なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『逆行』

逆行_poster


ドナルド・サザーランドとフランシーヌ・ラセットの息子のロッシフ・サザーランドが主演を務め、
東南アジアのラオスをメイン舞台にした初の北米産の映画になる2015年の作品。
異国の地で“事件に巻き込まれた男”が逃走する話だが、
カー・チェイスや血が炸裂するアクションものとは完全に一線を画す目が離せない佳作である。

逆行_sub2

ラオス北部でNGOの医療活動に従事して救える命はあきらめずに救おうと試みるアメリカ人のジョンは、
激務で疲れきった心身を癒すためにラオス南部のリゾート地を訪れる。
そこで“犯罪現場”に出くわして人助けをするも、
やりすぎた“正当防衛”と“誤解”で懸賞金付の指名手配をされてしまう。
無政府状態ではないとはいえ独裁政権下だけにラオスの司法はアメリカと違うし、
捕まったとしてもしっかりした裁判が行なわれるのか素朴な不安も抱いたのか、
包囲網の中であるにもかかわらずジョンは逃げる。
おのれの脚、自転車、舟、盗難車、バス、友達が運転する車などを使って逃げる、
母国への“帰還”を目指して。


とてもわかりやすい物語だ。
シンプルなストーリーをいかにふくらませるかに注いだ情熱が加速している。
表現に対するそういう取り組みは、
シンプルな構成の曲をいかにふくらませるかという音楽ジャンルのロックンロールにも似ている。

逆行_main

二転三転どころか四転も五転もしていくつもの山あり谷あり川ありの展開をする脚本がまず見事だ。
場面の流れに無理がないし関係する国の情勢などを考慮しながらリアリティを高めている。

ドイツの実験的な音楽プロジェクトTROUMが大胆に挿入するアンビエント/ドローン・チューンも、
シーンにふさわしい磁場を作り上げている。

本作が初の長編映画監督作になるジェイミー・M・ダグは、
カナダのBROKEN SOCIAL SCENEやBEDOUIN SOUNDCLASH、
アメリカのBLACK REBEL MOTORCYCLE CLUBなどの
ミュージック・ヴィデオを撮ってきた映像作家である。
そういう経験を活かしてリズミカルな音楽が持ち得るダイナミズムそのものの映画に仕上がっており、
まったりと佇みつつも映画全体がエモーショナルに疾走もしている。

逆行_sub1

映画を音楽にたとえて曲が脚本だとしたら音に当たる映像力も素晴らしい。
基本的に映像は鮮明ながらクリアーすぎずクリーンすぎない映像は、
土臭く、泥臭く、濁水臭いからこそ、人間の匂いがとろけるように鼻を突く。

監督によれば撮影中には「独裁主義政府の妨害に直面」したとのことだが、
そういったトラブルも“味方”につけて醸し出された緊張感の中で、
ラオスやタイの自然の風景や生活の場の情景をしっかり映し込んで空気感が漂っているところもポイント。
ほとんどが地方都市や田舎での撮影と思われ、
木や水のある自然はもちろんのこと自動車や舟などの一つ一つが見どころになっていて、
なんとも言えないアジアの情趣に包まれ続ける。
そういうのんびりしたシーンと緊迫シーンの落差でも持っていく映画だ。

クローズアップや陰影を有効に使った撮影も特筆すべきで、
いい意味での粗削りの作りゆえに人物描写が実に生々しい。
適度なブレもスピード感を高めることに一役買っている。

逆行_sub3

主人公のジョン以外に目立つ役回りの人はほとんど出てこない映画だが、
人と人とのつながりも見どころで、
ハードな状況下でのリアルな友情も見て取れる。
とにかく味のある演技力でも引き込んでいくのだ。

政治家の息子である“送り狼”オーストラリア人観光客、
ラオスのバーの若い女性客、
ラオスのバーテンダー、
ラオスの宿の“女将”、
ラオスの警官、
ラオスとタイに在住のアメリカ大使館員、
ラオスのヤクザみたいな男たち、
顔なじみのラオス人の運転手、
タイの“国境警備隊員”、
などなどの人物がいくつもの節目で登場。
そういった脇役やチョイ役の人たちのさりげないキャラが場面ごとにドラマを盛り立てている。

逆行_sub4

主人公のジョンが熱演であることは言うまでもない。
ストレートな正義感に貫かれた人物だが、
押しつけがましい熱血漢とは一味違う臆病な面も全身から噴き出している。
“聖人”ではないからこその人間味が滲み出ている。
必死だから逃走に際して“犯罪”に手を着けざるを得なくもなるが、
そんな中で心の奥底から湧き上がってくる恐怖や焦燥や葛藤といった感情をしっかり描き込んでいる。
そういった一種のネガティヴな思いを逆にエナジーとして燃え上がらせ、
まさに“Run for my life”し続けていたのだ。

逆行_sub5

昨年終盤に大ヒットしたテレビ・ドラマのタイトルの『逃げるは恥だが役に立つ』は、
ハンガリーのことわざの引用だという。
確かに現実はそのフレーズが意味するとおりだし、
人間に限らず時に生き物は逃げなければ生き延びられない。
そのためにはなんだってやることもこの映画は示してもいる。

しかし、だ。

あと一歩で“解放”されるというのに見て見ぬふりをできない男がいる。
“義”のためであり、
おのれに“落とし前”をつけるために男は“逆行”する。
太宰治の『走れメロス』も思い出すこの“逆行”に静かなる感動を禁じ得ない。

正直者は馬鹿をみるのか?
結論を決めつけないラストも心地良い余韻を残す。


★映画『逆行』
2015年/カナダ・ラオス/英語・フランス語・ラオ語・タイ語/カラー/DCP/シネスコ/88分
監督:ジェイミー・M・ダグ
出演:ロッシフ・サザーランド(『ハイエナ・ロード』)、
ヴィタヤ・パンスリンガム(『オンリー・ゴッド』)、サラ・ボッツフォード他
3月11日(土)、ユーロスペース他にて全国順次公開。
配給:エスパース・サロウ
レイティング:G ©2015 APOCALYPSE LAOS PRODUCTIONS LTD.
公式HP:gyakko.espace-sarou.com


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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