なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『バンコクナイツ』

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話題作『サウダーヂ』(2011年)に続く空族(kuzoku)の新作。
スタミナ満点ホルモンたんまりで、
ダシの効いた雑食人間どものまばゆい“臭気”をスクリーン越しに鼻から吸ってハイになり、
この映画のネタだけで一晩も二晩も飲み明かせ語れる濃密な大作である。
タイの首都バンコクをメイン舞台にその隣国のラオスでの映像も絡め、
政治的な要素も多少ナチュラルに滲ませつつ感情表現がデリケイトで、
バンコク歓楽街の店のナンバーワンのタイ女性と自衛隊出身の日本男性の“ラヴ・ストーリー”を中心に描く。

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バンコク歓楽街の日本人専門店でNO.1の女性ラックは
タイ東北部の地方イサーンからバンコクへ出稼ぎに出て5年が経った。
ラックが生活を支える大家族はタイ東北部でラオスと国境沿いのノンカーイ県で暮らしているが、
ラックは今は亡きアメリカ軍人だった2番目の父の息子の弟とは特に仲がいい反面、
実母とは確執が絶えない。
ある晩ラックは元自衛隊員の元彼のオザワと5年ぶりに再会する。

以上が物語の序盤だが、
場面が一種のモザイク状に絡まって“地続き”でふくらんでいき、
やがて研ぎ澄まされ収斂していくストーリーの自然な流れがまず見事である。
いくつものシーンがまぐわうことで次々と“新しい命”が産まれていく映画だ。
映画の終盤も観る人の想像の力を信頼し、
一人一人のイマジネーションで無数のドラマを展開させる締めになっている。
いつも言うように余計なお世話で説明しすぎの映画は人間の脳ミソを殺す。
スマホに代表されるように便利にしすぎて人間の肝を骨抜きにする“システム”と同じだ。
“シーンとシーンの行間”を感じながら楽しみたい。

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“楽園”がテーマの一つだが、
白黒つけることせずに政治/社会的な切り口もさりげなく溶かし込まれている。

タクシン派~反タクシン派~軍のクーデターや、
今も不敬罪が維持されている立憲君主制の中心で昨秋他界した国民のカリスマ・プミポン国王といった、
ここ数年のタイの政治状況は反映されてない。
会話から察するに70年代が舞台と思われるからだ
(余談ながら当時存在し得ないヒップホップ勢[田我流も出演]の出現も
一種の“タイムワープ”みたいなノリで気にならない)。

かたや様々なビジネスで進出しつつバンコクなどの国外アジアで“爆買い”する日本男性批評や、
ベトナム戦争~インドシナ戦争を絡めた米国欧州批評もさりげなく織り込んでいる。
“軍か!?出家か!?”を進路選択する立場の男性もいる彼の地の生活も映し出す。
とある主要人物がさりげなく吐いた“No Money, No Life”の言葉も深く響いてくる。

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グレイトな映画のすべてがそうであるように脚本以外も酩酊するほど魅惑的だ。
すべてに息づくたくましい生命力にぐいぐいぐいぐい引き込まれて持っていかれる。

現地の人たちを多数起用したというポーズ無しの生身の演技力に舌を巻かずにはいられない。
日本の人も含めてオフィシャル・サイトにさえ俳優の名前が載ってないのは、
一般的に知られている役者がほとんどいないからなのか。
でも、こなれてないことを強みにした懸命の本気で演技で勝負してすべての演者が自分の“地”で臨み、
演出に見えるほど“思想的な編集”が行き届いたドキュメンタリー映画の百万倍のリアリティで迫る。

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プリミティヴな映像力に痺れっぱなしだ。
シーンによって違う場のよどみや透明感や酩酊感までもしっかりと映像にし、
場に立ち込めた匂いや空気感も生のままスクリーンから漂ってくる。
オリエンタルな歓楽街シーンは過剰かつアナログなカラフル感のヴィヴィッドな色調で、
クサでキメているシーンはまったりダウナーな色合で、
手つかずで空気が美味そうな田舎のシーンは目が覚める鮮やかな色彩で映し出す。
モノクロでは時々そういうニュアンスの映像にも出会うが、
ここまで彫りの深いカラー映像もなかなかない。
猥雑と純が背中合わせの紙一重であることも表すかのように、
歓楽街と田舎を対比した作りも各々の本質を剥き出しにした淡く鮮烈なブレンドの色合に目が奪われる。

様々な視点で物事を捉えていることも反映したような小技を利かせたアングルや、
ときおり“シンボリックな映像”も入れる手法も観る人の意識をふくらませる。
店の看板や小物、車両、Tシャツも含めてディテールにこだわっているというか、
映像の枠内に映っているすべてが自己主張しているように見える。
映っている小物一つとっても無駄がなかった昔の名作映画群にも通じるセンスだ。

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生々しく粗削りの編集力も素ん晴らしい。
内容が詰まりまくった182分の特大ヴォリュームにもかかわらず無駄がない。
ゆるい時間で進みながらもストイックなほど引き締まっているから上映中まったく目が離せないのだ
ユーモアたんまりだが、
本質をごまかして薄めるように最近の日本映画でよく挿入される中途半端ゆえに幼稚なオフザケがない。
この映画のシチュエーションを思えば頻発しても不思議はない“エロ”に頼らず、
わざとらしいセックス・シーンで興ざめさせる映画とは別次元で人間と人間のまぐわいを描き切っている。
暴力にも頼らない。
生き物すべてが逃れられないがゆえに様々な表現にとって死は避けられないテーマになり得るが、
人間の“死”がこの映画にはほとんどない。
すべてそのへんのことを“売り”にしている映画と一線を画すことを意識しているかのようでもある。

とにかくエキセントリックな仕掛けや見せ方を一切してない。
すべてが素のまま。
“潔癖症”なんか知ったこっちゃない体力と精神力に裏打ちされた天然素材を活かし切っている。
誤解を恐れずに言えばこれは大人の映画である。
甘えがないのだ。

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場面転換が多いことを逆手に取ったかのように、
まったりしたムードにもかかわらずテンポがいいところも特筆したい。
いつも書くように映画そのものに命のリズムが宿ってこそ傑作になり得る。
人間のビートが映画の中で鳴っていないとダメなのだ。

脚本や映像だけでなくトータルな表現としてグレイトな映画だけに音声も言うこと無しである。
聞こえてくる音楽も映画全体のテンポに一役買っているが、
感情の押しつけみたいな使い方とは対極でおくゆかしく映像と寄り添っている。
録音/音楽担当は山崎巌とYOUNG-G。
YOUNG-Gは『サウダーヂ』絡みでstillichimiyaのトラック担当として知られている人だ。
山崎は初期のGHOST(日本)やOVERHANG PARTY、OUT TO LUNCHでドラムを叩いてきたが、
その頃から録音技師としても活動していて『国道20号線』(2007年)から空族作品に関わり続け、
彼が今やっているバンドのSuri Yamuhi And The Babylon Bandの曲も今回提供している。
民謡やスポークンワードをはじめとして挿入される音楽はもちろんのこと、
街角の音楽、ラジオの音声、雑踏の音声なども場の気温を高めている。

日本語ともに多用されているタイ語の響きも不思議な情緒へと誘うが、
方言や人物のキャラを反映させたのかのように、
登場人物によってはセリフが訛りを含めた感じの日本語字幕になっているのもお見事だ。
だからこそ一層、生活と人間が感じられる“日本版”映画に仕上がっている。

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生活の臭気と人間の香気がリアルに現像され、
ほろ苦く甘美な味わいが観ているうちに心のなかで広がっていく映画だ。
観終わったあと、ほのかにしあわせな気持ちになる。


あ、そうそう、
延々続く膨大な固有名詞に映画の興奮を冷まされがちなエンディング・テロップ部分も、
目が離せない作りになっている。
ぬかり無し。


★映画『バンコクナイツ』
2016年/日本・フランス・タイ・ラオス/182分/DCP/配給:空族
2月25日(土)からテアトル新宿ほか全国順次公開。
©Bangkok Nites Partners 2016
http://www.bangkok-nites.asia/


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Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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