なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ちょき』

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和歌山県和歌山市を舞台に盲目の少女と美容師の男性の“交感”を描いた映画。
いわゆる感動ものかもしれないが、
押しつけがましくなくわざとらしくもなく、
エゴを包み込んで静かなハーモニーを奏でるさりげなく濃厚な佳作である。

監督・脚本は、
東京・吉祥寺のバウスシアターのクロージング映画になった
『さよならケーキとふしぎなランプ』(2014年)を手がけたことでも知られる金井純一。
家族や親子の問題を乗り越えて進む点も含めて、
劇場長編映画デビュー作『ゆるせない、逢いたい』(2013年)の世界観を深めた作品で、
甘さを排した空気と苦く酸っぱい匂いがゆっくりと広がっていく。

主演は、
1996年12月26日に埼玉県で生まれて金子監督作品『転校生』(2012年)にも出演し、
これが長編映画初主演作になる増田璃子。
心の眼で見る静かな表情が生々しい今回の瀬戸サキ役は彼女以外にありえないし、
“もやもやした気持ち”を匂わせて男と会うたびにそれを強めていく演技がストロング・スタイルで素晴らしい。
相手の男性役は、
1978年8月30日に東京都で生まれて最近だと『種まく旅人〜夢のつぎ木〜』でも好演していた吉沢悠。
他には芳本美代子や小松政夫らが脇を固めて“すっぴん”の好演をしている。

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和歌山市の商店街にある“HATANO”は子どもから大人までの地元の人々も愛されている美容室で、
波多野直人(吉沢悠)はその美容師。
直人の妻はその二階で書道教室を行ない、
子どもがいなかったためそこに通う7歳の瀬戸サキを自分の娘のようにかわいがっていた。

時が経って10年前の“ある事件”以来会っていなかった高校生のサキ(増田璃子)から電話がかかってくる。
サキは視力を完全に失っていた。
直人は妻を5年前に亡くしていた。
仕事の合間を縫って直人は、
父親不在の“事情アリ”で母親と離れて盲学校で寮生活をしていたサキとたびたび会うようになる。
二人が一緒にいる姿は地方都市だと大都会よりも目立つためか街で噂になり、
女子高生との交際は犯罪に成り得る時代だけに直人は友人から「逮捕されるぞ」とまで言われ、
盲目ゆえに気づかないとはいえサキも同室の弱視の親友による“嫉妬行為”の被害に遭う。
そんな中でサキは高校卒業と同時に“人生の進路”を迫られた。

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盲目の人が主人公の映画を僕が観たのはポーランドの『イマジン』以来だが、
同じく“ラヴ”がキーワードの映画とはいえこちらは日常の感覚で描かれている。
盲目の人は普段暮らしていくにあたって研ぎ澄まされた聴覚に負うところが大きいとはいえ
『ちょき』は想像力を大切しながら音声の響きを強調することのない作りで、
適度に交えた放言の響きも含めて滲み出る侘び寂びに包まれた日本らしい映画だ。

直人の美容室は“わかやまじゃんじゃん横丁”で撮られ、
他に和歌浦天満宮、マリーナシティ、和歌山盲学校など、
すべてが和歌山市内で撮影され、
日本の地方都市ならではの朴訥とした街の風景も見どころのひとつだ。
金持ちも庶民も関係ない日本の情趣が自然と醸し出され、
二人をやわらかく包み込んで後押ししている。

派手さはないがカメラは鋭く強気だ。
ゆっくりと、ゆっくりと、ぐいぐい、ぐいぐい、人物に迫っている。
人物に迫るということは、
表面的ではなく人間の気持ちにも迫って内面をすくいあげて見せているということだ。
画面の切り取り方も見事で、
アップも多用して表情や感情の微妙な動きをしっかりととらえている。

音声効果も的確だ。
余計なお世話の音楽で過剰に盛り上げて映画の機微をぶちこわすことはない。
主題歌「風の声を聴いた日に」も提供したおおはた雄一のギター音楽も適度に入れつつ、
自然音にまかせてプラトニックな空気感をさりげなく高めている。

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始めからエンドロールまでずっと体温を感じる。
穏やかながら時に激しい空気に包まれ、
日本の土壌からしか生まれ得ないおくゆかしい詩情が陽炎のように揺らめいている
“着色料”も“添加物”もないとてもシンプルな作りだからこそ、
映画が単にストーリーを見せるだけでなく総合表現であることにも気づかされる。
いわゆるアートな映画ではないからこそ実感できる。

もちろん“合理主義”とは対極の気持ちのヒダのひとつひとつを大切に残した編集を行ないつつ、
ゆったりした作りながらセリフも映像も物語も無駄がない。
余計な“遊び”のシーンでお茶を濁して本質から目をそらして薄めることはしない。
だから、とても静かな映画にもかかわらず、とても濃い。
すべてが自然で雲の流れのように歩み、
すべてがナチュラルな“淡色表現”だ。

まったりした序盤で“こりゃダメかな…”としばらく思いながら観ていた僕も
いつのまにか固唾を呑んで二人を見守らせた吸引力がはんぱない。
こころのなかに、ゆっくりと、はいってきて、ゆっくりと、しみこんでくる。
後半は二人が薄氷を踏む思いで人生の物語を編んでいく様子が見ていると伝わってくる。

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ラヴ・ストーリーと言えばラヴ・ストーリーかもしれないが、
あからかじめそういう予備知識を入れて映画の試写会に臨まなかった僕には
中盤までは二人が父親と娘みたいな関係にしか見えなかった。
それぐらいさりげない“交際”だ。

あいまいだからこそ深い。
言葉で伝えなければ気持ちが伝わらないのは事実だが、
間合いが怖いとばかりに言い訳がましく言葉を山ほど使うことでウソ臭くもなる。
やっとの思いで息を吐くように発した最小限の言葉や、
絵馬や点字で想いを表した二人を感じるにつけ、
以心伝心の力もあらためて考える。

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少なくても直人は深く考えずにサキと会っていたように見える。
自分になついてくれている盲目の少女に対し、
なつかしさと憐みを超えて楽しませたい素朴な気持ちがひたすら伝わってくる。
娘のような少女と時間を共にすることで自分も楽しみたい“欲望”はあっても、
“よこしまな心”は少しも感じさせない。

そもそもこのサキを前にして“下心”はなかなか湧かない気もする。
無邪気というより、まさに純な佇まいで、
生まれついてではなく盲目に至った経緯が激烈だったゆえか甘えがなく、
まっすぐで怖いほど達観しているように映るからだ。

幼い頃のサキにとって直人は素朴な初恋の男性とも想像できるし、
まだ見えていた頃の直人のイメージが薄れていなかったとも思えるし、
その頃の“初心(うぶ)”な気持ちをサキがそのまま持ち続けているがゆえに凛としたサキ。
もしかしたら人間の汚さなどを知ってしまう多感な時期に見えなくなっていたからこそかもしれないが、
直人に対するサキの想いは、
“心の眼”で深く見ているからこそ静かに強まっていく。

つつましやか見えて積極的で時に自虐的な激情が炸裂するサキの攻めは、
自分自身の救済と解放のためということが控えめでゆっくりした後半の加速度で気づかされる。
直人以上に落ち着いた様子ながら揺れ続けるサキのデリケイトな感情表現に飲み込まれていく。

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計算高さがつきまとう陳腐な“やさしさ”なんてどこにもないし、
キレイゴトを超えた生の力がある。
お互いが敬意をもって真正面から向き合っているから恋を超えた愛が見えてくる。
もっと言えば純愛だ。

“誰かを愛することは、その人に幸福になってもらいたいと願うこと”という
中世イタリアの神学者であるトマス・アクィナスの言葉を思い出す。
しあわせになってほしいと命がけで願う。
だからこそ、ぶちこわしの結末だったら本気で監督に抗議したくなるほど息を呑むラストになった。

映画のタイトルの『ちょき』は、
幼少の頃からサキが呼んでいた直人の愛称“ちょきさん”から引用されたものである。
“ちょきちょき髪を切る人”という幼児ならでは直観発想で付けた名前だが、
“髪ちょきちょき”のシーンが節目に入るこの映画にぴったりだ。


★映画『ちょき』
2016年/カラー/アメリカンビスタ/DCP5.1ch/98分
11/19 (土)からジストシネマ和歌山・イオンシネマ和歌山・ジストシネマ御坊・田辺・南紀で和歌山県先行公開。
12/3(土)から渋谷HUMAX シネマで期間限定レイトショー、他全国順次公開。
http://choki-movie.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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