なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ミューズ・アカデミー』

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1983年に『ベルタのモチーフ』で長編映画デビューした、
1960年スペイン生まれの奇才ホセ・ルイス・ゲリン監督の新作。
大学教授と取り巻く女性たちが“ミューズ(女神)”を浮かび上がらせる映画だ。

僕が観た限り極端にエキセントリックな手法を使っているわけではないが、
ゲリンは映画の常識を逸脱したユニークな作品で観客をスクリーンの中の世界に引き込む映像作家である。
『工事中』(2000年)や『ゲスト』(2010年)をはじめとして特異なドキュメンタリー作品が多く、
『シルビアのいる街で』(2007年)などのフィクション映画もドキュメタリーのように撮るゲリンならではの、
ノンフィクションとフィクションが入り混じったような作りで映画の可能性をまたまたさりげなく探る問題作だ。

余計なお世話で映画をぶちこわす挿入音楽の類いは無し。
自然音を尊重した作りになっており、
中盤以降にはゲリン特有の研ぎ澄まされた“音響彫刻”の響きも楽しめる。
英語を使ってないこともポイントで、
スペイン語とイタリア語とカタルーニャ語のリズミカルな連発が“南欧音楽”の響きになっている。

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現代の“ミューズ像”を探るべく、
イタリア人の老教授がスペインの大学で開講した“ミューズ・アカデミー”がメイン舞台で、
授業で展開される話と登場人物たちの私生活の珍妙なリンクがクールに描かれる。

「我々は言語を避けられない。人間は言葉の囚人だ。
コミュニケーションも思考も、何より生活の向上も言葉なくしてはできない。
言葉から抜け出すことはできない」
と教授が言うように言葉のウェイトが高い映画だ。

教授の講義はダンテの『神曲』などの文学が素材の中心になっており、
ミューズがテーマゆえか女性が大半の生徒との白熱したやり取りが教室内で行なわれるが、
教授と生徒の二人だけの会話や生徒同士の会話にもそういう知的な内容が多い。
文学に絡めて突っ込んだこういう“愛の話”が全部すんなり一発で理解できる人はそうそういないだろう。
特に序盤はそういうシーンが多くて僕もときおり面食らい困惑もしたが、
言葉数が多くて速いトークの話のすべてに付いていく必要ないし、
適当に“わかった気”になりながら観ていくうちに気がつけば“ゲリン・マジック”に引きずりこまれている。
何しろ前半と中盤とで後半の空気感が違い、
時間が経過するにつれてスクリーンから漂う“映画の匂い”がどんどん人間臭くなっていくのだ。

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文学になくてはならない言葉は“愛の現場”でも大切と痛感させられる映画で、
だからこそあえて嫌というほど他のゲリン作品の何倍も言葉の洪水で迫る。

ただ文学的な分析をすることも可能な映画だろうが、
昔ダンテの『神曲』をちょろりと読んだ程度の僕ではそうもいかない。
「文学は女性を神にしてしまった」とか“なるほど・・・”と思う話もあったりはする。
「書かれた言葉の力は計り知れない」「文学なしの恋はありえない」と説きつつ、
「(文学より)彼との経験のほうが鮮烈だった。そこには小説のすべての要素があった」と言う
文学よりリアルな女生徒の現実の話も妙に納得できたりもする。
言ってみれば高尚と通俗のギャップというか高尚と通俗は表と裏というか、
ふだん高尚なトークをしていても“やることやってる”みたいに下世話な楽しみ方もできる映画だ。

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今回も監督・脚本のみならず撮影まで手掛けるゲリンならではの独特のカメラ使いも健在だ。
会話のウェイトも高い映画だから顔に狙いを定めているが、
大学構内での撮影はオーソドックスながらトークをしてない生徒たちの顔もしっかり映し、
教室内の雰囲気を真空パックしている。

ゲリンお得意のストーカー的な“盗撮”映像も効果的。
『文春』や『FRIDAY』顔負けでカメラが教授のプライベートを追っかけているかのように、
妻と話している自宅や生徒と一対一で話している自動車内などをガラス越しに撮り、
覗き趣味っぽい映像が大切な会話を盗み聞きしている気持ちになって生々しいのだ。
一方で大学から離れて羊飼いの農場や林の中などの野外での撮影は、
鮮やかな色合いが光って彫りの深いゲリンならではの映像である。

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“現代のミューズとは?”をテーマの一つみたいに置きつつも、
大半の映画と同じく『ミューズ・アカデミー』も愛と人間を炙り出している。
“取り巻き”や“追っかけ”もいるという教授と女生徒の“関係”や
教授とその妻の冷めた夫婦関係の静かなる緊張感が肝で、
軋轢と嫉妬が人間関係をエキサイティングにするのはインテリでも学がない人間でも一緒ってことだ。
もちろん想像力を大切にした映画だから性愛の類いはモザイクではなく“文学色”でぼかされている。

講義は真面目だし教授と生徒とのやり取りも真剣ながら、
真面目であれば真面目であるほど真剣であれば真剣であるほど、
ゲリン一流の“目くらまし”が効いてくる。
いわゆるストーリーを追う映画とは一線を画すが、
場面があっちこっちに飛んでいるようでゆるやかな流れができているのもゲリンならでは。
日にちや時間で区切るテロップが出て場面が変わる手法も追跡レポートみたいで面白い。

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ちょっとした会話にもゲリンのさりげないユーモア・センスが滲み出ているし、
映画が進むにつれて下世話になっていく展開も可笑しい。
ミューズと普通の女性の違いなど、
ウケを狙っているわけではなくても真面目な顔して説く教授には失笑を禁じ得ない話も多い。
いい味を出している奥さんが「愛って何?」と書斎で尋ねた時の教授の“迷答”には吹き出してしまった。
聡明な女生徒たちや妻に攻め寄られてダジタジで、
文学的な理屈をこねて調子のいい言い訳で防戦する教授が憎めない。
“嬲”という漢字の“男”“女”を入れ替えた調子で“女と男と女”が描かれ、
だんだん女性たちから教授が嬲られていくようにも見えてくる。

こういう映画にふさわしくない“ファック・ユー!”アティテュードであえて書かせていただくと、
“何言ってんだかわかんねーけどこの教授もただの女好きのスノッブじゃねーの?”
なんて下卑た言葉の一つでも捨て台詞に吐きたくなる面白さ。
観終わってみれば、
映画の中でとある女性が放った「報われぬ愛も笑い飛ばせる」という言葉が妙にしっくりくる。
映画の締めを飾る教授の講義も白々しくて素敵だ。


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なお同時期に並行して“ミューズとゲリン”と題されたゲリン監督特集も開催される。
1983~2015年の11作品が上映され、冒頭に挙げた4作品が特にオススメだ。


★『ミューズ・アカデミー』
2015年/スペイン/92分/デジタル/スペイン語、イタリア語、カタルーニャ語
©P.C. GUERIN & ORFEO FILMS

★『ミューズとゲリン』ホセ・ルイス・ゲリン監督特集上映

以上、 2017年1月7日~1月29日まで東京恵比寿・東京都写真美術館ホールにて公開。
以降、各地で公開。
配給:コピアポア・フィルム
http://mermaidfilms.co.jp/muse/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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