なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『アリ地獄のような街』

アリ地獄のような街1


これはノンフィクションではない。
だが“フィクション”でもない。

インドに囲まれた国のバングラデシュの首都ダッカを舞台にした映画である。


ぼくがダッカという都市を知ったのは、
日本赤軍が77年に引き起こした“ダッカ日航機ハイジャック事件”がきっかけだ。
バングラデシュというと30~40年前から水害の国というイメージをもっていて、
アジアの中で最も貧困の子供たちがたくさんというイメージが強い。
人口密度は世界一らしいが、
他の国ではほとんど使われないベンカル語が公用語ということは関係ないにしても、
目立つ国ではない。
隅々まで目を通す新聞の2ページの国際面から読み取れる限りで、
センセーショナルな政変やポリティカルな暴力的事件のニュースがあまり入ってこないからでもあるのだろう。


たとえばイラクやアフガニスタンやスーダンやソマリアの子供たちの極限状況は、
ちょっと目と耳を開いていれば伝わってくる。
だがバングラデシュの子供たちの受難はよほど積極的に情報を集めようとしない限り入ってこない。
埋もれがちな存在に焦点を当てることは何においても大切だ。
無関係なことは何もないのだから。

ドキュメンタリーものもストーリーものも含め、
ここ数年アジアやアフリカのストリート・チルドレン関係をはじめとして、
子供たちの窮状を描く映画を見る機会に恵まれた。
ぼくの見たものもほんの一部にもかかわらず、
“消耗品”として使い捨てられる子供たちの映画がこれだけ作り続けられていることで現況を想像できる。
『ウイグルからきた少年』もそうだったし、
まったく状況が違うとはいえ日本の『ワカラナイ』も虐げられる子供という点で通じるだろう。

映画でも音楽でもたとえいわゆる政治的なメッセージを含めようが、
権力だの資本主義だのの言葉先行で生活から遊離したものは知的エリートの机上の空論に見えたりもする。
誰もが子供や親の問題から逃れられないし、
家族を絡めることで表現のリアリティを増してフツーの人も実感しやすい。
映画『アリ地獄のような街』も普遍的な問題として外向きの意識で作られている。


『アリ地獄のような街』の英語のタイトルは“The Whirlpool(渦)”。
その真意はわからないが(原題の「Je Shohor Charabali」の意味は不明)、
周囲の農村に住んでいる人々も大都市ダッカという中心に巻き込まれていくというニュアンスだろうか。
少なくても『アリ地獄のような街』という邦題の方は映画の内容を端的に表している。

アリ地獄のような街3
ここには子供たちの搾取の終わり無き連鎖と循環しかない。
親の再婚などに端を発し、
虐待されて、
強姦されて、
捨てられて、
夢を求めて、
刺激的なことを探して、
子供たちは次々と地方からダッカを目指す。
欲で目をギラつかせたオトナたちは“メシのタネ”には困らない。
文字通り右も左もわからず生活する術のない子供たちは簡単に丸め込まれる。

というわけでダッカの“アリ地獄”のシステムはシンプルである。
だから『アリ地獄のような街』の物語もシンプルなのである。

一人でダッカに出てきた男の子と、
ダッカの路上に一人で放り投げ出された女の子。
二人は知り合いではないし顔を合わせることもないが、
同じ元締めの助平オヤジの“餌食”となる。

男の子は、
なけなしの金を落として泣いていた時に声を掛けてきたストリート・チルドレンの紹介で、
元締めの男の“仕事”をすることになる。
何をしているか理解できてないままドラッグを中心にした“やばいブツ”の運び屋になっていく。
かたや女の子の方は家出扱いだからなのかしばらく牢屋に収監されていたが、
元締めの男が身元引取り人となって迎えに来て“売りの仕事”に向けた準備を着々とさせられていく。
その女の子の“仕事上の先輩”で、
恋人の男性がいるにもかかわらず元締めから逃れられない二十歳前後と思われる女性も登場する。

どぎついシーンはあまりない。
家族揃っても見られるようにあえて外したのだろうが、
モロを見せないことでたくさんものを見せることができるのも映画である。

場面を盛り上げたり登場人物の心情を表すためだろうが、
日本のテレビのドキュメンタリー番組やドラマみたいに、
プログラミングによるサウンドと思しき音楽がたびたび挿入される。
そういう音楽を削ぎ落とした形でも見てみたいとも思ったが、
重苦しい雰囲気を和らげたという意味では効果的とも言えよう。

アリ地獄のような街2
元ストリート・チルドレンならではで撮影当時13~14歳ならではの瑞々さが光る主演の男の子をはじめ、
俳優たちひとりひとりの演技が生々しい。
素朴なセリフのひとつひとつはもとより、
声のひとつひとつに命が宿っている。
表情のひとつひとつも雄弁だ。

シュボシシュ・ロイ監督は、
バングラデシュでストリート・チルドレンの支援とメディアを通じた啓発を行う民間活動団体の、
エクマットラ(“みんなが共有できる一本の線”の意)の設立者の一人でもある。
そういう現場感覚で作ったからリアリティの高い映像に仕上がっているのだ。
ストリート~裏通りやボロボロの家屋などのダーク・サイドはもちろんのこと、
鼻を突くほど刺激が強いダッカの街の様々な様子を映し出しているのも説得力十分。
特筆すべき映像力なのである。

ラスト・シーンはNoFutureとも言えるが、
女の子の将来には含みを持たせている。
“新しい命”に希望を託しているのではないだろうか。


●映画『アリ地獄のような街』
79分。
昨年4月に公開されたバングラデシュのみならず日本各地でも上映されており、
4月10日からは東京・渋谷アップリンクで上映される。
自主上映主催者募集中!!とのことだ。
http://www.arijigoku.net/


スポンサーサイト

コメント

こんにちは。
山崎智之さんのブログについてどう思いますか。
山崎さんも映画くわしいですよね。

ナンシ様
書き込みありがとうございます。ただ彼のブログは読んでないので何とも言えないです。

ありがとうございますm(__)m
山崎さんブログ、面白いですよ
おすすめです

あのー

「センセーショナルな政変やポリティカルな暴力的事件のニュースもあまり起こってない」?
バングラデシュ独立戦争でどれだけの血が流されたか知ってます?
それともダッカ日航機事件より前だから知らない?
隅々まで新聞に目を通すわりに勉強不足だね。
あっ、もしかして新聞って東スポ?w

ここ数年あまり起こってないということを言いたかったのですが、言葉足らずで申し訳ありませんでした。

もうやめようよ

バングラデシュ政府は2007年に政情不安のせいで非常事態宣言を出してるし、最近までイスラム過激派組織JMBが爆弾テロを繰り返していた。
「言葉足らず」なんて言い訳はやめて、「知ったかぶりをしていた」と潔く認めたほうがいいですよ。
そもそも政治のことなんて知らないんだから、無理して自分を大きく見せようとしない方がいいのに。

同感です。行川さん、無理せず出来る範囲のことをしましょう。

コメントありがとうございます。今後も精進しながら自分なり吸収/消化してやっていきますので、よろしくお願いします。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/182-1f4f6a3d

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (241)
JOB/WORK (294)
映画 (262)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (43)
METAL/HARDCORE (48)
PUNK/HARDCORE (420)
EXTREME METAL (129)
UNDERGROUND? (99)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (124)
FEMALE SINGER (43)
POPULAR MUSIC (27)
ROCK (83)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん