なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン』

『ミス・サイゴン 25th』メインビジュアル(横)


ミュージカル『ミス・サイゴン』25周年記念公演の“映画化”作品。

『ミス・サイゴン』はもともと1989年9月20日初演の舞台だ。
今回の映画はその上演25周年を記念して
2014年9月にロンドンで1回のみ敢行されたアップデート・ヴァージョンのステージを基に、
映画のために後日観客を入れずに行なわれた追加撮影分を合わせて仕上げられている。
2回の休憩タイムをはさむ“3部構成”で3時間を越える大作だが、
いっときたりとも目が離せないダイナミック&デリケイトな快作だ。


ベトナム戦争末期のサイゴンのナイトクラブで働く少女とアメリカ大使館軍属の運転手の悲恋が描かれる。
ロマンスや親子関係/夫婦関係といった人間のつながりをテーマにしつつ、
ベトナム戦争で負ったアメリカンの精神的な後遺症(いわゆるPTSD)も含む
政治的な側面もさりげなく絡められている。
わかりやすいストーリー展開で結末はショッキングだが、
ポジティヴなエナジーがすべてにみなぎる作品だ。

Engineer_American_Dream_Cropped_convert_20170214104604.jpg

本作のエナジーの源は役者たちの猛烈な熱演である。
主演の二人は言わずもがな、
数えきれないほど多数のすべての出演者がこの瞬間に賭ける圧倒的な熱量で演じている。
やはり撮り直しができる一般的な映画とは違う舞台演劇ならではのライヴ感が凄まじい。

ミュージカルだからセリフのほとんどは“歌”になっていてテンポが抜群に良く、
鍛えられた発声に舌を巻くと同時に表現力に痺れる。
大声だけで終わらず感情の機微が表われた声を自然体でエモーショナルに震わせ、
言葉数は多いがシンプルな言葉ばかりで説明的でなくストレートでありながら機知とユーモアに富む。
もちろん“セリフ/歌詞”は字幕付で作詞家/翻訳家として知られる岩谷時子担当の日本語ヴァージョンだ。
役者たちの動きも大きいから、
パンチの効いた声と身振り手振りでおのれを解き放つ“全身表現”のパワーを思い知らされるばかりである。

ベトナムのサイゴンがメインでタイのバンコクがサブのロケーションゆえに
ナイトクラブ関係の女性から軍の兵士までアジア系の人が多数出演しており、
黒人も鍵を握る人物の一人として好演し、
人種が混じっているところも特筆したい。

Helicopter_with_Alistair_Brammer_as_Chris_convert_20170214104758.jpg

ミュージカルだから音楽もチャーミングだ。
音はロック・ミュージックと違うかもしれないが、
ドラマチックな曲自体は、
70年代前半のアリス・クーパーデイヴィッド・ボウイからQUEENやMUSEまでも思い浮かぶ。

追加撮影の映像を組み込んだ効果も大きいのだろうが、
圧倒的な映像力にも打ちのめされる。
いきなりナイトクラブの豪華絢爛なムードに引き込まれ、
かなりエロチックな絡みがステージのあちこちで繰り広げられる様はドキドキ圧巻である。
もちろんラインダンスなどの“ショータイム”も見どころで、
軍服含めて衣装も目を引く。
“表と裏”といった感じで、
ベトナム戦争の終結と言える“サイゴン陥落”の混乱の中でヘリコプターがアメリカ兵を救出するシーンなど、
映像技術を駆使した作りに息を呑む。

Eva_Noblezada_as_Kim_convert_20170214104643.jpg

舞台本編の“第一部”と“第二部”はズームアップ等を多用してステージ上のみを映し、
ポイントを押さえたカメラと編集で一般の劇映画のように俳優のみの映像で魅せてくれるが、
“第三部”の<25周年記念スペシャル・フィナーレ>は音楽のライヴ映像に近い。
いわばコンサートのアンコールのような感じで、
いわゆる芝居のシーンはなく歌と踊りとトークが構成されるステージに加え、
盛り上がっている観客の姿も多少盛り込まれている。

89年初演時のオリジナル・キャストの面々やプロデューサーたちも集い、
『ミス・サイゴン』の予備知識があまりない僕でさえ観ていてワクワクして胸に迫るものがあった。
引きつがれることの大切さや、
みんなで一致団結して力を合わせて創作して物事を成し遂げることの良さも考えさせられて、
個人的にもたくさんインスパイアされた。


オススメ。


★映画『ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン』
<出演>ジョン・ジョン・ブリオネス、エバ・ノブルザダ、アリスター・ブラマー、タムシン・キャロル、ヒュー・メイナード、ホン・グァンホ、レイシェル・アン・ゴー、ほか多数。
<25周年記念スペシャル・フィナーレ>
ゲスト出演:ジョナサン・プライス、レア・サロンガ、サイモン・ボウマン
製作:キャメロン・マッキントッシュ、脚本:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク、
歌詞:アラン・ブーブリル/リチャード・モルトビー・ジュニア、追加歌詞:マイケル・マーラー
音楽:クロード=ミッシェル・シェーンベルク、監督:ブレット・サリヴァン
© 2016 CML
http://miss-saigon-movie-25.jp/
2017年3月10日(金)より、TOHOシネマズ 日劇をはじめ各地で順次ロードショー。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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