なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『パージ:大統領令』

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“1年に一晩12時間だけ殺人を含むすべての犯罪が合法化される”という法律の是非を問う、
米国大統領選の真っ只中のカオスを描いた2016年のアメリカ映画。
『パージ』『パージ:アナーキー』に続く“パージ”シリーズの第三弾である。
ロックンロールを産んだ地だけに良くも悪くももともと馬鹿げた気風を持つ国だが、
荒唐無稽ながら銃社会で何が起こっても不思議はない今の米国ならあながち誇大妄想とは思えぬ設定だ。
スリラー/ホラー・テイストに彩られたテンポのいいエンタテインメント作品ながら、
リアリスティックに仕上げられていて最後まで目が離せない。
デイヴィッド・ボウイの「I'm Afraid Of Americans」などの音楽も場を盛り立てる。


オーエンズ牧師率いる極右政権NFFA(New Founding Fathers of America)が支配するアメリカ。
政府は犯罪抑制の最終手段として、
“パージ(purge[粛清])”こそがアメリカを偉大にしていると容認していた。
だが“パージ”が貧困層や弱者を排除しようとしていると訴える無所属のローン上院議員らの台頭により、
賛成派と反対派との間で国内は分断されてこの映画の舞台のワシントンDCでも加熱。
選挙戦でオーエンズ牧師が苦戦を強いられている大統領選の真っ只中で
警察も病院も機能しない“パージ”の12時間が幕を開け、
ローン上院議員がNFFAに狙われる。

以上がストーリーの序盤の大筋である。

メイン

まず映画館のスクリーンで見る価値ありありのダイナミックな映像に引き込まれる。
アメリカン映画ならではの派手なヤり合いが堪能できるし、
血も大量に流れるからホラー映画としても楽しめる。
ただ会話の端々にはクスッと笑えるユーモアもまぶされているが、
すべてにおいて中途半端なジョークに逃げることはない。

この映画がハロウィンの大人版みたいなコスプレでもって“パージ”しているところに、
お祭り騒ぎで人殺しをすることに対する皮肉を感じる。
お菓子のチョコバーの万引きを咎められた女子高生が店主にリベンジするレベルのものとか、
ほとんど単なる腹いせレベルで“生贄”をヤることも多く、
イージーな殺人事件の多発を表しているようにも見える“パージ”だ。
戦争などだけでなく一般的に“死”を軽く扱う風潮へのグロテスクな警告にも映る。
だから殺しのシーンも真剣で、
『バイオレンスジャック』や『北斗の拳』を彷彿とさせる漫画ちっくなシチュエーションを
シリアスな表現力で強靭なものにしている。
こういうことをリアルな事象として捉えて描いた映像と脚本だからリアルに響いてくる。

夫婦間のもつれ等のワケありの“パージ”も行なわれるが、
いわば“ガス抜き”でストレス発散の単なる弱い者いじめが多い。
“パージ”は浄化であり社会の役に立たない“ゴミ”の大掃除が目的ということになっている。
なんでもかんでも“クリーン”を良しとして“汚れ”を許さない妙な潔癖症の最近の日本も思い浮かぶ。

サブ1

本物の米国大統領選真っ只中に制作された映画ならではの生々しく生臭いエグさに引き込まれる。
ラフな作りのようで米国の様々な”要素“を緻密に引っかけて示唆に富むところがポイントだ。

ローン上院議員とオーエンズ牧師がメインの登場人物と言えるが、
大統領候補ながら一種の黒幕みたいな存在になっているオーエンズ牧師はそれほど表に出てこない。
暗殺のターゲットになったローン上院議員はもちろんこと、
彼女を“守る”人たちが映画にヒューマンな肉付けをしている。
ローン上院議員のボディガードを仕事で担っている男もいるが、
全員が“パージ反対”とはいえ偶然の出会いで彼女をガードすることになった人たちだ。
その面々が、
犯罪歴を持ちながら“アメリカン・ドリーム”よろしくとばかりにコツコツ努力し“社会の底辺”で更生し、
米国の良き部分のDIY精神で自分の生活/存在基盤を築いた者ばかりというのも特筆したい。

脚本が書かれたのが2014年ということに驚かされる。
2年後を予見していたみたいなカオスで、
撮影当時は候補者の一人だったトランプ大統領の誕生を意識したかのようなディテールなのだ。

トランプを支持したのはいわゆる“ラスト・ベルト”をはじめとする貧困層が目立つらしいが、
この映画の“パージ”がホームレスなどの最極貧層を標的にしている点も興味深い。
“反パージ”の面々が黒人中心ということと、
“反パージ”を殲滅せんとする白人至上主義の傭兵の存在に象徴されるように、
人種問題を反映しているようにも思える。
ヒスパニックの問題は昔からとはいえメキシコ移民の男も主要登場人物にしているのも驚きだ。
監督らがヒラリー・クリントンを支持していたかどうかは関係なく、
“パージ”反対を訴えるこの大統領選の“対抗馬”のローン議員が女性という設定も、
トランプやそのブレイン達の女性蔑視への異議を意識していると解釈できてしまうほどだ。
大統領選の有力候補のオーエンズ牧師が仕切る“処刑”が教会で行なわれ、
それがまたイスラム国を思わせるプリミティヴな手法なのも宗教問題への強烈な批評である。
DEAD KENNEDYS(『In God We Trust, Inc.』収録の「Moral Majority」参照)やMDCなどの、
米国の政治的なパンク・バンドが歌ってきたモラル・マジョリティの問題もイメージする。

サブ2

“反パージ”の人間も一枚岩ではなく結束し得ないところもリアリティがある。
ギャングが一種の“義賊”になって鍵を握り、
“正邪”が入り乱れていることも本作の“隠れメッセージ”にも思える。
“クリーン”を唱える絶対的な正義こそ恐ろしいのは“パージ派”を見ればわかろうってものだ。

話し合いを試みた狂信者が殺されたからこそ生き延びられたような人もいる。
殺さなければ殺される。
それがUSA!と言ってしまえばそれまでだが、
理想を現実のものにするためにナイーヴな楽観性はお呼びじゃないのが冷厳な現実。
だから終盤も“大団円”で収まらず、
混乱が続くことを示すエンディングも現在進行形の世界と共振している。

一見の価値あり。


★映画『パージ:大統領令』
2016年/アメリカ/109分/スコープサイズ/ドルビーデジタル5,1ch/R15+
4/14(金)からTOHOシネマズ 日劇他にて公開。
製作:ジェイソン・ブラム(『パラノーマル・アクティビティ』『インシディアス』)
×マイケル・ベイ(『トランスフォーマー』)
監督・脚本:ジェームズ・デモナコ(『パージ』『パージ:アナーキー』)
主演:フランク・グリロ(『パージ:アナーキー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』)他。
ユニバーサル映画  配給:パルコ  
製作:プラチナム・デューンズ、ブラムハウス、マン・イン・ア・ツリー・プロダクション製作
(C) 2016 Universal Studios.
http://purge-movie.com/


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コメント

konnichiwa

パージは#2が大好きなので新作も楽しみにしてます。
#2の最後ですごく重要な役割だった「あの人」は今回も出ていますか?
ネタバレなのであえて書きませんが・・・

Re: konnichiwa

病んドルmikiさん、書き込みありがとうございます。
『パージ』シリーズのことを参考までに書きましたが、前2作は観ていません。スイマセン。でもたぶん、前2作を観ている方はこの映画をまた別の角度からも楽しめるとも思います。ドタバタしているようで深い映画です。

映画と関係無いかもしれませんが

2月頃、こちらでバンド名が挙げられているMDCがアジアツアーで日本にも来日していたので観にいって来ました。ライブは素晴らしく特にチキンダンスを間近で観られた事には感動しました。

Re: 映画と関係無いかもしれませんが

余分三兄弟+さん、書き込みありがとうございます。
MDCの来日は知っていましたが、さぼってしまいました。チキンダンスということは「Chicken Squawk」で披露したんですかね。デイヴ・ディクターも健在だったようで何よりです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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