なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

DVD『我が闘争 若き日のアドルフ・ヒトラー』

『我が闘争 若き日のアドルフ・ヒトラー』


画家を目指していた二十代頭のヒトラーを描いた当時日本未公開の2009年の劇映画。
注目を集めやすい“不幸”や“悲劇”を紹介するだけのドキュメンタリーと同様に、
“ネタ”に頼っているだけでイマイチのヒトラー/ナチス関連映画も多い中、
これは映画として見応え十分の佳作だ。

ヒッチコック監督作の『私は告白する』の脚本を手掛けたジョージ・タボリの戯曲が原作で、
もちろん100%事実とは言えないだろうが、
ヒトラーの一時期を丁寧に描きこんでいて説得力がある。


画家になる夢を追い、
美術アカデミー入試のため1910年にオーストリアのウィーンへとやってきた青年アドルフ・ヒトラー。
ホームレスのための安い下宿所に住むことになったヒトラーは、
ユダヤ人商人シュロモと共同生活を送ることになる。
豊富な知識を持っていたシュロモと知識に貪欲だったヒトラーは意気投合し、
多くの時間を2人で過ごしていたが、
美術アカデミーの試験に落ちたヒトラーは橋の上から自殺を図る。
シュロモの助けもあり自殺は未遂に終わったが、次第にヒトラーは政治に傾倒していくようになっていく。


家庭環境の話も交えながら“我が闘争”へと進むに至るヒトラーの思想と人格形成の源を炙り出す。

『コーヒーをめぐる冒険』や『ピエロがお前を嘲笑う』で知られるトム・シリングも好演で、
眼光鋭く痩せこけたヴィジュアルで笑顔を見せることなく当時から冷酷オーラを発し、
神経質そうな若き日のヒトラーをリアルに演じている。
繊細さも気性の激しさエクストリームで権威に従わず、
傲慢で強気で潔癖で自信家で完全主義者。
シュロモは“無名時代”から危険人物と見なされているそんなヒトラーを擁護してきているが、
そんな爺さんと小悪魔な女の子との三角関係もこの映画の肝。
ヒトラーにふさわしく合理的でラフな展開ながら感情の機微が細やかに表われているところも大切だ。

若い人間がヒトラーと女の子以外ほとんど出てこない映画ながら登場人物は多いが、
シュロモ以外の他の老人をはじめとする他の人物たちも丁寧に描きこまれているのもポイント。
彼らもヒトラーをしっかりと浮き彫りにしている。

場面転換が多くてテンポがいいからぐいぐい引き込まれている。
編集のセンスがいいから目を離せないのだ。
映画もリズムが大切だとあらためて思わされ、
けっこう躍動的なシーンが少なくないが、
いわゆる刺激的な映像はあまりなくて落ち着いたトーンに覆われている。
太陽がまったく当たらず陰鬱な色合い映像が閉塞の空気を醸し出している。

最近だと『帰ってきたヒトラー』も手掛けたエニス・ロトホフが担当している音楽もヨーロッパ臭くて的確。
時にユーモラスで欧州民謡やクラシックな音楽もふんだんに使うが、
うるさくなく感じさせずにシーンごとの感情をさりげなく浮き彫りにしていく。

ヒトラーが一種のヴェジタリアンということをほのめかす“とある生々しいシーン”を
あえて随所に挿入しているのも興味深い。
ヒトラーが“flesh嫌悪”にも見える。
そういった小ネタに注意して観るとまた深く楽しめる映画だ。


★『我が闘争 若き日のアドルフ・ヒトラー』(トランスフォーマー TMSS-356)DVD
2009年ドイツ、オーストリア、スイス/ 伝記、ドラマ、スリラー /原題:Mein Kampf
【111分 / カラー / 片面1層 / 画面:16x9ビスタ / 音声1:ドイツ語ステレオ 字幕1:日本語字幕】
© 2009 Schiwago Film / Dor Film / Hugofilm


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コメント

ナチス題材の作品は個人的に好きです

古今東西の戦争映画は軒並チェックしています。

特にナチス題材の作品は個人的に興味深く,ドイツ映画ならば,確実にハズレは無いかと思います。
ヒトラーの青年期を描いた作品は特に貴重(と言うよりこの作品が初めて!)なので,要チェックと思い,迷わず借りました。

Re: ナチス題材の作品は個人的に好きです

クリタケさん、書き込みありがとうございます。
人間の本質が表われるというのもあって僕も戦争ものはどんな映画も気になる性質で、特にナチス関係の映画はどうしても惹かれます。ヒトラー云々を小学生時代に知って政治や人間への関心の原点でもあるので。たしかに権力を握る前のヒトラーの映画をもっと観てみたいですね。
意外と映画マニア/ファンにあまり注目されていない感じがしますが、全般的にドイツ映画の硬い質感が好きです。ロックもそんな質感のものが多いですね。

アマゾンレンタルで観ました。

この作品はヒトラー映画の中でも、イケメン俳優がヒトラーを演じている所と菜食主義で酒、煙草をやらないはずのヒトラーが美味しそうにビールを飲む場面があるという所で珍作かなと思いました。
これからはヒトラー映画の行川さんの解説の方も楽しみにしています。

Re: アマゾンレンタルで観ました。

余分三兄弟+さん、コメントありがとうございます。
“珍作”という言葉が言い得て妙な映画ですね。ユダヤ人殲滅/west world征服を志す直前のヒトラーを、直接的な政治性を極力排す作りで生活態度などを炙り出していて、ユニークな作品です。
劇映画でもドキュメンタリー映画でも、あらためて編集の大切さを思います。監督のエゴで無駄なシーンを入れて焦点がぼやけた映画が多いですね。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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