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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『男と女』[製作50周年記念 デジタル・リマスター版](+同時上映『ランデヴー』)

男と女m


泣く子も黙るクロード・ルルーシュ監督による1966年のフランス映画の名作『男と女』が、
製作50周年を記念してデジタル・リマスター版で全国上映される。
ルルーシュ監督が1976年に撮った日本初公開短編『ランデヴー』も同時上映だ。

映画『男と女』を知らなくても、
“ダバダバダ~ダバダバダ~ダバダ……”の主題歌を耳にしたことのない人はあまりいないだろう。
挿入される音楽もひっくるめてフランスの権化みたいな映画で、
植民地云々がフランスの裏イメージだとしたら表イメージは『男と女』。
むせかえるほどにビタースウィートな甘美の世界である。

男と女1

パリで一人暮らしをするアンヌとカーレーサーのジャンは、
それぞれ同じ寄宿舎に娘と息子を預けていることから知りあって惹かれあったが、
“伴侶”との辛い別れの過去も忘れられない。
そんな二人の104分のラヴ・ストーリーだ。

俗を超えたロマンスであると同時に、
子持ちの独り者同士の俗っぽいシチュエーションでもある。
ほほえましくロマンチックだし、
ありえない設定のようで意外とリアルだし、
あっと驚く余韻のラストまで至れり尽くせりのパーフェクトな映画だ。
運命の二人にジェラシーを覚える人も後を絶たないだろう。
映画の中の世界が“憧れ”だった時代ならではだが、
そういったことが今も映画の魅力のひとつであることに変りはない。

男と女2

シンプルな物語もチャーミングだが、
魔力とも妖力とも言いたくなる映画全体を包み込む雰囲気にゆっくりととろけて目が覚める。
薄っすらと漂う品のある天然の芳香がずっと揺れ動いている。
出そうと思っても簡単には出せない粋で優雅な大人の男と女の匂いがスクリーンをゆっくりと染めてあげていき、
二人が一緒にいるシーンは子連れの“なごみ”の場面ですら特に濃い。
特に、やっぱり、いわゆるラヴ・シーンにヤられる。
スクリーンを観ているだけで伝わってくるキスの“旨さ”には舌を巻くしかない。

音楽と映画のこの上ない芳醇ブレンドが味わえる作品でもある。
ふんだんに使われている洒落た音楽が映画の情緒や情感や情景となって息づき、
音楽がまるで俳優のようであり、
それでいて余計なお世話にならずに“うるさくない”。
挿入される音楽がけっこうパーカッシヴという点も特筆すべきで、
メロウに流されることなくテンポのいいリズミカルな映画の仕上がりに一役買っている。
いわゆる音楽以外の音声もポイントで、
ベッドの上で二人が抱き合った時のシーツのすれる音や風音などすべてが必然としてさりげなく盛り上げる。

もちろん映像も無駄がない。
一つ一つの事物のディテールがドラマを演出し、
まさに“小道具”だ。
映像技術としてはカラーとモノクロをシチュエーションによって使い分けているのが見事で、
モノクロに関しては場面によって色が微妙に違って見えるし、
様々な気持ちや空気感を醸し出しているのであった。

ランデヴー<メイン画像

一方、
『男と女』でも大切な“愛のツール”になっていた車で走りまくっている映画が同時上映の『ランデヴー』。
カメラ長回しというかワン・テイク、
レコーディングで言えば一発録りの8分48秒の“ライヴ”だ。
車の前方にカメラを設置して夜明けのパリをただ走りまくっているだけだが、
いわゆる高速道路ではなく街中をかなりのスピードでノンストップ“暴走”している。
こんな路地とかよくノンストップで走り続けられるもんだ・・・と感心する時間も与えず、
ときたま人間もそのへんにいるしでかなり危険&スリリングだし、
“エンジン・ノイズ”との相乗効果で心臓の加速も必至の“モーター・ドキュメンタリー”だ。


★映画『男と女』[製作50周年記念 デジタル・リマスター版](+同時上映『ランデヴー』)
10月15日(土)より東京YEBISU GARDEN CINEMAなど全国各地で順次ロードショー。
http://otokotoonna2016.com/


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コメント

すばらしい解説ありがとうございます

男と女は、少年の頃から私も大好きな映画で、最近はDVDを購入して何度か見ています。
DVDの特典映像にある制作の模様を写したシーンをみると、けっこういいかげんに撮影しているのですが、その適度ないいかげんさが、躍動感を生み出し、全体としてムダのない、引き締まった映像につながっていると思います。
私の中では、この映画を通じ、フランスという国に対する憧れが始まったように思います。

Re: すばらしい解説ありがとうございます

RINZENさん、書き込みありがとうございます。
スクリーンで観るにふさわしい映画らしい映画だと思いますが、DVDで繰り返し観るとまた別の楽しみ方もできそうな映画ですね。DVDのその特典映像は見たことないですが、モノクロ映像を含めたのは予算的な関係で致し方なかったのを逆手に取ったらしく、そういう“ゆるさ”も魅力と思います。
映画はその製作国や舞台になった土地等への興味のきっかけになることが多いですが、まさにフランスへの憧れのきっかけになりそうな映画ですね。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
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