なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『20センチュリー・ウーマン』

20センチュリー・ウーマン メイン_R


TALKING HEADSBLACK FLAGRAINCOATSSiouxsie and the BANSHEESGERMS
BUZZCOCKS、SUICIDE、DEVO、CLASH、NEU!、
デイヴィッド・ボウイ、ルイ・アームストロング、サンディ・ウィリアムズ、フレッド・アステア、
ベニー・グッドマン、ルディ・ヴァリー
・・・・・・という並びにピン!ときた方はまず間違いない!映画だ。
以上はこの映画の中で使われた曲をやっているアーティテストたちだが、
もちろんこれらの名前を知らない方もいつのまか虜になる佳作である。

1966年カリフォルニア州バークレイ生まれで『人生はビギナーズ』(2010年)で知られる、
マイク・ミルズの監督・脚本による2016年の映画。
自身が育ったLA近郊のサンタバーバラを舞台に、
自分の母親をモデルに親子をはじめとする人間関係を描いている。
実話じゃないとはいえ母親と女きょうだいだけの環境の中で成長していった監督だけに、
実体験も流し込まれていると思われる。
1979年の夏が中心の舞台設定で、
個人的には高校二年でロックに入れ込み始めた頃だし大好きな曲が続々の映画だから当時の感覚が蘇る。
いちいちディーテールに気づいてニンマリするし観ていてこれほど居心地のいい映画は久々だが、
むろんノスタルジーの映画ではなく現在進行形の視点で描いている。

サブ1_convert_20170507145451

進取の精神に富むシングルマザーで55才のドロシアは、
思春期を迎える15歳の息子ジェイミーの教育に悩んでいた。
ある日ドロシアは、
同じ家でルームシェアで暮らす24才の写真家のアビーと、
ジェイミーの幼なじみで夜な夜な泊まりに来る性経験豊富な17才のジュリーという二人の女性に、
息子を助けてやってほしいと頼む。
そこにドロシアの家の同居人で推定45才の元ヒッピーのウィリアムも現れる。

以上が大まかなストーリーで話の流れはわかりやすいが、
家族の問題を含む色々な要素を絡めていて侮れないほど深い。

サブ5

年上の二人の女の子と彼女たちにやさしい男の子のじりじりした関係が楽しい。
映画『青い体験』を思い出すシーンもなくはないが、
必ずしもそういうテーマではない。
主に少年が軸になって物語は進むし、
メインの登場人物の5人全員が主人公とも言えるほど各々のキャラを大切にしつつ、
タイトルどおりに女性がリードしていく映画だからだ。
3人の女性のアティテュードが見どころだが、
言うまでもなくコテコテの男女同権云々とは一線を画し、
写真家のアビーが愛好するRAINCOATSの歌のニュアンスの
シャープで“おっとり”したフェミニズムで描かれている。
ときおり吐き漏らす女性たちの“ドッキリ発言”にもいちいちうなずいてしまうのだ。

監督のリアルな音楽体験にインスパイアされて映画が作られたかのように、
使われている音楽の気持みたいなものが混ざり合っている。
母親が好きなジャズなどのハッピーな色を適宜ブレンドしつつ、
パンク・ロックからポスト・パンクやハードコア・パンクに派生していく1979年という、
微妙な時代の空気感をしっかりと映画化しているところがたまらない。

70年代後半のそういう曲がカリフォルニアの一角でどう捉えられていたかが見えてもくるが、
映画全体がクールで微妙に冷めていて、
特にポスト・パンクの体温そのものの映画である。
スノッブなサブカルのムードとも一線を画しているのは、
この映画の登場人物たちの根が全員パンクだからだ。
たとえBLACK FLAGファンから“ART FAG(アート気取りのカマ野郎)”と侮辱されようが、
スノッブにまでは至ってない。
従来のロックとは一味違うパンク時代ならでは・・・いやパンクというよりは、
ラヴシーンやセックス観も含めて
やっぱり“ポスト・パンクなラヴソング・ムービー!”と言い切りたくなる。

サブ2_convert_20170507145703

当時発売まもないレコードをかけるシーンを含むから
使われている曲が78~79年に音源が発表された曲が多いとはいえ、
アーティストの代表曲というよりは埋もれた名曲がほとんどというのも、
ポップな雰囲気にもかかわらず微妙に渋いこの映画の匂いを象徴している。
落ち着いているが、
さりげなく映画全体のテンポがいい。
三人の女性をはじめとしてシーンによって主人公を変えて描いているから変化に富み、
小気味いい展開なのだ。

詰め込みすぎずに間合いがいいし、
あらゆる点で空間の使い方も映画の手法として特筆したいところだ。
サンサンとビーチを照りつける太陽のイメージとは一味違う、
カリフォルニア郊外をイメージするソフトな色合いの映像美も素敵である。
室内でも屋外ででも光の使い方が素晴らしく、
緑の中で少年少女二人がタバコを吸うシーンなんて絶品だ。

サブ4_convert_20170507145751

この親子を取り巻く人たちは“新型の家族”にも見えるつながりだが、
ファミリーにしてはゆるくて自由があってクールな透き間がとても居心地がいい。
聴き馴染みのないBLACK FLAGとTALKING HEADSのレコードで母親とオッサンが妙なダンスをするなど、
微笑ましくてまったりなごめる。

女と男と女と男と女の関係も含めて、お互いの距離感がこの映画の肝だろう。
息子の助けを頼まれた女の子二人が色々と“痛み”を抱えて母親との絆がイマイチということで、
母と子の関係もテーマの一つとして盛り込まれている。

子離れできていないのか親離れできていないのか相思相愛なのか僕からは言えないが、
「私のようになってほしくない」「しあわせになってほしい」と母親は言い、
「(二人の女の子に世話させていたけど)でも母さんがいればいい」
「父さんと愛し合っていた?」と息子は母に訊く。
さりげない会話の妙味も楽しめる。
書物からの引用も多いようだが、
「セックスしたら友情は終わり。このままがいいの」といった類いのセリフもひっくるめて、
格言みたいな言葉がさりげなく頻発しているのも面白い。
もちろん子供っぽいジョークに逃げることなく穏やかな緊張感に貫かれている。
いい意味でみんな大人なのだ。

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メインの登場人物5人の中で話がほとんど完結しているが、
世界的な物語を展開しているわけでもないのに
“自分の半径30センチ以内”の意識ではなく視野が普遍的である。
それぞれの人間模様をていねいに描いているし
みんなチャーミングな演技で惚れ惚れする。
特に息子の世話を母親から頼まれた強気の写真家と小悪魔な幼馴染の女の子二人は、
ほんと愛おしい。

甘酸っぱくてほろ苦い体験の描き方が旨くてとろける。
これが実体験だとしたら監督に嫉妬するし、
これほど心地良いジェラシーを覚えた映画は初めてだ。

観ていくうちに未来が開ける光がまばゆいジューシーな映画。
オススメ。


★映画『20センチュリー・ウーマン』
2016年/アメリカ/119分
6月3日(土)丸の内ピカデリー/新宿ピカデリーほか全国公開。
(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ロングライド
www.20cw.net

サブ6_convert_20170507145816

参考までに映画に使われている曲を書いておく。
サントラ盤には未収録のBLACK FLAGなどの曲も含めてある。

ロジャー・ニール(映画音楽作曲家)「Santa Barbara」「Modern People」「All Of My Objects」
「Everything On Television」「The Politics of Orgasm」
ルイ・アームストロング「Basin Street Blues」
デイヴィッド・ボウイ「DJ」
サンディ・ウィリアムズ「After Hours On Dream Street」
フレッド・アステア「This Heart Of Mine」
TAKING HEADS「Don't Worry About The Government」「The Big Country」「Drugs」
RAINCOATS「Fairytale In The Supermarket」
Siouxsie and the BANSHEES「Love In A Void」
Benny Goodman and His ORCHESTRA「In A Sentimental Mood」
GERMS「Media Blitz」
SUICIDE「Cheree」
DEVO「Gut Feeling (Slap Your Mammy)」
Rudy Vallee & His CONNETICUT YANKEES「As Time Goes By」
BUZZCOCKS「Why Can't I Touch It?」
Lars Clutterham「Chant D'Amour」
CLASH「White Man (In Hammersmith Palais)」
Phlask「Vag Punch」
NEU!「Lila Engel (Lilac Angel)」
Brick Fleagle (Roger Jacob Fleagle)「So Blue Love」
BLACK FLAG「Nervous Breakdown」


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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