なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『貌斬り KAOKIRI〜戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より』

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『シャブ極道』(1996年)や『竜二Forever』(2002年)で知られる細野辰興が
製作・プロデュース・脚本・監督を手がけた映画。
舞台で繰り広げられる演劇そのものと上演中はもちろんのことその前後の役者たちを骨まで描き、
美男俳優・長谷川一夫の“顔斬り事件”(1937年)をモチーフに、
“生か死か”の二者択一を迫られる役者たちのギリギリの気合いを豪胆に炙り出した力作である。


“顔斬り事件”の映画化を試みる監督やプロデューサーなどが会議を行なううちに、
その事件の謎を脚本にすべく自分たちで数パターン演じてみようということになっていく舞台劇を、
興行の千秋楽で演じる役者たちの物語。
本番前のピリピリした様子から本番中の緊張感を経て終演後の達成感までを描く。
突如役者が一人現れず
突如役者が離脱し、
実際に使うのは切れない偽物のはずなのに斬れる本物の凶器が舞台に小道具として“流出”するなど、
台本の予定調和をデストロイ!する“ライヴ”ならではの“アクシデント”も盛り込まれる。

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2015年1月に東京・高円寺で行なわれた客入りの舞台「スタニスラフスキー探偵団」を大きくフィーチャーし、
一種の“劇中劇”に留まらず“劇中劇中劇”まで見せる構成で
フィクションとノンフィクションが入り混じったような作りながら、
ストーリーはいたってシンプル。
“筆致”はあくまでもハードボイルド。
目が離せない。

主演の草野康太と山田キヌヲをはじめとして、
とにかく演技を超えた役者たちの気合いに引き込まれていく。
まさにこれぞ役者魂だ。
必死の佇まいは出演者たちのリアルな姿でもあるから、
この上なく肉体と精神に生々しく迫ってくる。

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これはいわゆる映画というフォーマットで人々に提示される作品だが、
お客さんを前にしたライヴな表現の場の舞台が“舞台”のシーンがほとんどだ。
いわゆる撮り直しが利かない一瞬一瞬にケリをつける表現者としての姿を観客にぶつけている。

音楽にたとえると、
一般的な映画やテレビ・ドラマなどがレコーディング作品だとしたら、
舞台の演劇はライヴだ。
テレビ・ドラマでは甘さを感じる俳優でも一発勝負の舞台に立つと見違える演技を披露するケースも多い。
声がでかいバンドマンのヴォーカルでも劇舞台でセリフを言うと声が通らないこともあったりして、
やはり発声方法と気合が役者は大切だとも思わされる。
それぐらい真剣勝負な舞台の“念”が充満している映画である。

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この映画はほぼ全編一発勝負だ。
死ぬか生きるかであり、
自分自身を自分で追い込んでいくことで尋常ならざるエナジーをおのれの中から絞り出そうともする。
役者が生死ギリギリの限界点で肉体と知がまぐわう原始の表現者であることも露わにする。
長谷川一夫のように役者の“命”の貌を斬られる、
もしくは貌を斬って血を見るぐらいの覚悟で役者に臨む。

<役者やめますか? それとも人間やめますか?>
というこの映画の宣伝コピーがあるが、
言い得て妙である。

ミュージシャンと同じく役者は必ずしも“特権階級”ではないが、
“本物”であるためにはかなりの覚悟が必要。
“禁断の果実”を食べたら、
もうふつうの人の生活は送れない、
“カタギ”にはなれない。
もう一般市民には戻れない。
役者になることの敷居が高かった時代は映画などのクオリティも近寄りがたいほど深く高かった。
今でもそういう人たちが少なからず生きていることも示す。

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“やさしすぎる”とも言われる性格が災いして俳優からプロデューサーに転じるも、
“パートナー”の男優に刺激されて“人でなし”と言えるほどの“悪魔の心”を呼び戻され、
まさに“真剣”での“勝負”を挑んで舞台の上で一人の女性が“女優復活”を遂げるシーンがクライマックス。
その時間に流れる内山田洋とクール・ファイブの「恋唄」も、
この“最高の恋愛映画”にふさわしい。


<人は“あなた”という役を降りることはできない。>
この映画のキャッチ・コピーのひとつでもある名言だ。


★映画『貌斬り KAOKIRI〜戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より』
2015年/カラー/16:9/5.1ch,2.0ch/DCP,BD/143分
http://makotoyacoltd.jp/kaokiri/press/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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