なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『胸騒ぎのシチリア』

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アラン・ドロン主演の1969年の名作『太陽が知っている』を“リメイク・アップデート”し、
南イタリアのシチリアの孤島で展開する男女4人の危うい大人のラヴ・ストーリー。

風光明媚な南欧のドライな空気の中で、
交錯する愛と嫉妬と憎しみがゆっくりとふくらんで噴き上がり窒息して再生する映画だ。
保養のために異国から訪れたラテンの太陽が愛欲に点火し、
陽光に照らされた明るく開放的なハッピー・ムードがいつのまにか暗転して土砂降りという、
サスペンスも盛り込んだエンタテインメント映画ながらモヤモヤ感で“人間”を炙り出していく。

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スタジアム・クラスのライヴをやるほど世界的なスターのロック歌手のマリアンが、
南イタリアのシチリアのパンテッレリーア島にやって来る。
声帯の手術を受けたばかりでほとんど声が出ない彼女は、
年下の恋人で無名の撮影監督のポールと二人だけで静かに休暇を過ごそうとしていた。
でも訪れる途中でマリアンの元彼の有名音楽プロデューサーのハリーが電話を掛けてきて押しかける。
付き合っている頃は存在を知らなかったセクシーな“娘”のペンもハリーは連れてきたため、
マリアンが友人から借りているプール付の豪華な別荘に二人も泊めることにした。

飲んで食って歌えや踊れやで陽気を通り越してうるさいほど快活で自分のペースに巻き込むハリーは
再びマリアンを狙い、
いぶかりながらも昔を思い出したかのように彼女も買い物やダンスを楽しむ。
一方、チャラ男でワイルドな傍若無人のハリーとは対照的で生真面目なマリアンの現恋人のハリーは、
思わせぶりなハリーの“娘”のペンのペースにゆっくりと引き込まれていき、
実の娘ではなくハリーの恋人にも見える謎の言動をとるペンはカラダも投げ出してポールを“試す”。
そうして二組に分かれて時を過ごしたあとに4人が合流するも“事のあとの匂い”は消しようもなかった。

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監督は映画の舞台のシチリア生まれで『ミラノ、愛に生きる』(2009年)で知られるルカ・グァダニーノ。
主演のマリアン役は『フィクサー』(2007年)や
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013年)などで肝の役どころだったティルダ・スウィントン。
音楽プロデューサー役でマリアンの元彼のハリー役は『ハリー・ポッター』シリーズや
『グランド・ブダペスト・ホテル』(2013年)で知られるレイフ・ファインズ。
ハリーの“娘”のペン役は『ブラック・スキャンダル』(2015年)で光ったダコタ・ジョンソン。
マリアンの年下の彼氏のポール役は『リリーのすべて』(2015年)に出演したマティアス・スーナールツ。
みな適材適所の好演で、
ティルダ・スウィントンは声が出せない役を逆手にとってセリフに頼らぬ演技で人気歌手役を見事に演じ、
ダコタ・ジョンソンはティーンエイジャーの“娘”を小悪魔な色香に包んで演じて悩殺する。

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それにしても疑いなく“いい人”と言える人は一人もいない。
4人はみんな“いい人”そうに見えて多かれ少なかれ“腹に一物”ある。
それが人間ってもの!とでも言わんばかりで善人の大安売りの世の中だけに胸がすく。
ある意味みんな正直とも言えるが、
一番クセが強くて一番冷たそうに見える人が一番あたたかく映るのも現実社会と同じに思える。

すべてを見せないし説明もしない映画だ。
映画の中で必要最小限と思われることしか真相を明かさない。
この二人の関係はどうだったのかといったことは観た人それぞれの想像力にまかせる。
観た人の数だけのストーリーができあがるのも映画の面白さだし、
何でも白黒つけたがってその楽しみを奪う映画は余計なお世話ってものである。

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映画はビッグなスクリーンで見せるものだから、
理屈っぽいセリフを必要としない映像力で魅せるダイナミズムが肝だ。

セクシーな画の入れ方もあざとくなくエロチックな映画である。
ファッションも要注目の女優二人が
映画のストーリーと同じく競い合うようにボディを蠱惑的に見せてくれる。
ベッドシーンもなかなか鮮烈・・・いやベッドの上で“して”ないからベッドシーンではない。
野外の水のそばでは全裸で横たわっているシーンが数ヵ所に出てくるが、
性行為が着たままなところからもベッドまで待てない情欲にまかせた生々しい情動が伝わってくる。

ユネスコの世界遺産に登録されたパンテッレリーア島でのロケというのも大きい。
アフリカなどから地中海ルートでイタリアにも押し寄せている難民問題も絡めるなど
現在進行形のネタを取り入れつつ、
ジョルジオ・アルマーニなどのセレブも休暇で御用達の島というのも納得の見せ場がたくさんだ。
火山島ゆえに岩に覆われ、
泥浴が楽しめる温泉や天然のプール、湖なども舞台になり、
レストランやカラオケバーも使われ、
4人のカラダを火照らせる。

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意外と場面転換が激しくて全体にリズムがあってテンポがよく、
無神経に使いすぎることなく要所で音楽が“生”を吹き込んでいる映画だ。

“ストーンズ・ネタ”も映画の中の随所でいいアクセントになっている。
ROLLING STONESの 94年のアルバム『Voodoo Lounge』の曲「Moon Is Up」の音のアイデアを
音楽プロデューサー役のハリーが提案した話も盛り込まれているが、
そのネタは監督がチャーリー・ワッツとロン・ウッドに会って仕込んだものだという。
深読みすれば映画後半のとある出来事は、
初代リーダーのブライアン・ジョーンズがプールで溺死した事件をダブらせているようにも思える。

「Emotional Rescue」が大切な場面で流される他に、
ROLLING STONESの曲は「Moon Is Up」「Heaven」が使われている。
他にもCaptain Beefheart & HIS MAGIC BANDの「Observatory Crest」、
ニルソンの「Jump Into The Fire」、
さらにヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画『アギーレ・神の怒り』でも知られる曲の
POPOL VUHの「Aguirre I (L’acrime Di Rei)」なども挿入されるように、
簡潔に用いた音楽のセンスも実にクールだ。

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原題の『A Bigger Splash』は水がポイントの映画だから素直に“より大きな水しぶき”と解釈できる意味とはいえ、
天文学用語で“大衝突”の意味であり一般的には“大成功”の意味もある。
そういった“深読みの意味”が怖いほどハマっている映画だ。

終始クールだった音楽プロデューサーの“娘”が最後の最後に見せるピュアな姿を目撃してしまっただけに、
終盤が救いようのない展開だから設けたと思しきラストのオチが僕には笑えなかった。
“残った二人”がまるで“ハッピーエンドを演じている”かのように映ったからで、
残酷なほど釈然としないことが世の現実だとあらためて思わせもするストレンジなほど苦い映画である。

観終わった後に太陽が黄色に見えた。


★『胸騒ぎのシチリア』
2015年/イタリア・フランス/英語/125分/ビスタ/カラー/5.1ch/
原題:A Bigger Splash/日本語字幕:石田泰子 配給:キノフィルムズ
11月19日(土)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
© 2015 FRENESY FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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