまうカラーと違い、
モノクロは観る者によって“着色する余地”がたっぷり残されているわけだが、
この映画はそれによって鮮血の濃淡すらイマジネーションでふくらませて神経をファックする。

もちろん遠近を活かした撮り方で状況の奥行きもしっかりと映し出しているが、
男性レジスタンス、女性テロリスト、ヨーロッパ系移住民、フランス軍関係者などの
すべての人間の顔のアップを多用するカメラがグレイトすぎる。
とにかく人間の表情を“すっぴん”のまま克明に描写している。

説明的なテロップの類いはほとんどなく、
理屈っぽいセリフもなく、
でかいスクリーンで見せる映画としてストロング・スタイルの作りに圧倒されるのみだ。

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醒めた炎の命を映像に注ぎ込むかの如く、
『荒野の用心棒』などで知られるエンリオ・モリコーネの音楽が場面ごとの空気感や人間心理の機微を見事に綴る。
モリコーネみたいな音楽家は別格ではあるし映画作品個々の制作の状況や環境の違いを考慮したとしても、
適当なBGMや余計なお世話で邪魔なだけの音楽の挿入が無神経でしかない映画がホント多いから、
『アルジェの戦い』では映画の肝に成り得る音楽の在り方も考えさせられる。
そして雑踏のざわめきや爆発音をはじめとする映画の中の音声すべてが神経をえぐっていく。

火薬に欠かない映画とはいえ忙しい展開とは対極の静かな進行の映画だが、
展開のリズム感が抜群だから引き込まれる。
いわゆるスピード感たっぷりの映画の真逆の速さの映画にもかかわらず、
体感速度がリアルでテンポが良くて人間の鼓動に共振したビート感に貫かれている。
たとえ静かな“鳴り”だろうが映画そのものに躍動する命のビートがなければ作品は死んでいるし、
絶望をエナジーに“昇華”する映画ほど息吹のテンポによって生かされることを知らしめる。

エレクトリックな音楽を爆音化するアンプみたいに
想像力をamplifier(増幅/拡大)する映画が持ち得る可能性を無限大に体現し、
政治性を超えて人間存在そのものに迫っていくうちにしまいには覚醒させる映画だ。

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とはいえ政治色1000%の映画である。
いわゆる反体制勢力のFLN(アルジェリア民族解放戦線)と
当時アルジェリアを支配したフランスの最前線に立ったフランス軍の戦いに加え、
“双方”の市民が巻き添えを食う様子が淡々と描かれている。

台本に沿って演じられるいわゆる劇映画ではありながらドキュメンタリー映画以上にすべてが“生”。
部分的にニュース・フィルムなどの記録映像を使っているのでは?と思って関係者の方に確認したほど生々しい。
いわゆる俳優はほとんど起用されてない。
主要キャストは“実務経験者”を含むいわゆる素人が多数演じ、
アルジェリア市民8万人が撮影に協力し、
アルジェリア軍から戦車や武器類を調達して仕上げられたという。
役者を超越した一般の方々の“演技力”の迫力は偽り無き心の“叫び”そのものだからに他ならない。
すべてのロケをアルジェリアの首都アルジェのカスバで行なったがゆえの空気感に戦慄が走りっぱなしだ。

必要以上に感情に流されない冷厳な切り口と語り口が際立つ。
市街戦や爆発のシーンも実際のテロと同じく断続的に入りこんでくる映画だが、
終始落ち着いたトーンだからこそ心をえぐる。
死んでも屈することのない熱い男もいるが、
ある種の冷めた意識ゆえにフラストレイションが計り知れないほどの熱を帯びている。
センチメンタルな感傷の類いをことごとく削ぎ落として冷厳に綴ることでギリギリの感情の軋みが滲みでている。

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フランスに抗うアルジェリアの“原住民”がクールに描かれる。
いわゆるフランス人をはじめとするヨーロッパからの移住者たちから差別もされてきたからこそ、
レジスタンスの男たちは精悍に研ぎ澄まされているように映る風貌だ。
昨今の自爆テロ人間たちと違って命を無駄にはしないが。
様々な時代や国/地域問わず反体制のみならず国のトップを務めた人間でも後を絶たないように、れじ
アルジェリアのレジスタンスも時として“大義”以上に大切なおのれの矜持ゆえに命を爆破されることを選ぶ。
“家族との妙な絆”を思うとやるせない決意の人間もいて考えさせられる。

インターネットのない時代に手探りで緻密に“事実”を詰めて炙り出したのであろう、
用意周到な警官殺しの模様も一瞬の緊張感で息を呑む。
女性たちの爆弾テロ・シーンもさりげなさすぎるがゆえにリアルで、
カフェでくつろぐ人たちが“爆殺”される瞬間の数々の映像が強烈だ。
警戒網をくぐりぬける女性テロリストたちのスリリングな行動はサスペンス・タッチであり、
なにより殺しが日常茶飯事の地域でのテロ以上に、
しあわせな光景のエクストリームな暗転こそがテロの真髄であることを心臓に突きつける。

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この映画の爆弾テロは
当時フランスが植民地にしていたナイジェリア内で“ヨーロッパ人”が集まる場での出来事だが、
当時のアルジェリア“反体制派”のモチーフと取り巻く状況が異なるとはいえ、
特に昨年から苛烈化して起こり続くイスラム国関連によるフランス内のテロをイメージせずにはいられない。
まるで予見していたかのように立て続けで、
一般の人も巻き添えを食うから鎮圧しなければならない“体制側”の苦悩の震えは昨今のフランスと共振している。
と同時に、一般民衆を集めたとは思えないほどの数の人間が声を上げるデモのシーンでは、
2010年代前半のいわゆる“アラブの春”の盛り上がりとその後の挫折を思う。

ほんと一瞬たりとも目が離せない。

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1966年のベネチア国際映画祭でグランプリにあたる金獅子賞を受賞した際には
現地入りしていたフランス代表団が“反仏映画”として反発し、
『大人は判ってくれない』の監督で知られるフランソワ・トリュフォー以外の全員が会場を退席したという。

もちろんフランス告発のトーンに貫かれてはいるし確かにフランスの横暴も描かれているが、
フランスの圧政の様子はかなり抑えられているし、
そんなに“反フランス”な映画にも見えない。
リーダー格の人間も含めてフランスの兵士らの心の動きもデリケイトに捉えている点も特筆したい。
政治的ドキュメンタリー映画で目立つ一方的な糾弾映画で終わってないのだ。
テロで殺される一般市民を守らなければならない側の立場もしっかり描いている。
母国そのものを守るのではなくアルジェリアで従軍するがゆえに、
単純な愛国意識と違うフランス兵士の葛藤みたいなものもさりげなく綴られている。
勝った!負けた!だの、正義!悪!だの、白黒つける二元論こそが一番恐ろしいから、
そういう視点とは一線を画している。
それぞれの立場の葛藤とプライドを緻密に描き切っているからこそリアルなのだ。

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ここ5年ほどの間に日本でも政治に対する関心が高まったというが、
“右”だけじゃなく“左”も大半は自分の国やその周辺のことしか頭になくて、
結局自分の周りが良ければいい内向き意識の根っこは何も変わってない。
直結してないとしても『アルジェの戦い』の流れを色々たどれば、
ソマリア周辺で荒らすシャバブやナイジェリア周辺で女の子を拉致使用するボコ・ハラムといった、
昨今のアフリカ“最凶恐怖勢力”が産まれたことにもつながる。
日本とアフリカが無関係でないことは2013年の“アルジェリア人質事件”でも明らかで、
関係ないことなんて何もない。

50年以上前の映画にもかかわらず、
いや半世紀以上前の映画だからこそこの作品は一巡した示唆を与える。
深くわかりやすいこの映画をきっかけに視野を広げていただけるとさいわいだ。

憎しみを殺さずに生き延びさせ、
憎しみを憎しみとして尊びながらエンディングで突き抜ける。

これぞ必見。


★映画『アルジェの戦い』<デジタル・リマスター/オリジナル言語版>
1966年/イタリア=アルジェリア/B&W/1.85:1/121分/フランス語・アラビア語
10月8日(土)より東京・新宿K's cinemaにて公開。以降、全国で順次ロードショー。
http://algeri2016.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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